第一話 ニャニャーン神聖帝国 先駆文明を喰らう
とある銀河の物語。
この銀河には地球人によく似た第二の耳ーネコ耳を持つ種族
-- ニャーンがいる。
彼らは種として不老長若で25歳頃で老化が止まり60歳頃から急激に老けて老衰する。
若さを長く保つ種族ゆえに活力があり、無邪気で好戦的な彼らは200年前、FTLドライブを発明し
母星系から外宇宙に旅立って以降、その勢力を大きく拡大して今では銀河有数の大国の一つとなった。
その彼らの帝国は「ニャニャーン神聖帝国」という。
神聖皇帝、女帝が統治者となり、貴族制を敷いた軍国主義国家である。この国には政治家は存在せず貴族が政治を行う。
上級貴族は広大な領地を持っていて世襲も行われる。
帝国が持つ強大な宇宙艦隊は多数存在し、艦隊提督は大抵公爵、侯爵位を兼任しており、政治的な発言力も高い。
ニャーン銀河歴211年 ニャニャーン神聖帝国、時の神聖女帝 ココは今、無謀とも言える戦闘に挑んでいた。
敵は先駆文明、ニャーン達が銀河に進出する数万年前から銀河を支配し、今や全てにおいて興味を失ってしまった停滞国家ではあるが、彼らは規格外の超技術の艦隊をもって、彼らに歯向かう者達に懲罰という名の戦争をしかけることがある。
彼らの放つ未知の高出力砲は、後進国家の艦隊をシールドごと蒸発させる。また彼らの放つ惑星軌道上攻撃は懲罰対象の首都星をひと月で焦土に変える。
後進国家は彼らを半ば神のように扱い、静かに敬っていた。
もちろんニャニャーン神聖帝国もこの200年、彼らに侮られた屈辱を胸にしまい、軍備を整え、技術開発を行いつつも従ってきた。
200年の歳月をもってしても彼らの技術力は圧倒的であり、おそらくニャニャーン神聖帝国の弩級戦艦も
直撃を受ければ変わらず蒸発の憂き目に遭うだろう。それほど技術力の差は埋まっていなかった。
その彼らに自ら戦争をしかけたニャニャーン神聖帝国は銀河から消え失せるものだと他の星系国家は考えた。
遂にニャニャーン艦隊は国境付近の星系で懲罰艦隊と対峙した。
第4艦隊 旗艦 ニャンフューメルン
緑髪の提督 ラートリーは顎を撫でながら少し鼻で笑うと呟いた。
「ふ……歴史が変わるか、終わるか。さて、どちらだ?」
「総員!戦闘開始!全艦 宙域122に向けて一斉射撃!撃てぇ!!!」
一糸乱れぬ動きで第4艦隊から高出力のビーム砲が一斉に放たれる、間髪入れずにラートリーが叫ぶ。
「第二射、宙域124に向けて撃てぇ!! 続けて23宙域まで全速前進、遅れるなぁ!!」
指示通りに二射目を放つと全艦即座に前進し、その場を離れる。
移動中、宙域122、124で立て続けに爆発光がいくつか光る。そしてそのすぐ後 --
今までいた場所に極大のビーム砲が通過する。
おそらく巻き込まれていたら数隻の戦艦は一瞬で蒸発しただろう。
「提督、お見事です。」
そう語り掛ける参謀長に向けてラートリーは一瞥する。
「全艦移動後に宙域125に向けて回頭、移動できるようにしつつ、ミサイル、装填!
ふっ・・戦術とは常に2手3手先を読め。そうしないといつまで立っても提督にはなれんぞ。
ミサイル発射!!撃てっ!!
見ろ、あそこにいるのは第5艦隊のシノだ。あいつは平民出のくせによくやる。俺がかき乱した後に
完璧に便乗してきているぞ。見事なまでの追撃だ。お前も見習ったらどうだ?」
参謀長の顔が曇る。
第5艦隊 黒髪の提督シノ・アンバー辺境伯
平民出身ゆえ、常に偏見の目に晒されていた。だが彼女の戦略・戦術は太古から続く戦術書を
全て読破し身に着けたもので、いかなる状況下でも最適な戦術を繰り出し、無敗を誇った。
かつてニャニャーン神聖帝国と並ぶ大国との衝突時に当時第12艦隊司令だったシノは貧弱な艦隊を率いて敵主力艦隊の名将と謳われたモーグ提督を討ち取り、その功で辺境伯と第5艦隊提督の地位を手に入れた。
主力艦隊提督を平民が・・・。
参謀長のように生まれながらの貴族にとっては彼女の存在は苛立たしいことに違いなかった。
「宙域125に一斉斉射、全力で連続で撃ち込め。3射後、全艦宙域22まで高速移動!遅れるな!!」
「・・・・。(どうだ?随分掻き乱したぞ。さぁ、トウガ、シズク、いけるか?この戦い、長引けば負けるのは我らぞ?)」
緑髪のラートリー・ヴァーダント侯爵。
自身は伯爵家の出ではあるが、天才的な軍略により現在は侯爵位を受けている。かつて爬虫類星人との戦争時に彼が率いる第4艦隊は、その捉えどころのない画期的な戦術により、1艦隊で敵3艦隊を打ち破る快挙をなした。
皇族ではないため、一歩引いた立場にいるが、彼の実力はニャニャーン神聖帝国の躍進の一つと言っても過言ではない。
