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ショートストーリ創作工房 71~75  作者: クリエーター・たつちゃん
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ショートストーリ創作工房 71~75

5編のショートストーリズ。生活保護の審査、♪故郷♪未来における解釈、糞詰まりの解消、AIの助力、雑草からの悪口。

目次

71.納得できそうで、できない理由

72.♪故郷♪ 未来における解釈

73.落書きの先にある快感

74.AIはバカを救う

75.雑草からの悪口



71.納得できそうで、できない理由

―高齢で貧相な姿形をした男が役所の窓口へやってきた。


係 なぜ、生活保護を申請しなきゃならないのですか?

男 はい。生活が苦しいのです。

係 面倒を看ていただける親族(扶養照会)はいないのですか? 奥さんとか、ご兄弟、親類など。

男 いません。この年齢になっても特定の女性と交際したことはありません。永遠の童貞です。

係 は~(笑)。

男 おかしいですか?

係 いいえ、それは個人の自由ですから。すみません。

男 兄と妹も故人となってしまいました。天涯孤独の身の上なのですよ。

係 親族でなくても、金銭を補助していただける友人とかは、どうですか?

男 この時代、この社会で金を恵んでくれる他人などいませんよ。

係 3無縁ですかぁ。

男 そうです。米を買う円、味噌を買う円、酒を買う円がないんです。

係 その円じゃなくて、血縁・地縁・社縁ですよ

男 さっき天涯孤独と言ったでしょ。

係 どこをどう見ても健康そうじゃないですか。お顔のつやもいいですし。多少苦しくても心身が健康であれば働いている方もいらっしゃいますよ。体を動かせば健康も保てますしね。

男 そういう方がいることはよく知っています。

係 じゃあ、ハローワークで仕事を探していただいて。

男 もう人に使われて働くのは嫌です。現役のときは管理職をしていましたから。

係 過去の経歴うんぬんじゃなくて、70歳を過ぎても健康のためと言って働いている方は多くいますよ。

男 こう見えても現役で働いていたときは、日本国憲法を遵守していました。

係 どういうことでしょうか?

男 あんたも役所の採用試験に合格したのであれば、ご存知でしょ。

係 と、いいますと?

男 『憲法30条 [ 納税の義務 ] 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う』

私は一生懸命働いて莫大な額の税金を納めてきました。

係 ほ~。義務ですからねぇ。

男 住民税なんて、退職する前の所得水準でも年間180万円も納めていましたから。

係 なるほどぉ。ずい分と稼いでいたのですね。

男 あんたの給料とボーナスの一部にもなったはずだ。

係 感謝いたします。

男 ところで、あんたの出身はどこ?

係 はい。旭川ですが。

男 旭川から札幌へ来られたと。それなら帰省にJR北海道を利用するでしょ。

係 はい。毎回、使っています。

男 JR北海道へはその経営を支援するために毎年、多額の税金が投入されていますよね。

係 赤字額が大きくて、税(J)の投入があ~(R)るのみ、ですよ(笑)。

男 その枕木の一つに私の税金が投入されています。あなたを安全に旭川にいるご両親の元へと送るために。

係 そういう理屈もありますかぁ(笑)。

男 ですから、私は、この市はもとより国の道路、橋、公園、あらゆる公共物を造るのに十分すぎるほどの貢献をしてきましたよ。この建物の建設費用の一部も私の税金が使われているはずです。この椅子も、テーブルも、あんたが使っているボールペンもだな。もっと言えば、あんたが流すウンチの水もだな。

係 んんっ。大金持ちだったのですねぇ。

男 その大半は税金で盗られたようなもんだ。

係 税金で盗られたと言っても、じゃあ、使い切れないほどの貯金もあるでしょ。申請は不用かと思いますが。

男 確かにありましたよ。腐るほどね。でも、貯めたものはすべて使い切って人生を終りたい、残したくない、と考えましてね。さっきも話したように残してあげたい親しい他人もいませんし、なまじっか残しても遺留金として国庫か銀行に没収されちゃいますしね。

―と答えて、男は右手を顎にそえて遠くを見る目をした。


係 それじゃあ、貯金もないと。

男 そうです。ありません。すべてきれいさっぱりと使い切りましたから。あるものといえばこの小さな風呂敷のみです。

係 失礼なことをお聞きしますが、何を持ち歩いているのですか。

男 知りたいですか?

