第十話 荒れる評議会
トウガが唾を飛ばしながら叫ぶ。
「馬鹿か!ウララ陛下は立派にご成長なされた!
この評議会は解散し、親政を開始いただくべきだ!」
いつも通り、シズクが冷静に反対する。
こうして、トウガとシズクの言い争いが始まった。
「駄目だ。まだウララ陛下はお若い。
政治的な判断に迷われることもあるだろう。」
「だったら顧問制の親政にして差し上げればよい!
我らがお支えすればいいのだ!」
「それならば今と何も変わらない。
それどころか、何か失政でも行ってしまえば、若きウララ陛下に傷をつけることになる。
トウガ、落ち着け。
私は何も陛下の親政自体に反対しているわけではない。
まだお若いので、もう少し我らで成長を見守ろうと言っているのだ。」
「馬鹿をいうな!
お前はそうやって時間を稼ぎ、その間に少しずつ権限の移譲を密かに進めているではないか!
そのうちに陛下に政権をお返ししたところで、何もできない飾りになってしまう!」
「違うぞ。お前は誤解している。
きちんと議論して決定しているのだ。
それに私が権限移譲によって分散させているのは、大して重要でないものばかりだ。
本来、君主が全てを裁く必要などない。
任せられるものは下に任せる、それが組織としての正常な姿だ。」
「言っていることはわかる!
お前が正しい部分があることもな。
だがお前のことだ!巧みにそうでないものまで分散させてしまう!」
「馬鹿馬鹿しいな。
もしそうであれば、お前やラートリー、ジジが反対するだけだ。
何も問題なんてあるまい。」
「そうだ!問題はない!だがお前は油断ならん!」
さすがにラートリーが見苦しくなって割って入る。
「トウガ殿、感情で物事を語るな。
では親政移行について審議する。いいな?」
真っ先にシズクとシノが表明する。
「反対」
「反対」
続いて、トウガとジジが続いた。
「賛成」
「賛成」
そして最後に、ラートリーが自分の意見を言った。
「反対」
トウガが身を乗り出して責め立てる。
「おい!ラートリー!お前もシズク派か!」
ラートリーが面倒くさそうに答える。
「違う。私は客観的に見て、反対しただけだ。シズク殿の思惑など知らん。」
納得のいかないトウガは、その熱をそのままに食い下がる。
「じゃあ、なぜだ!?」
ラートリーはわざと一呼吸置いて、トウガを落ち着かせようとするが、無駄だった。仕方なくそのまま続ける。
「考えてもみろ。
卿はこの状況で、陛下が親政を開始しても良いとでも?
それこそシズク殿が言うように失政をおかすかもしれない。
五大将がまとまっていない以上、陛下が正しいご判断を下せない恐れがある。」
何かに気づいたトウガが歯をむき出してシズクを睨む。
だがシズクは涼しげに返した。
「ラートリー、失礼なことを言うな!
それは私が故意に陛下の足を引っ張るとでも言いたいのか?」
ラートリーも冷静に、そして嫌味を込めて応じる。
「いや、私はそうは言っていない。なぜ、そう感じた?
もし卿がそう邪推するのであれば、それは卿自身が実際にそう企んでいると自覚しているということだが?」
さすがに腹が立ったシズクが少し声を荒げて反論する。
「小賢しい理屈をこねるな。
私はお前の性格を想定して言っただけだ。
私の忠義は一切曇ってはいない。そんなことはあり得ない。
不愉快な奴だな、もういい。否決で良いのだな?」
目を剥いて睨むトウガを無視して、ラートリーが静かに締めた。
「ああ、そうだ。否決だ。
今日の議題はこれまでだ。解散とする。
15時には議事録を公開する。各々、確認してくれ。」
評議会は散会し、シズクとシノが退出した。
その後、ラートリーも続いた。
トウガとジジの二人が会議室に取り残された。
実際のところ、トウガの懸念は間違いではなかった。
シズクによって皇帝の権限は法的に制限を加えられつつある。
これはラートリーもその必要性を感じており、両者の利害が一致しているに過ぎない。
シズク、シノ、ラートリーの思惑によって、このまま時が経てば経つほど、ウララが親政を開始した際に、やりづらさが増すだろう。
トウガの焦りは、決して間違ってはいなかったのだ。
席に座ったまま、顔を紅潮させて我慢するトウガを、ジジは静かに見守っていた。
そして、何かを決心したかのように、彼はそっと目を閉じた。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
この辺から、ちょっと難しくなりますよねー。わーわーぎゃーぎゃー言ってるように見えますけど、ちゃんと裏があるんですよ!
簡単に言うと、シズクさんは頭が良すぎるので、「真っ当なこと」を言ってるフリをして、ウララ女帝の権力を法改定で少しずつ奪っています。
しれーっと、わかりにくーく。
そして、もし誰かに突っ込まれても、正論で返して、言い負かしちゃうんです。
でも、トウガさんも普通の脳筋じゃないんですよ!彼は英雄Lv50です。
だから、シズクさんの悪だくみにはうすうす気づいているんですけど、頭脳SS級のシズクさんに、理屈で言いくるめられちゃうんです!
トウガさんとしては、ウララ女帝に主導権を渡したい!って思ってるのに、シズクさんやラートリーさんに「まだ早い」と上手いこと言われて、なかなか進まない、という感じです。
そんな中、Lv10だけど、元々頭脳がS以上の潜在能力を持つジジさんが、「これはマズイ!」って思ってるシーンなんです。
どうですか?裏の背景、分かってもらえましたか?
この背景を知ってから、もう一度本文を読むと、きっと「なるほど!」ってなりますよ!
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あとがき
単なる意見の対立ではなく、忠義・野心・冷静・皮肉が交錯する“言葉の戦場”。
「評議会はもはや統治機関ではなく、権力闘争の舞台になった」と感じていただけたでしょうか?
若き英雄ジジが最後に決心した何か、推理できましたでしょうか?
感想やご意見、評価、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。
前話を忘れた方向けの振り返り一コマ
(私の物語はタイトル詐欺と言われます。なので振り返り詐欺も追加で)