第一幕(三)
「さようか。私は、北イタリアのマントヴァ生まれ」
「あたり前田のヴァームクーヘン?」
「詩人のウェルギリウスである」
「尿瓶を上に、ぎりセーフ?」
「これこれ、黙って聞きなさい。私がおまえを助けて進ぜよう」
「それは、助かります。では、ついでに家に帰してもらって、かかあに謝ってもらい、仲直りの一献に酒の五合も用意してもらっていいですか」
「そこまでするか。家に帰りたいのであれば、おまえは別の道を行かねばならぬ。獣は絶対に道を通さず、おまえを食い殺すだろう」
「わてをあてに、それは勘弁願います」
「私について来なさい。この地獄を通り、煉獄を抜け、天国へと参ろう」
「エネオスさんとやら、今、何て言いました?」
「ウェルギリウスじゃ。この地獄を通り、煉獄を……」
「それです、それ。『この地獄』って、ここは地獄なんですか」
「そうじゃ」
「なら、あっしは死んでいると」
「いや、死んではおらん」
「でも、ここは地獄」
「そうじゃ」
「それなら、あっしは死んでるわ、間違いない」
「いや、でもおかんに聞くと違うと言うのじゃ」
「どういうことですか。これは、詳しく説明してもらわないと。ええ、聞かせてもらいましょ、さあ、どうした」
「まあまあ、慌てなさんな、おまえは生きている、けど、地獄にいるってことじゃ」
「生きたまま、天国に行けるということですか」
「それは、どうであろう。私は煉獄までしか連れてはいけない。その先は天国担当が案内することになっておる」
「天国担当っているんですか。いいとこ取りでいけ好かん奴ですな」
「なんでも、そりゃあ別嬪な女子が担当してると聞いておる」
「行きましょう、行きましょう。すぐ行きましょう」
「調子のいい奴だな」
ダンテさん、ウェルギリウスさんの後を追って、意気揚々と歩き始めました。