係 はい。

男 申請書に押す印鑑と着替えの下着ですよ。お見せしましょうか。

係 いえ、結構です。

男 人生の最後くらい納めた税金のごく一部を還元してもらってもバチは当たらんでしょ。

係 はぁ。おっしゃっている意味が?

男 あんたもよくご存知のはずです(笑)。これからは日本国憲法を遠慮せず積極的に利用させていただきたいのですよ。

係 はぁ。理解しかねますが?

男 『憲法25条第一項 [ 国民の生存権 ] すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。第二項 [国の生活環境向上義務] 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない』

どうです。利用させていただいてもお咎めはないですよね。

係 また、それですかぁ。よく暗記できましたね?

男 毎朝、欠かさず復唱してますから。

係 ……?

男 余命からすると、これから受け取る生活保護受給額の合計をはるかに上回る税金を納めてきましたよ。計算してみてください。あんたも国に盗られっぱなしですよ。

係 でもねぇ~。こういつもいつも大風呂敷を広げられましてもねぇ。今回も厳密に審査をさせていただきますから。(了)



72.♪故郷♪ 未来における解釈

―4時限目、太古国語。 担当 T先生(女性)。

故郷(ふるさと)

♪ 兎追いしかの山

小鮒釣りしかの川

夢は今もめぐりて

忘れがたき故郷 ♪


T これはおよそ2000年前に、よく歌われた唱歌の歌詞です。お祖父ちゃん、お祖母ちゃんから聞いたことないかな? 聞いたことある人は手を挙げて!

―教室にいる生徒たちは誰も手を挙げない。

T そうだよねぇ。先生もね、大学生のときに授業で教えてもらったんだ。みんなが知らないのは当然だよね。

―先生も知らなかったということで、生徒たちは興味津々、その目はランランと輝いた。

T 歌ってみますね。

―歌い終わると、

A 先生、兎ってなんですか?

T あぁ、これから歌詞の意味を説明します。みんなも想像するんだよ。大昔の歌だからね。兎っていうのは野原や山に棲んでいた小さな動物です。耳が長くてピンと立っていて、眼が赤くて……。

B それは1000年前に絶滅しました。人間が絶滅した100年くらい前にレッドリストに掲載されました。

T あら、Bくん、よく知っていたわね。

B 先日、脳内電子ブックファイルを更新したとき、偶然、読みました。人間のペットだった犬や猫、小鳥もAIロボットに代替されてしまい、絶滅しましたよ。

T そうねぇ。教えてくれてありがとう。

A 大昔の人はその兎を食べていたのですね。

T あら、どうして?

A だって、おいしいって。

T そっかぁ、まぎらわしいよね。この漢字、追いし、っていうのは追っかけるってことだよ。

A なーんだぁ。食べるのかと思ったけど。

T でも、捕まえて食べていた時代もあったそうよ

A やったあ! 半分、正解だー。

T 次の、かの山とか、かの川は自然界のことね。

C 木があったり、水が流れていたりした場所ですよね。地理で勉強しました。

T 地球の温暖化が原因で木も枯れて、川も干上がって、大地をコンクリートで覆ってしまったからね。

C じゃ、先生、小鮒って?

T 小さな魚のこと。大昔の人間は川の中にいる魚を釣って、食べていたのよ。

C それっておいしいのですか。

T う~ん。先生も食べたことないから。でも、身体の栄養補給にはなったはずよ。歌で歌われたくらいだから。

A チューブ入りのサプリメントとソーラーじゃないんだ。

B 硬いものですか、軟らかいものですか。

T 食べられる部分は柔らかいけど、骨といってカルシウムの塊でできた部分は硬かったそうよ。

C どうやって食べていたんですか?

T 焼いたり、刺身にしていたみたい。

A それなら、TVで見たことがあります。お祖父ちゃんが好きな太古演芸会の中で『サンマは目黒に限る』とかなんとか。

T それは『目黒のサンマ』っていう古々典落語ね。サンマは川にはいません。海です。

B 海って、津波がくるから近づいちゃいけない場所だったって、校長先生からお聞きしました。

T そうね。想定外のことがあったから。

A 社会で習ったけど、ある時代に大津波を被った原子力発電所が壊れて、海に大量の汚染水が流れ込んで、そのときの放射能は今も残っているそうです。

T そうだね。人間はとんでもない『負の遺産』を残したものね。

C 先生、夢ってなんですか?

T これを説明するのは大変ね。寝ているときに脳の中で描く幻想のことといえば分かるかなぁ?

C 脳の中でペインティングするのですか?

T そうみたいね。

B そもそも寝るって、なに?

