第二幕(二)
「少しは黙って聞きなさい。その中途に天国から美しき女性が現れたのです」
「おっ、ただ事ではないね。『ウェルさんたら、やだよもう、お代も払わずに帰ってしまって。さんざん捜したんですからね。今度逃げたら承知しませんからね』キュッって、よっ、色男! ケチ野郎!」
「話が進まんな。その女性がおっしゃるのです『私の知り合いが森の中で往生しています。助けてあげてください』と」
「へえ、往生してるっていうのは、あっしのことでしょ。かかあは、瞼を黒くして残念なことに家でぴんぴんしてますし、知り合いにそんな別嬪さんいませんね、誰でしょう」
「その女性は『ベアトリーチェ』とおっしゃた」
「ベアトリ……チェ、さて、誰でしょう。ベアトリチエ、アベトリチエ、アベトリチ、アベヒロチ、アベヒロシ……ああ、横町の呉服屋の娘さんですね」
「アベヒロシから、よく娘さんを思い出すもんだな」
「その娘さん、そりゃあ別嬪で器量もよくて『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はuniとMONO』っていうくらいです」
「筆箱の中身じゃないんだから、それを言うなら『百合のよう』だろう」
「そう、それです。そんな器量よしを誰が娶るか、みんな噂してましたよ。結局、質屋の若旦那に嫁いだものの、水が合わなかったのか、ほどなく病に臥せってしまって、薬石効なく亡くなってしまったって聞きました」
「そのベアトリーチェさんです。それほど、親しくなかったのか」
「そうですね、一度、角の呑屋でカヴァルカンティくんと一杯引っかけた帰りに、彼女とすれ違い『ベアちゃん、いつ見ても可愛いね』と声を掛けたくらいですかね」
「それだな、おまえも罪なことする。そんなわけで、おまえを助けにきたというわけだ」