表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/74

【6】自衛隊駐屯地

ゾンビ世界に来てから3日目の朝を迎えた。

朝食を済ませて早速行動に移る。

教授と由麻子には昨日同様に研究所へ出向いてもらい、治療薬を作成してもらう。


「案ずるな、研究所内のゾンビはすでに駆除している。多少は建物内に入り込んでいるかもしれないが、そう大きな問題も起こるまい」


教授は意気揚々とナタをぶら下げながら、由麻子と共に出発していった。

3日目まではまだ飢餓ゾンビも出現しない。

ランダム出現の鬼ゾンビに襲われないとは言い切れないが、確率は非常に低い。

しかし仮に出たとしても、あの教授なら何とか撃退できる気がする。


二人が治療薬を作成している間は、私と祥哉とナナで自衛隊駐屯地へ向かうことになる。

しかしその前に拠点のバリケードの補修をすることにした。窓の板が割れて剥がれかけていたのだ。

夜間にゾンビが侵入しようとしていたのだろう。もう一晩くらいは持ちそうな気もするが、時間も資材も余裕があるので念のため作業にとりかかる。


ナナにサスマタリオンと拳銃を渡して、拠点の近くにゾンビが寄らないようにしてもらう。

その間に私と祥哉で板を張り直す。釘や工具は先日ホームセンターから持ち出してきていた。


「な、何かあったらすぐに来てくださいねぇ」


ナナが不安そうな声で話しかける。


「大丈夫です。すぐ側で作業しますし、いざとなったら家に逃げ込めば何とかなりますから」


ナナを元気付けながらバリケードを補強した。


2時間ほどトンテンカンと日曜大工もどきの仕事をこなし、無事に一階の窓の板の補修が終わった。

これでしばらくは大丈夫だ。また今日の探索の帰りにでも資材を補充しておこう。


身支度を整え直して自衛隊駐屯地へと出発する。リュックがあるので一食分の水と食料も持っていく。

武器は私の金属バットと拳銃、そして祥哉愛用のサスマタリオンだ。本当は非力なナナに拳銃を持ってもらった方が良いのだが、銃を撃つのが怖いらしいので、仕方なく金属バットを持ってもらっている。


亀裂の入った道路に注意しながら、ゾンビの少ない道を選んで進んでいく。

明日からは飢餓ゾンビが出現するはずだ。そうなればこんなにのんびりと外出することは出来ない。

鬼ほど強くはないはずだが、昼間であっても人間を発見次第襲い掛かってくるゾンビ達を相手にしながら探索を続けるのは危険だ。


一時間ほど歩き続けて自衛隊駐屯地へと辿り着いた。時刻は午後の1時ころだ。生存者を見つけて拠点に帰るまでは十分に時間がある。

駐屯地の門を通過しようとするが、違和感を感じ立ち止まる。

敷地内にゾンビが居ない。……よく見ると通路の端や草むらに無数のゾンビが横たわっている。


「なんだ、ありゃ?」


祥哉も気づいた様子で不思議がっている。


「ひょっとして、銃で駆除されたんじゃ…?」


ナナが呟く。


「おそらく、生存者の自衛官が駐屯地内のゾンビを一掃したんだろうね。不用意に探索すると私たちもゾンビと間違われて撃たれてしまうかもしれない」


せっかくここまで来たのに、生存者に誤射されるのは勘弁願いたい。どうにかして人間だとアピールする方法は無いだろうか?


「叫びながら探し回ればいいんじゃね?」


祥哉が提案するが、


「いや、生存者が建物の中から狙撃しているのなら、声が聞こえないかもしれない。狙撃ライフルなんかは数百メートルくらいの射程距離があったりするから、叫び声だけじゃ危ないよ」