T 神経細胞の動きを休めること。私たちヒューロ(人間とAIロボットが融合した種族)は幻想なんて見ないよね。タイマーでスイッチがON、OFFになって動いたり、停まったりするから。寝ている感覚は理解できないよね。

A 忘れがたきって?

T 直訳すると、忘れようにも忘れなれないってこと。

A 脳内電子回路が壊れた状態ですか? 容量をオーバーしたとか?

B OSや記憶媒体自体が機能しないってこと?

T いいえ。脳の片隅にいつまでも残っている、それほど印象的な出来事や体験っていうことね。

A そうとう大きな容量のHDを備えていたのかも。

T 違うよ。大昔の人間は(なま)の脳を持っていたの。だからオルガノイドじゃないからね。

C へーっ。生の脳があったんですかぁ。それに記憶を保存できたんだ~。

T できたようです。

B 最後の故郷って?

T 故郷というのは、自分が生まれた場所のことです。

C どこかの工場でしょ?

A ぼくのお尻には製造元を示す11ケタのシリアル番号が付いています。

B ぼくにも付いています。

T 大昔の人間は工場じゃなくて、生のお父さんとお母さんの接合によって生産されたのよ。

C 接合って?

T 身体の特定の部位をお互いに差し込み合うってこと。先生、経験ないから、分かんないよ~。

A そっかぁ、その接合部分が故郷で、そこを想像して脳内に描いているんだ。

B そこには木がうじゃうじゃと茂り、水の満ちた川があったり、忘れようにも忘れられないってことだな。

A 差し込みあった楽しい体験を思い出しているんだ。きっと。

C な~んだぁ、そんな歌かぁ、つまんない。

T う~ん。……?(了)



73.落書きの先にある快感

 俺は大学4年生。就活中だ。これまで18戦18敗。午前中に受けた会社の面接もうまくいかなかった。きっと、また「ご健闘をお祈りいたしております」という体のいいお断りメールを受け取ることだろう。

 自己嫌悪を通り越して落ちること、落とされることに慣れてしまった。でも、2週間にもわたって落ちないものがあった。

 男は駅のトイレに座り抜け出せない人生を苦悶し、力んでもひねっても出てきそうにないクソと悪戦苦闘していた。

(八方塞がり。このドン詰まりをクソ食らえ人生というのか)男は自嘲ぎみに笑みを浮かべた。

 正面を見据えたその視線の先にはうす灰色の壁に書かれた文字があった。昔、よく見かけた落書きである。

(今も書くヤツがいるんだ)目を凝らして読んでみた。

『右を見ろ』

 男は顔を右に向けてみた。

 その壁には『左を見ろ』と書いてあった。

 男は半ば次の文字を想像しつつ顔を左へ向けた。

 そこには『上を見ろ』と歪んだ文字が書いてあった。

 男は次の文字をはっきりと予想できた。(きっと、「きょろきょろするな」だろ)が、天上を見上げると、

「2条2丁目。角の電柱」

 と、丁寧に書かれていた。

 予想外の文字に男はこの誘いに心が動いた。出てきそうにないものを体内に溜めたまま、「は~」とため息をついてからトイレを出た。

 スマホで地図を検索しつつ歩いた。

 たどり着いた電柱には、男にとって非科学的なたて文字を連ねたトタン板が取り付けられていた。

『主はあなたをお救いになります』

「なんだぁ、宗教の勧誘か~。ちぇ」

 男は舌打ちした。からかわれたようで急に憂鬱な気分になった。が、その下に続く住所と文字が気になった。

『2条5丁目。四辻の電柱へ』

 明らかに、「四辻の電柱へ」は誰かが書き加えた文字であった。

 男は、道路沿いに3丁分だけ歩いた。確かに、四辻の角に電柱はあった。ほぼ目の高さの位置にあるトタン板には『悔い改めよ』と書かれていた。

「やっぱ、宗教かぁ、クソー、バカにしやがって」

 男は我が身をなじられたと思い小声を出して言った。それでも気がすまず、腹いせに右足で電柱を軽く蹴った。

 どこからも内定をもらえず、落とされるたびに反省し、いや悔い改め、次にそなえた。でも、全敗。

「これ以上、なにを悔い改めろというのだ。どんなに努力をしてきたことか」

 男は文字に向かってそう毒づいた。

 電柱を恨めしそうな目で見返すと、文字列の下には、

『2条6丁目。バス停、時刻表』

 という小さな黒い文字があった。

「次はバス停かよ」

 と投げやりに言いつつも、1丁先にあるバス停へとやってきた。

 時刻表の隅の空欄に文字を見つけた。

『信じる者は救われる』

 男は心中(信じても誰も救ってはくれない。そんなに世の中、甘くはないんだよ)、そう呟いていた。また小さな文字を見つけた。

『3条6丁目。角の電柱』

 男はやれやれという思いで次の電柱を目指した。

(普段、こんなに歩かないよな。今日は、いい運動をさせてもらっている)そう思い直して、また自嘲ぎみに口元を歪めた。電柱は信号機の近くにあった。そこにはやはりありきたりな宗教用語があった。

