第三幕(一)
「これは、また立派な門構えですね。さぞかし名のあるお大尽さまのお屋敷……かと思ったら。門だけですか。普通ワンセットになっている塀もありませんね。門の上の方に何か書いてありますよ」
この門をぐぐれば悲しい
この門をぐぐれば苦しい
この門をぐぐれば滅びる
正しさは、創造する者を動かし
神の力、最高の知識、初めての愛が、この門を造る
この門が造られる前に永遠のものではないものはなくこの門も永遠になる
この門をぐぐる者、一切の希望を捨てよ
「ははは『くぐる』が『ぐぐる』になるよう『゛』刻まれてますよ。悪い奴がいますね。選挙ポスターの鼻の穴に画びょう止めたりするのも犯罪ですからね、良い子は真似しないでね。それに何ですか『この門が造られる前に永遠のものではないものはなくこの門も永遠になる』って、長いもんだから刻みきれずに端っこの方で曲がってるし、何言っているかわかりません」
「これは『地獄の門』と言ってな、簡単に言えば『ずっとある』ということじゃ」
「だったら、そう書けばいいのにね。で、この門の前で何すればいいんですか」
ダンテさんが戸惑っておりますと、ウェリギリウスさんが微笑みながら近づいてきて、ダンテさんの手に手を重ねます。
「何すんでい!」
ダンテさんが、手を払い除けたその瞬間、地獄の門が開き、ふたりは秘密の世界へと導かれていくのでございます。