第一幕(二)
さて、丘でも登りましょうかと、ダンテさんが歩き始めたときでございます。
目の前にまだら模様の豹が現れた。
「うひょう、なんじゃ、こいつ。鋭い牙じゃ勘弁してください。なんまんだぶ、なんまんだぶ、アーメン」
ダンテさん、怖くて目を瞑り後ずさりしますが、後ろに谷があることを思い出します。さすがに、気にせずほっとけ、とはいきません。
「おおそうじゃ、崖っぷちだった。それに、こいつよく見たら、でっかい猫ではないか。こらっ、どかんかい!」
ダンテさんが強気に出たそのときでございます。
たてがみをなびかせた獅子が現れた。
「なんじゃ、ここは。どこぞのサファリ・パークかいな。しっしっ、あっち行け!」
二匹の獣がじりじりと迫ってまいります。
更に、なんと、狼が現れた。
「おうおう、来たか。約束の時間どおりじゃ。おまえ雌か」
ダンテさん、今度は驚きません。狼には偶然遭ったわけではないようでございます。
しかも、狼を見て雌と言い当ててます。獅子なら、たてがみで雄とわかりますが、なぜ、狼の雄と雌の違いがわかったかと申しますと、
「タマタマあったわけでない」
さて、ダンテさん、狼と遭う約束していたものですから、更にピンチとなっております。
――何してるの。
一歩また一歩と迫る獣、後ずさるダンテさん。
振り返った瞬間、森の中に佇む人影が目に入りました。
「そこのお人、助けてくださいな、そこのぼんやり見える人、ぼんやりの人、おいっ、ぼんやり、助けやがれ」
「ひどい云われようですな。私はかつては人であったが、今は人ではあらぬ。何に困っておる?」
「また、やっかいな人が現れたで。これなら三匹の獣のほうが、まだマシかもしれん」
人影が、姿を現しました。
「答えてみよ」
「へい、昔は人で今は人でない、その心は『人でなし』」
「何を失礼な。謎掛けしてるわけではない。私に何して欲しいか聞いておるのじゃ」
「ならば、そこの獣をどうにかしてくれませんか」