『神のご加護を』

「だから~、信じてもご加護はないのよ」

 男は思わず怒声を口にした。

 信号待ちをしている通行人に変な目で見られていないか、周りに視線を泳がせた。ここでも小さく書かれた文字『3条5丁目。バス停』を見つけた。男は(次はなんだ。どんなお告げがあるんだ)惰性のままバス停へと歩を進めた。

 そこには『駅のトイレ。右から2つ目』という文字が書かれていた。

「なに? 駅に戻れ、ってか?」

 この段階で男は自分が完璧に弄ばれていることを確信した。これじゃ、トイレの個室で尻を下ろしたままぐる~っと顔を回して、『きょろきょろするな!』とコケにされていれば良かった、とここまで誘導に乗った自分を罵った。(クソー。ドッキリ・カメラじゃあるまいし、まんまと騙された)

 ところが、不幸中の幸い男は駅へ戻らなければならない事情が生じつつあった。

「また尻がもぞもぞしてきた。戻ろう」

男は駅に戻り、指示どおり、右から2つ目のドアを開けた。結局、男は元のトイレの左隣に戻ってきた。臭気に誘われ、(よし。クソでも垂れてみるか)便座を上げた。その裏面に文字を見つけた。

『神は全能です』

 男はフンと鼻を鳴らしてからベルトを弛めズボンを下げ、尻を下ろした。背後から『神は全能です』『神は全能です』……という無言の声が襲ってきた。男はロダンの彫刻〝考える人〟のポーズをとり、今日半日のことに思いをめぐらせた。(もし神が全能ならば、お願いすれば俺の未来は保証してもらえるのか。もし神が全能ならば、なにも努力しなくても願いは叶うはず。人間は全能ではない。努力をしてなにかを手に入れる。努力しない神よりも人間が偉いんじゃないのか。俺は努力をしている)そう結論を出した瞬間、きれいな一本グソが垂れ落ちた。(了)



74.AIはバカを救う

 食堂の隅っこで浮かない表情をした男子学生がぽつんと頬杖をついていた。視線の先には深く暗い穴蔵の底のような曇天が広がっていた。

 この学生、名前は鈴木晃。4年生で就活中であった。が、まったく手ごたえはなかった。エントリーシートを送っても、面接にまでこぎつけるのにひと苦労していた。たとえ面接に呼ばれたとしても十分な知識とコミュニケーション力がなく、あっさりと落とされてきた。大学4年間だけでなく、これまでの人生を振り返り自己嫌悪に陥りかけていた。

(どだい、自分には人並みレベルの学力さえなかった。この大学だって、書類審査のみで一次選考を通過し、二次選考の10分間の個人面接を受けて合格したんだ。いや合格させてくれたんだ)