その彼に託された二人が最前線で敵攻撃艦と激戦を繰り広げていた。
青髪の提督 シズク・アジュール女公、神聖女帝ココの先々代皇帝の娘を母に持つ皇族、自身も帝位継承権8位に連なる公爵家の当主である。
どす黒い政治の世界を幼いころから見ていたため、当主でありながら将官の道を選んだ。だがそれは大正解で彼女の才はまさに提督として輝いた。
第1艦隊 旗艦 メルエルニャ、彼女はそこで声を枯らさんばかりに、指示を飛ばしている。
彼女の指揮能力は帝国随一。まるで一匹の蛇のように、縦横無尽に宙域を駆け、敵を翻弄する。
また機雷原、小惑星、惑星の引力、ラートリーの援護射撃、使えるものはなんでも使い敵にぶつけた。
主力艦はラートリー達によって引き剥がされたとはいえ、旗艦を守る中央部の攻撃艦は1隻1隻がニャニャーンの弩級戦艦を性能的に遥かに凌駕し、シールドを削られながらも紙一重でかわして敵の布陣を乱した。
ラートリーとシノの外からの援護を最大限に生かしつつ、シズクの猛攻が続く。
旗艦の前を守る攻撃艦5隻が遂に第1艦隊の全力の攻撃で沈んだ。
「やっとか!!トウガ、頼んだわ!しくじるなよ!」
シズクは額の汗を払いトウガに向けて通信した。
第1艦隊のサポートに徹して力を温存していた第2艦隊はすぐさま敵旗艦に向けて突撃する。
赤髪の提督 トウガ・クリムゾン公爵、ココの従姉妹を妻に娶っている皇族の一員。公爵家の当主であるが、クリムゾン家は3代にわたって宇宙軍大将として主力艦隊提督を務めた名家でもあり、彼はその中でも過去最高の逸材と謳われた猛将である。
第2艦隊 旗艦 トゥルフニャッド
トウガは大きく目を見開き、敵旗艦への突撃を命じた。敵旗艦の主砲は1発でシールドを貫通し
自軍の戦艦が撃ち抜かれて撃沈していく。
「慌てるな、慌てたところで当たったら終わりだ。恐れたところでどうにもならん、勇気をだして突き進め!!
よし、全艦射程に到達、一斉射撃!!!シールドなんかに出力を回すなよ。全力攻撃だ!全弾、撃ち尽くせ!!」
高火力で鳴る第2艦隊が捨て身で敵懐に入り込み至近距離からの敵旗艦に向けて一斉射撃を浴びせた。
艦隊内の100隻超がたった一隻に全弾連射する。その間に1隻また1隻と蒸発させられるが、遂に旗艦のシールドを
打ち破り、一斉攻撃が敵旗艦に命中した。不沈艦と言われた先駆旗艦が遂に沈黙し、火花を散らした。
「や・・やりました。。。。」
第3艦隊 旗艦 メルクゥニャムに臨時で作られた玉座に座る女帝ココは
目を丸めて呟いた。立ち上がった後の座席は汗でしっとりと濡れていた。
第3艦隊は黒髭の提督 ノアール・オブジディアン侯爵が率いている。
彼はかつての第1艦隊提督であり、軍務大臣を何代も輩出する名門侯爵家の出である。トウガ達が台頭する前は「帝国の盾」という尊称を持ち、ニャニャーン神聖帝国の守護神ともいえる存在だった。
その彼は神聖女帝を守るため、一歩引いた位置から万全の態勢で守りを固めていた。
ニャニャーン神聖帝国が先駆文明に戦争を仕掛けた理由、それは神聖帝国に千年に一度の奇跡が訪れていたからだ。
シズク、トウガ、ノアール、ラートリー、シノ。
この5人は別の時代、別の場所で生まれたら全員が皇帝になりうる力量を持つと言われる稀代の英雄だ。
そして千年に一度の根拠ともなるその5人を束ねる超カリスマの存在、神聖女帝ココの存在があった。
この5人をもってして、圧倒的な技術力の差を覆した。まさに--
千年に一度の奇跡が、ここに顕れた。
第一話、読了ありがとうございます。
ニャニャーン神聖帝国の全盛期に起きたこの物語。
これから混迷や悲劇が続き、ニャーン達はそれでも前に進んでいきます。
決して思い通りには進んでくれないと思います。
ですが、必ず最後に救いがある。
読み疲れする物語ではありますが、最後までお付き合いいただければ
幸いです。
第十話あたりから知的でドス黒い知略合戦が連続します。
状況が二転三転し、なかなか先読みが難しいかと思います。
伏線も多数仕掛けてあります。
最後まで立っているのは誰か
ぜひ先読みに挑戦してみてください。
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本作は政治の頂点で繰り広げられる息詰まるお話です。
読み疲れたらこちら。
本来のニャーン達の日常から、ギャグ、シリアスまでの
疲れない話がここにあります。
ニャニャーン番外短編集(不定期更新)
https://ncode.syosetu.com/n2769kx/