第十幕(三)
「ひとつ伺ってもよろしい? あんたの一族は先見の明はあるのに、なぜに議会を怒らしたりと失敗を重ねるの?」
「未来のことはわかるのに、今のこととなるとわからない。それはだな……遠くのものはよく見えるのに、近くのものは見えない遠視のようなものじゃ」
「それって『東大デモクラシー』っていうやつですか。いや『東出昌大モテ期らしい』だったかな……」
「ここでは、現世でのニュースも、とんと入ってこない。ファッション・トレンドにも取り残されてるわ。もっとも、着飾ったところで全て燃えてしまうけどな、ハッハッハ」
「ダンテさん、そろそろ先に進みますよ」
「ウェルさんに呼ばれたんで行きますね。さっきのカヴァさんに伝えておいてください『グイードくん生きてます』と。カヴァさんが、せっかちなもんだから、言いそびれましたと謝っておいてください」
「わかった、伝えよう」
「それじゃ、また」
ダンテさんとウェルギリウスさんは、再び歩き始めます。
「ダンテさん、お聞きなさい」
ウェルギリウスさんが、人差し指を立て、話し始めました。
「は、なんでしょ」
そっと、人差し指を握るダンテさん。
「これこれ、この指とまれではない」
ダンテさんの手を払い除けます。
「今は、亡者どもの不穏な声ばかりが聞こえてきますが、この先、ベアトリーチェさんの全てを見通す清らかで光輝く眼差しの前に立つとき、ダンテさんは人生の旅の意味を知ることになるでしょう」
「何を格好つけて言ってるんですか。ウェルさんも、なんだかんだ言って、ベアちゃんに逢えるのを心待ちにしてるんじゃないですか。先に取り入ろうとしたってダメです。あっしも負けませんからね」
ダンテさんたちは、次の谷まで続く小路に差し掛かります。
「ウェルさんより遅れるわけにはいきません。お先に通らせてもらいますよ。ごめんくさい、これまたくさい。あーくさ!」
谷から、耐え難い腐臭が立ち昇ってまいりました。




