第三幕(三)
そこに、白い髭に白い髪の老人が、船を漕いでやってまいりました。眼鏡をかけてフライドチキンを売っているお爺さんではございません。
「諦めろ! 亡者どもめ! 天国には行けぬわ! わしが闇の世界に送ってやるわ!」
「おお、やたらエクスクラメーションマークを付けた爺さんがやってきますよ」
「おい! そこのおまえ! 生きているな! ここから立ち去れ!」
「立ち去れって言われてもね、それができれば、そうしてますよ」
ダンテさんが愚痴っておりますと、ウェリギリウスさんが老人に話しかけております。
「カローンさんよ、そんなに怒るな」
知り合いのようでございます。
カローンさん、ウェリギリウスさんには逆らえないのか、静かになりました。
しかし、カローンさんは、目を真っ赤に燃やして、明らかに、まだ怒っております。腹いせでしょうか、岸辺の亡者どもを船に乗せ、遅れる亡者は櫂で叩くは、途中で川に落とすわで、当たり散らされた亡者は、堪ったもんではありません。
ええいと、船に乗せた亡者を向こう岸に放り出すと、また戻ってきては、大勢集まっている亡者を再び船に乗せていきます。
「年寄りにこんな激務させるか! なんたるブラック企業じゃ! わしも借金さえなければ! 完済の暁には辞めてやるわ!」
お察しのとおり、カーローンが残っております。
「この川は、善行ある者は渡れぬそうだ。ダンテさんは、どうであろう」
「あっしは、そりゃもう善行の塊ですから、もち渡れませんよ。カヴァルカンティくんから『ダンテさんは、善行が服着て歩いているようなもんだね』と逢うたび言われるくらいですから。渡れませんから、引き返しましょ」
と、ダンテさんが、向きを変えたそのとき、地面がガタガタッと揺れて、雷鳴がゴロゴロッと響き渡ります。
そう遠くもない場所に雷が落ち、亡者が火だるまになっております。また、落ちては亡者がボッと燃えて、落ちてはボッと燃え、落ちてはボッ、亡者がボッ。
「ウェルさん、雷がこっちに来ますよ、逃げましょう」
そう言うや否や、ダンテさん川を泳いで、あっという間に向こう岸に渡ってしまいました。
「これは、困ったことをしてくれるわ。カローンさんよ、私を向こう岸に連れてってもらえませんか」
ウェリギリウスさん、原作にない展開で困り切っております。