第一話 ニャニャーン神聖帝国 先駆文明を喰らう
無数の光点が瞬く宙域を睨み、第4艦隊提督ラートリーは旗艦〈ニャンフューメルン〉の艦橋で顎を撫でた。
ぴくりと動いた彼の緑のネコ耳が、微かな緊張を伝えている。
「ふ……歴史が変わるか、終わるか。さて、どちらだ?」
銀河最古の文明、先駆文明が誇る懲罰艦隊--通称、神罰の艦隊。
それが今、この宙域に浮かんでいる。
ニャニャーン神聖帝国が、自ら牙を剥いた相手だった。
迎え撃つは、帝国が誇る五人の英雄。
そしてその一人が、この艦橋を預かるラートリー・ヴァーダント侯爵(26歳)である。
「総員!戦闘開始!全艦、宙域122に向けて一斉射撃!撃てぇ!!」
一糸乱れぬ動きで、第4艦隊から高出力のX線レーザー砲、宙間魚雷、レールガンが一斉に放たれた。
間髪入れずにラートリーが叫ぶ。
「第二射、宙域124に向けて撃てぇ!! 続けて宙域23まで全速前進、遅れるなぁ!!」
艦隊は即座に前進し、宙域122・124で無数の小さな爆発光が閃く。
その直後、極大のビーム砲が今いた場所を貫いた。
もし留まっていれば、数隻は蒸発していただろう。
先駆文明の技術力は圧倒的で、全力のシールドを張った弩級戦艦であろうともこの一撃を受ければ蒸発は免れない。
それほど、技術力の差は埋まっていない。
涼しげな顔をして、宙域情報を睨む彼の頬を、一筋の汗が伝った。
天才的な軍略で伯爵から侯爵へ昇り詰めた彼でさえ、この戦いには汗をかくほどの緊張を覚えていた。
かつて爬虫類星人との戦争で、たった一艦隊で敵三艦隊を打ち破った立役者。
その実力はニャニャーン神聖帝国の躍進を支えたが、皇族ではない彼は、常に一線退いた立場を守っている。
「第5艦隊シノ提督から通電!
レーザーは敵シールドにより完全に遮断!
実体弾は敵装甲にダメージ確認、ただし、すぐに傷が塞がっていく模様!
敵は回避すらしません!」
「くっ、ナノマシンか?それとも生体金属か?
また化け物じみたものを!
王者の貫禄のつもりか?それが奴らの誇りであり、同時に最大の隙だ。」
ラートリーの独り言に割り込むように、突如モニタにシノが現れる。
「ラートリー様!実弾は効きます!引き続き継続してください!」
それだけ言うと通信を切った。
「シノめ、勝手なことを。全艦、宙域124に撃て!」
その頃、別宙域で待機していた第5艦隊の旗艦〈ニャンスワル〉では、黒髪の提督シノ・アンバー辺境伯(21歳)が冷静に戦況を分析していた。彼女は平民出身ゆえに常に偏見の目に晒されてきたが、太古の戦術書をすべて読破した天才戦術家だ。
「シノ提督、敵が射程に入りました!撃ちますか?」
「まだだ!全艦、狙いを定めて指示を待て!」
敵がこちらに狙いを定めた、その瞬間。
シノの叫びが艦内に響く。
「撃てぇ!」
敵艦からも、未知のビーム砲が発射されようとしていた。
だがその刹那、背後から放たれた多数のレーザーや実弾兵器が、神罰の艦隊に襲いかかった。
それはラートリーの第4艦隊が放った援護射撃だった。
レーザーは光り輝くシールドに弾かれるが、実弾兵器は命中した箇所に爆炎を上げ、確かに大穴を開ける。
徐々にその穴が塞がっていくが、命中の衝撃で敵の攻撃体勢がわずかにずれた。
その影響で、敵の攻撃はシノの艦隊をかすめて通り過ぎた。
シノの艦隊が放った実弾兵器がその一瞬の隙をついて追撃し、塞がりつつある敵装甲を抜け、敵艦の中央に到達、閃光とともに爆散した。
宙域122には、ラートリーとシノの連携によって複数の爆発が起きた。
「倒せる!」
シノが興奮気味に叫ぶ。
「敵、宙域124に向けて回頭、第4艦隊に狙いを定めています!」
「追え!また追撃を狙う!」
ラートリーが敵を引きつけ、装甲を破り、その度にシノがとどめを刺す。
言葉を交わさない連携が見事に成立した。
ラートリーの第4艦隊は敵の攻撃を先読みし、全て間一髪で回避した。
神業にして、まさに魂を削る盤上の読み合い。
「提督、お見事です」
参謀長が声を漏らす。ラートリーは一瞥し、冷静に命じる。
「全艦、宙域125に回頭。
移動可能な状態でミサイル装填。
ふっ……戦術とは常に二手三手先を読むものだ。
そうでなければ、提督にはなれんぞ。ミサイル!撃てっ!」
爆音と閃光が宙域を染める。
ラートリーは艦橋のスクリーンを指差す。
「見ろ、あそこにいるのは第5艦隊のシノだ。
平民出ながら、よくやる。
奴の布陣を見てみろ、まるで戦術教本の挿絵のように、整然とした動きだ。
俺がかき乱した後に、完璧に便乗してきているぞ。
見事な追撃だとは思わんか?
