第九幕(二)
「あれは、復讐の女神たち、メガイラ、アーレクトー、ティーシポネーだな」
「アーレクトーさんは、先ほどの魔女エリクトーさんと同じ人ですか」
「いやいや、そんなことはない。ちゃんとウィキペディアで調べたから別人で間違いない」
ダンテさんは素直に思ったことを尋ねただけですが、ウェルギリウスさんは話が蒸し返されたと思い、慌てております。
「メデューサを呼び、お前を石にしてやろう!」
「かしまし娘が『お前を医師にしてやろう』なんて言ってます。今更、お医者さまになるなんて、御免こうむりたいです」
「かしまし娘では、ない。松竹芸能に怒られるので止めなさい。それに、ドクターではなく、ストーンにすると言っているな」
「ローリング・ストーンズのメンバーになれと言われても、音曲は苦手な方で……もしや、あの三人さんは、ミックにキースにロン?」
「違うであろう。石に変えられぬように、目を閉じておきなさい」
そう言うと、ウェルギリウスさん、後ろから目を覆うダンテさんの手の上に手を重ねます。
ダンテさんの、頬が火照ります。
その時です。グゴゴゴッ、ゴウゴウ、ゴゴッゴウゴウ、ゴロネデ、ゴゴノロードショオと、宮沢賢治ばりの凄まじい音が響き渡ります。
「ダンテさん、あの靄が一段と濃くなっている辺りをご覧なさい」
「ええ、どこでしょう」
「私の指の先の方です」
「きったない爪が見えます」
「もっと先です。天使さまがお見えになりました」
「ああ、道頓堀の戎橋から見えるお人ですか」
「いや、あれはランナーであって、天使ではない」
「金のエンジェル、銀のエンジェルとかいうのは、違いますか」
「それは、グリコではなく、森永製菓のチョコボールだな」
「『天使のはね』は、森永製菓ですか」
「それは、沖縄の丸吉塩せんべいだな。お菓子の話は、もう仕舞にしなさい」
二人とも、存外お菓子に詳しいのでありました。




