第二幕(一)
夜でございます。
先ほど夜が明けたばかりでございますが、あっという間に夜になりました。わたしのさじ加減で、どうにでもなるわけでございます。
夕食は、焚火でお湯を沸かしまして、ウェルギリウスさんが持ってきましたカップヌードルを食べております。バランス栄養食やら、缶詰やら、非常食やら、それは大量に持ってきておりますので、この先の食事については、なんの心配もいらないのでございます。
ダンテさん、不思議なことばかり起こりますので、ウェルギリウスさんにいろいろ質問しております。
「あっし、ウェルさんの『アエネーイス』という、しょうもない本読んだことがあります。そん中で、アエネーアースという英雄さんが、冥途に行ったなんて書きましたでしょ。パウロさんも冥途に行ってイエスさんに会ったなんて言ってますね。その冥途にあっしも行くの?」
「ちょこちょこ失礼な奴だな。そうであるが、それがどうした」
「いやいや、アエネーアースさん――言いにくいですね『あのねアエネーアースは明日あの姉さんにアエネーアースのアロエのムースを貸すのね』なんて書いてあったら舌噛みそうになりますね」
「早く要点を言いなさい」
「そのアエネーアースや、パウロさんは偉いお人ですよ。その点、あっしは、まあ、そうでもない。『おまえはここで帰れ!』って、なりませんかね」
「そうは、ならんな」
「なりませんか」
「ならんな」
「絶対ならない?」
「ならん」
「けち!」
「なんじゃ、おまえは。まあ、そうビビるな。おまえの心配はよくわかった。黙っておこうと思っていたのだが、おまえの足が先に向かないのでは致し方ない。なぜ、私が現れたのか教えよう」
「隠し事ですか、ウェルさんたら水臭い」
「何を言う。私が冥途の中途にいたときに……」
「冥途に中途ってあるんですか。やっぱり終点の冥途が『本冥途』、中途が『西冥途』とか言うんですかね。『次は、西冥途~西冥途~お降りの方は足元にお気をつけて』って亡者に足元ありませんか」