撃破の功績全てを、掻っ攫っている。
貪欲な奴だ。はっははは。お前も見習ったらどうだ?」
平民出のシノを認めていない、参謀長の顔が曇る。
「宙域125に一斉斉射!連続で撃ち込め!
3射後、宙域22まで高速移動!遅れるな!
とどめはシノに任せればよい!勝たねば意味がないからな!」
ラートリーの援護を受け、シノは冷静に戦場を制圧していく。
一定の戦果を挙げ、ラートリーは戦場の中央を見つめた。
(……どうだ?随分掻き乱したぞ。
さぁ、トウガ、シズク、お前達の出番だ。いけるか?
この戦い、長引けば負けるのは我らぞ?)
その頃、別の宙域では、神聖女帝ココの先々代皇帝の娘を母に持つ皇族、青髪の提督シズク・アジュール女公(19歳)が、まるで一匹の龍のように、縦横無尽に宙域を駆け、敵を翻弄していた。
幼少期から政治の闇を見て将官の道を選んだ彼女の指揮は、帝国随一とさえ言われていた。
「左翼っ!右舷スラスター全開!避けろぉ!」
旗艦〈メルエルニャ〉で、シズクが汗を滲ませながら叫んだ。
号令と同時に左翼隊の全艦が一斉に乱れなく左へ回避、そこに敵攻撃艦からのガンマ線レーザーが雨のように降り注いだ。
神聖帝国のX線レーザーよりも波長が短いガンマ線レーザーは、恐るべき攻撃力で、神聖帝国のシールドを貫通し、装甲を破壊する。
一発でも当たれば、即座に沈む危険があった。
避けきった後、すぐさま隊列を戻し、一切の乱れも生じない。
シズクの瞬発的な判断力とそれに応える兵士達の練度は帝国最強と言っても過言ではない。
至近距離での先駆攻撃艦との撃ち合いでここまで被害を抑えられているのは第一艦隊以外ではなしえなかっただろう。
そして、機雷原、小惑星、惑星の引力、ラートリーの援護射撃--使えるものはすべて使い、旗艦の前を守る攻撃艦5隻が、遂に第1艦隊の猛攻によって沈んだ。
シズクは額の汗を払い、トウガに向けて叫んだ。
「やっとか!!トウガ、頼んだわ!しくじるなよ!」
その時、ココの従姉妹を妻に持つ皇族待遇の猛将、赤髪の提督トウガ・クリムゾン公爵(25歳)が叫んだ。
三代にわたって宇宙軍大将を輩出する名家の当主であり、その中でも過去最高の逸材と謳われた男だ。
「慌てるな、慌てたところで当たったら終わりだ。
恐れたところでどうにもならん。勇気を出して突き進め!!
よし、全艦射程に到達。
一斉射撃!シールドなんかに出力を回すな!
