第二幕(三)
「どうして、ウェルさんが頼まれるのですか。やっぱり、借金こさえてるとか、弱みを握られてるとか」
「いや、ベアトリーチェさんが言うには『あなた様の作品は……』あなた様というのは、私のことじゃな。『あなた様の作品は、地上でもそれはいたくバズっております。あなた様の発言力で彼を助けて、私を安心させてください。再生回数も上がりますよ』と、こうおっしゃるのですよ。私も詩人の端くれ、作品を褒められて悪い気はしません」
「鼻の下伸ばして聞いていたんじゃないですか。それに、ウェルさんの作品そんな流行ってもいないし……」
「恥ずかしいこと、言わんでもいい。もっとも、ベアトリーチェさんも、聖母マリアさんが、おまえとの関係を勘違いして、聖女ルチーアさんに話したものだから、ルチーアさんから『行かないの?』と聞かれ、わざわざ地獄まで来たみたいなことは言ってましたな。たしかに、地獄にいてもなんの苦難もないよう神に守られているベアトリーチェさんが、私に頼むのもへんな話ではあるしな」
と、ここで、ダンテさんが突然大きな声を出しました。
「ははん、わかりましたよ。ということは、天国担当の別嬪さんてベアちゃんのことですか。むっさいおっさんを我慢すれば、ベアちゃんに会えるわけですね」
「むっさいおっさんで悪かったな。そのとおりじゃ。どうだ、これでわかったであろう、覚悟は決まったか」
「覚悟も何も、天国に行けば、ベアちゃんだけでなく、ルチアちゃんやマリアちゃんにも会えるってことでしょ。これは、もう行くしかありません。この先、頼みますよ、先生。ベアちゃんに約束したように、あっしのこと守ってくださいよ。何かあったら、ただじゃおきませんから」
「おまえには、呆れて物も言えんわ。さあ、出発しますよ」
そう言って、ウェルギリウスさんは歩き出しました。
「まだ、夜じゃないですか、そんな急がなくても、『むっさいおっさん』は謝りますよ」
ダンテさん、急いで火の始末をすると、ウェルギリウスさんの後についていきました。