第三幕(二)
「何ですか、この音は。煩いったりゃありゃしない」
空には亡者どもが嵐に巻き上げられ、ぐるぐると回っております。これは堪らずと呻く者、嘆く者、怒る者たちの声や声、ぶつかり叩かれる音が入り交じり、それはもう喧しいことこの上ない。
「この洗濯機のように回っている人たちは、いったい誰なんですか」
「手短に言うと、この者たちは『だらだらしてた者』だ。見てても面白くないから、さっさと次に行きましょう」
「だらだらしてただけで、ぐるぐるされるとは恐いですね。ぶるぶるします」
ダンテさんが、空を見上げますと、それはもう大勢の亡者が渦巻いております。どれくらいの数かと申しますと、それはもう、もうじゃもじゃ。
ふたりは、大きな川に出てまいりました。
「この川は何ですか。三途の川ってやつですか」
「ここでは、アケローン川という名前だな」
「『アケロンなら毛糸洗いに自信が持てます』の川ですか」
「たぶん、違うであろう」
そのとき突如、目の前に、虻や蜂が群がり、身体じゅうを刺され続ける裸の男が現れました。男の顔には虫に喰われた痕が化膿し、その痕からは血と膿が流れ出しております。涙と混じり合って足元に滴り落ちたどす黒い体液には、蛆虫がたかって蠢いています。
結構グロテスクなシーンでございますが、この男モブキャラでございまして、ダンテさんは遠くの岸辺に目を向けるのでありました。
「あそこで川を渡りたがっている衆は誰ですか」
「行けばわかることを聞くでない」
ウェリギリウスさん、なんでもかんでも尋ねてくるダンテさんに多少イラついております。