全力攻撃だ! 全弾、撃ち尽くせ!!」
第2艦隊が捨て身で敵旗艦に突撃。至近距離から100隻超が一隻に全弾連射した。
その間にも敵旗艦の主砲を浴び、一度に数隻が吹き飛んでいった。
トウガの隣にいた弩級戦艦が正面から最後尾まで貫通する重粒子ビームで撃ち抜かれ爆発した。もはやシールドや追加装甲は全く意味をなさない。
その衝撃で旗艦〈トゥルフニャッド〉も激しく揺れて、仁王立ちするトウガも揺さぶられ、壁に頭を打ち付けた。
すぐに立ち上がったトウガの額から血が滴る。
「ひるむな!撃ち尽くせ!!」
その怒号に励まされ全艦集中砲火を浴びせる。
そして傷つけることは不可能とさえ思われた敵旗艦に弾頭が到達して、爆炎が多数あがった。
「今だ!!畳みかけろ!!」
その頃にはシズクの第一艦隊からも猛攻が加わる。
「待たせた、トウガ!加勢する!」
さらに上方からもう1艦隊、第5艦隊が駆け付けて、全力攻撃を浴びせた。
「トウガ様。援護します!」
トウガの通信モニタにシノが笑顔で現れた。
「しっシノ! お前、敵両翼はいいのか?」
「ええ、ラートリー様を見捨ててトウガ様に走りました。
……なんて、冗談です。両翼は片付きました。」
一瞬目を丸くしたトウガは、すぐにいつもの厳しい表情に戻り、敵を睨みつけた。
外縁部の敵両翼艦隊を相手にしていたラートリーは、交戦中だった。
「・・・シノは敵旗艦に向かったか。
あちらの方が勲功が高いと踏んだか。
私にこの両翼艦隊を押し付けてきたな。計算高い奴だ。」
ラートリーの参謀長が不安げに見つめる。
「心配するな。ここまで減らせば我々だけでもやれる。
それにな・・・勲功など、どうでもよいのだ。
コルベット隊、敵撃破艦のデブリ回収に向かえ。
それこそが宝の山だ。どんなものでも回収しろ。
残りの隊は私に続け!
大掃除だ。多少は功績もあげねばな!」
ラートリーの第4艦隊が流れるように鉾矢の隊形へ組みかえて敵両翼残存部隊に突撃を開始した。
敵旗艦はトウガ、シズク、シノの3艦隊300隻を超える総攻撃を耐え続けていた。
それでいて旗艦から放たれる主砲は一撃で各艦隊数隻ずつ吹き飛ばしていく。
だが遂に敵装甲の回復を上回る打撃を与えることに成功した。
各艦隊からの一斉射撃がその傷を直撃する。
遂に不沈艦、先駆旗艦が沈黙した。
「や……やりました……」
第3艦隊の旗艦〈メルクゥニャム〉に設けられた臨時の玉座で、神聖女帝ココは目を丸くして呟いた。
立ち上がった座席には、緊張と熱気で滲んだ汗が残っていた。
艦橋のスクリーンには、火花を散らして沈黙する先駆文明の旗艦。
銀河最古の文明が誇る“不沈艦”が、ニャニャーン神聖帝国の猛攻により沈黙した。
「……信じられない。あの先駆艦隊が……」
傍らに立つ提督、ノアール・オブジディアン侯爵(46歳)は静かに頷いた。
かつて“帝国の盾”と呼ばれ、今は女帝を守るため、この第3艦隊を率いる男だ。
「女帝陛下。これは、ただの勝利ではありません。
これは……奇跡です」
ココはスクリーンを見つめながら、ゆっくりと頷いた。
千年に一度の奇跡。
ニャニャーン神聖帝国が先駆文明に戦争を仕掛けた理由。
それは、帝国に**“千年に一度の奇跡”**が訪れていたからだ。
シズク・アジュール、トウガ・クリムゾン、ノアール・オブジディアン、ラートリー・ヴァーダント、シノ・アンバー。
この五人は、別の時代・別の場所で生まれていたなら、誰もが皇帝になり得たと評される稀代の英雄たち。
そして彼らを束ねる存在こそが、神聖女帝ココ(27歳)。
そのカリスマ性は、銀河の常識を覆すほどの力を持っていた。
それこそが千年に一度の奇跡を表す真の意味。
帝国は200年もの間、先駆文明に侮られ、従い続けてきた。
技術力の差は埋まらず、戦えば滅びると誰もが思っていた。
だが今、五人の英雄と一人の女帝が揃ったことで、銀河の運命が変わった。
ラートリーの奇策。
シノの冷静な追撃。
シズクの縦横無尽の指揮。
トウガの捨て身の突撃。
そしてノアールの盤石の守り。
それぞれが持ち場で限界を超え、先駆文明の懲罰艦隊を打ち破った。