 時間を巻き戻せば戻すほど惨めな学業成績が思い出された。

 そんな鈴木に見知らぬ男が声をかけた。

「どうしたのですか。今にも自殺しそうなオーラが出てますよ」

 鈴木は興味なさそうな目でちらっと男の顔を見た。

 男は鈴木の心中を読み取ったかのような声で訊ねた。

「就活中、大変そうですねぇ」

 というのも鈴木の右ひじの横には履歴書と白紙のエントリーシートが置かれていたからである。

(うるさいヤツだな、と思いつつも)鈴木は暇つぶしに無駄口をたたくのも気分転換になるかな、と答えてみた。

「そう。4年で就活中だけど、全敗なんだよ。人生、うまくいかんは」

 こう言うと鈴木は自嘲ぎみに笑みを浮かべた。

 斜め向かいに座った男は真剣な顔をつくり、

「なにが問題ですかね」

 と訊いてきた。

「まずは知識量が絶対的に足りない。だから面接まで進んでも、自分をうまく表現できない」

 鈴木は自分の恥を曝しているようで視線を窓の外へやったまま答えた。

「それはなんにも問題じゃない」

 男はすぐさま語気を強めて返した。

(コイツは俺をおちょくりたいのか。このヤロウ!)鈴木はさっと男の顔を睨みつけた。

 それに怯むことなく、男はさらりと言った。

「世の中、自分の知らないところでAIが進化していて、知識を頭に詰め込むことなど朝飯前のことですよ。チャンチャラ可笑しい」

 この最後の言葉に鈴木は(いよいよバカにしやがって)威嚇するようむっとした顔をしてみせた。

 それにかまうことなく、男は続けた。

「就職先の希望業種は?」

「大手の流通だよ」

 なげやりな声音で答えた。

 男は耳たぶを意味ありげに撫でると、

「流通なら、サプライチェーンの充実度、自己資本利潤率55%以上、プライスコストマージンから…、〇〇社ですね」

 と知識を披露した。

「すっげえ。そんな知識をどこで身につけたの?」

 鈴木の声は詰問していた。

 男は静かに説明した。

「立派な賢い技術者がいて、運動神経のいい人間、知識をたくさん持っている人間、偏差値の高い人間の脳内情報をUSBに保存して、それを別の人間にインストールしていますよ。ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)って呼ばれてますけどね」

 この説明にはさすがに鈴木も呆れたのか、

「そんなSFの世界じゃあるまいし」

 と、ケラケラと声を出して笑った。

「あなたが知らないだけですよ。超簡単です。試しに、やってみます?」

 平然と、そう言い返すと男はディバッグからヘッドギアのようなものを出し、

「これを頭に」

 と鈴木に被るよう指示した。

 それからスマホのような機器にUSBを差し込み、

「さあ、はじめますよ」

 スイッチONを押して、画面を操作した。

 言われるがままにしていた鈴木の表情がしだいに明るく輝きだした。

 男がぶっきらぼうに言った。

「私と討論をしましょう」

 話題は政治・経済・文化・スポーツ・自然環境・宇宙開発をはじめアリストテレスの哲学論、ヘーゲルの唯物史観、コント、落語、第7世代の漫才にまで及んだ。

 鈴木は自分の口からこれほどスムーズに多くの知識が出てくることに驚いていた。それは淡い自信に変りつつあった。

 が突然、男はスイッチをOFFにした。

 鈴木は従前の脳足りん面に戻った。

 内容そのものは理解していないが、それまで自分が快活にしゃべっていたことは鮮明に覚えていた。

「これはすごいね。まったく持っていなかった知識がまるで泉のように湧いてきて、スムーズに口から出るなんて。偏差値90の人間になったみたいだ」

 鈴木は満面に笑みを浮かべ、いかにも愉快な声で言った。

「これがBMIです」

 男は当然だという顔をして答えた。

「えっ? 実用化されているの?」

 その声は今した被体験を理解していないことを暴露していた。

(やはりバカだ)それを察し、男はニヤリと口元を歪めてから、

「いま、体験したじゃないですか。じゃあ見せますよ」

 と答えると、左手を頭頂部にやり、ぐいと指でついた。

「ブ~ン」と微かに機械音がして、パッカと頭蓋骨が開き、頭の中が見えた。

 頭の中には、青、赤、黄色の電線やコイルとボタン電池がいっぱい詰まっていた。

 男は鈴木の見開いた目を直視し、言い放った。

「AI(愛)はバカを救う」(了)