「……これが、我らの帝国の力」
ココは静かに呟いた。その瞳には、恐れではなく確信が宿っていた。
「この五人が揃った時、私は知っていた。この銀河に、奇跡が顕れると」
艦橋に沈黙が訪れる。誰もが、今起きたことの意味を理解しようとしていた。
そして、物語は始まる。
地球人によく似た第二の耳--ネコ耳を持つ不老長若の種族「ニャーン」によって築かれた軍国国家、ニャニャーン神聖帝国。
彼らは20歳頃から老化が止まり、60歳を過ぎると急激に老いる。
その若さと好戦性を武器に、200年前にFTLドライブを発明し、銀河へと進出した。
神聖皇帝、女帝による統治。
貴族による政治。艦隊提督は公爵などの爵位を兼任し、政治的発言力も持つ。
その帝国が、銀河最古の文明に牙を剥いた。
他の銀河星間列国は、ニャニャーン神聖帝国の消滅を確信していた。
だが、それが今--
千年に一度の奇跡が、ここに顕れた。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい、初めまして。 作者子ちゃんと申します。
このお話、転生ともチートとも関係ないやつなので、ラノベにしてはちょっと難しいかも。
なので、簡単に説明するコーナーです。
これから毎話、難しいところを、ワタクシ作者子ちゃんが簡単に解説します。
仲良くしてね。
…… 硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
はい、今回の舞台はニャニャーン神聖帝国、ネコ耳の王国です!
ネコって可愛いですよね!
……っと、話がずれました。
今回は、銀河一の凄い敵と戦っていたんです。
それを、ただのネコ耳たちが迎え撃つ。
例えるなら、蟻の群れがネコに挑むようなもの。普通は勝てませんよね?
でも、勝てたんです!
なぜかっていうと、凄腕の五人の英雄と、凄まじいカリスマを持つ一人の女王様がいたから!
登場人物が一気に出てきて混乱しますよねー、作者子ちゃんもそう思います。
それに結構長々と戦闘シーンがありますよね! 読み疲れました??
複雑でよくわからなかったからあまり理解できてないやって読者も大丈夫!
このエピソード、ゲームのタイトル画面のムービーです!
美男美女の色んな主人公が戦闘中にカットインで差し込まれて、なんかすげー! ってなりますよね?
あれです。 物語の開始前なんです。そんな重要じゃないですよ!流し見てオッケー!
ゲームでも、タイトルムービー見て、こいつは●●にちがいねぇ!
なんてこの時点では思いませんよね!なんかすごいのが出てきそうだなくらいかな??
ここでは、こいつらのことを「サイコパス五人衆」とだけ覚えておけばOKです!
詳細はこれから始まる物語を読みながら、ゆっくりと知っていってくださいね。
……濃い奴らだから、読み進めたら嫌でも頭に残りそうです。
ほら、長く感じたかもしれませんが、覚えることはたったこれだけ!
要は、すごい5人がずばばーってやって、ずどどーってなって、わーい!
…ってところから、物語は始まります。
こんな感じで本編の大事な所は作者子ちゃんが皆さんにお伝えするので軽い気持ちで読んでみてください。
それでは皆さん、いってらっしゃい!
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あとがき
第一話、読了ありがとうございます。
ニャニャーン神聖帝国の全盛期に起きたこの物語。
これから混迷や悲劇が続き、ニャーン達はそれでも前に進んでいきます。
決して思い通りには進んでくれないと思います。
ですが、必ず最後に救いがある。
読み疲れする物語ではありますが、最後までお付き合いいただければ
幸いです。
第十話あたりから知的でドス黒い知略合戦が連続します。
状況が二転三転し、なかなか先読みが難しいかと思います。
伏線も多数仕掛けてあります。
最後まで立っているのは誰か
ぜひ先読みに挑戦してみてください。
2章以降、政争、心理戦が激しくなります。
もし迷われましたら、そこまでお付き合い願います。