75.雑草からの悪口

【雑草】栽培している作物や草花以外に自然に生える、いろいろな草(『旺文社 国語辞典 第十版』より)。

「おーい、みんなこの定義をどう思う?」

「これを書いたのは人間どもだな?」

「そうらしい」

「人間どもに二言三言、文句を言ってやりたい」

「俺たちを雑にしやがって」

「雑とはなんだ!」

「雑って言われると、存在を否定された気分になる。くそー」

「栽培している作物や草花? 人間の口に入るもの、()でられ売り買いされるものか?」

「だろうな」

「以外とはなんだ!」

「じゃあ、ヨモギ(艾)たちに聞く。どうなんだ?」

「俺の若葉は餅に入れてつかれ、草餅になる」

「それだけじゃない。乾かして葉裏の毛から(もぐさ)も作られている」

「次はツクシ(土筆)。どうだ?」

「俺はスギナ(杉菜)の子と慕われている」

「食されてもいるぞ」

「イタドリ(虎杖)たちは?」

「ヨモギ、スギナと同じく新芽は、人間の胃袋を満たしている」

「忘れちゃいけない。根は薬用にも使われる」

「そっちの隅にいるドクダミ(蕺草)はどうだ?」

「どうもこうもない。陰地に群生し、異臭を放つので嫌われることもあるが、漢方薬として重宝されている。お茶の成分にもなっているぞ」

「クローバ。どう?」

「俺の本名はしろつめくさ(白詰草)だ。いつ、誰がクローバなんて呼びはじめたんだ」

「おぉ。そうだったのか。こりゃすまん」

「まあいい。俺は牛や馬の餌として活用されている。通常、3枚の複葉がついているんだが、たまに4つ葉がつくことがある。それを見つけた人間どもは幸運を引き寄せるといってキャッキャと喜んでいるようだ。なにが嬉しいのかね?」

「俺も理解できない」

「オオバコ。どうかしたか?」

「はい。いえ、その、私、俺、私、俺」

「ははぁ、性の端境期にいるんだな」

「はっはい。私、俺はいま雌性期メスのときから雄性期オスのときに移行中です」

「で、どうなの?」

「若い葉は食用に、葉と種子は薬用に使われています」

「ややこしいけど、ちゃんと使われてんだぁ」

「じゃあ、次の花にいたっては言うべきことはないな。自明だ! 可愛がってもらっている」

「ノギク(野菊)、タンポポ(蒲公英)、ミズバショウ(水芭蕉)、セイタカアワダチソウ(背高泡立草)。どれも絵本の主役になったり、唱歌や歌謡曲の歌詞として歌われている」

「小説のタイトル(『野菊の墓』)になった花もある」

「おぉ。ツメクサ、なにかあるかい?」

「あります。大ありです。私を忘れちゃ困りますよー。私はコンクリートやアスファルトの裂け目で生きています。人間でいえば、ニッチ市場で生き抜くニュービジネスの企業家ってとこです」

「そのしたたかさを評価して欲しいと」

「はいー」


「どれもこれも人間の役に立っている。どこのどいつが、こんな失敬な定義をしたんだ」

「俺たちをその他大勢、いろいろな草でひと括りにしやがって。こんちくしょうめー」

「俺たちは、ナンバーワンにはなれなくてもみんな特別なオンリーワンの名前を持っている」

「それを雑草とはなんだ!」

「雑草なんて名前の草や花は一本もない!」

「登録された名前で呼べ!」


「俺たちが役に立っているのは人間どもに対してだけじゃないぞ」

「俺たちは虫たちの棲家にもなっている」

「そうそう。草叢は秋になるとオーケストラの舞台になるんだ」

「なんとも風流じゃないか」

「ロマンティックよねぇ」

「人間どもはその演奏を無料で拝聴させてもらっている」

「それが聴けるのも元はといえば、俺たちがいるからだ」

「感謝されていいだろー」

「ところがぁ、人間どもは名前も知らないくせに俺たちが庭に芽を出すと、〝あー、また雑草が出ている。嫌だー!〟 と、悲鳴を上げる。あの悲鳴はなんなんだ!」

「騒ぐ暇があれば、俺たちの名前を調べてみろや。知識が増えるだろうに」

「そんな考えには及ばずいきなり踏み潰し、やたら抜きたがるし、その手間を省こうと毒薬(除草剤)を撒き散らす」

「踏み潰されようが、抜かれようが、毒薬を撒かれようが、なんだってんだー。仲間が抜かれても枯らされても、すぐに別の仲間が芽を出し、根を張る」

「そのたびに、俺たちは、生きるんだ! 負けないぞ! と、魂の雄叫びを上げている」

「俺たちの世界は人間どもと比べりゃ生存競争がチョー厳しい。が、互いに共生し合ってもいる」

「身近な自然環境すら守れない傲慢な人間ども。俺たちとの戦いは 〝骨折り損の草臥れ儲け。ご苦労さん!〟 と、悪口の一つも吐いてやれ! ヤツらにはとうてい、聞き取れないだろうが。へっへっへっ」

「こんな俺たちのド根性に満ち溢れた蘇生力を人間どもは『(そう)(こん)』とか呼んで、自分たちの弱~い性根に喝を入れようとしている。ふん」

「いや、それを言うなら雑言(ぞうごん)だろ?」

「余計なテンテン・テンテンを付けて、濁っちゃいけない。俺たちは人間と違って純粋に真っ当に生きているんだ」

「いやいや、それでいいんだ。雑草が吐く悪口、まとめると悪口(あっこう)雑言(ぞうごん)だな」(了)




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