「あの、白旗とか振りながら歩いてみてはどうでしょうか?」


「白旗かぁ、それなら大丈夫かもな」


とりあえずナナの白旗案でいくことにする。

倒れているゾンビから白シャツをはぎ取って金属バットとサスマタリオンに括り付ける。

頭上高く上げた白旗を振り回しながら、念のため叫び声も出しつつ駐屯地内を歩き始めた。

ある程度進んだところで、一発の銃声が鳴った。音のする方を見ると、奥の建物の窓から人影が手を振っているのが見える。


「おーい、こっちだー!」


生存者だ。やはりライフルらしきものを持っている。誤射されなくて良かった。


「今そちらに向かいます。撃たないでください!」


人影は銃をおろして窓から離れた。

生存者のいる建物の前まで来ると、生存者も建物から出てきた。


「ふう、俺の他にも生存者がいたか。少し安心したよ」


出てきたのは40台半ばほどの筋肉質な男だった。手にはスコープのついたライフルを持っている。その他にも拳銃に手りゅう弾、サバイバルナイフも腰にぶら下げている。

とても整った顔立ちをしている。年齢的にイケオジという言葉が相応しそうだ。

やはりゲーム内で見たことのある顔だ。この人物も架空のキャラということなのだろう。


十家(じゅうか) 紀一郎(きいちろう)だ。先の奇妙なガスの発生以降、他の自衛官は皆おかしくなってしまった。この基地に残っている生存者は俺だけだ。……君たちはどこから来たんだい?」


「私たちはここから歩いて1時間ほどの一軒家を拠点にしています、若狭 幌といいます。こちらは木本 祥哉に羅月 ナナさん。他にもあと2名の生存者がいます」


「俺の他に5名か……他には居なかったか? 別の地域に取り残されていそうな人もいなかっただろうか?」


「いえ、いません……いないと思います」


ゲームの設定では、ほかの地点を探索すれば別の生存者を発見することはできる。ただし、ゲームシステム上は一度に仲間にできる人数は最大6人だ。

6人そろった状態で別の地点を探索しても生存者は発見できないようになっている。この世界でそのシステムが適用されているのかは分からないが、これまでの経験上発見できない可能性の方が高いだろう。

それに必要な人員は確保できた。これ以上人数を増やすメリットはあまり無い。

ここはゲームの世界だ。非情かもしれないが救わなくてもよい人員は切らせてもらうことにする。


「……分かった。ゾンビとやらのほとんどは大人しい奴だが、まれに狂暴なやつも紛れ込んでいる。俺もあやうく喰われる所だった。迂闊に探索をしてミイラ取りがミイラになるリスクをとるよりも、今いる生存者を確実に生き残らせる方が良さそうだな……」


「狂暴って、まさか鬼ゾンビの事かぁ?」


祥哉が尋ねる。


「鬼……? ああ、まさに鬼のようなゾンビだった。浅黒い肌にヌメヌメした粘液がついていた。銃が無かったら今頃俺もその辺で(うごめ)いていたかもな」


なんと。この人は既に鬼ゾンビに遭遇して撃退までしていたらしい。

さすが自衛官といったところである。戦闘能力の高さは非常に心強い。


十家は【銃火器】の特性を持っている。彼は銃器や手りゅう弾を扱うことができ、他の生存者にも使用方法をレクチャーすることができる、という物だ。

自衛官である十家ならではの特徴で、彼がいると戦闘時の生存率が大幅に上昇する。


「それは大変でしたね。ですが、あと数日でその鬼ゾンビが街中に蔓延(はびこ)ることになります」


「何? どういうことだ?」


十家は怪訝な顔でこちらの様子を見ている。私はこれまでの経緯とこの世界について簡単に説明をした。


「そんなことが……いや信じられない……しかし……」


十家は迷っている様子だ。

見かねたナナがフォローをしてくれる。


「私も最初は信じられませんでした。でもこの世界は明らかにおかしいことになってます……そして今いる私たちの中でこの世界の事を一番よく知っているのはこの幌さんなんだと思います」


続いて祥哉も援護してくれる。


「こいつは時々頭のおかしな妄想をすることはあるけど、嘘は滅多につかない奴です。それに突拍子もないように見えて的確な対応をしているのも事実なんですよ。頼りない奴に見えるけれど、多分こいつの言ってることは当たっているんだと思います」


……祥哉のはフォローになっているのか?


「……分かった。どのみち俺が君達を保護するべきなのは事実だ。このまま俺一人で籠っていたところで、いずれ食料か弾が尽きてくたばってしまうだけだろうしな」


「ありがとうございます」


十家はひとまず同行してくれるようだ。


「そうと決まればありったけの武器弾薬をもっていかねばな。すまんが少し手伝ってくれないか」


「勿論です。あ、あと車両も用意していただきたいのですが……」


「ん? ……ああそうだな。人員輸送用の高機動車がある。あれなら多少陥没した道路でもなんとか移動できるだろう」


自衛隊に配備されている車両の一つであるこの高機動車は定員10名の輸送車で、悪路走破性に優れている。

乗り心地はともかく、ちょっとした路面の段差や凹凸なら難なく走行できる。

この高機動車の確保は必須だ。最終日までに富士山へ行くことになるのだが、そこまでの移動に必要な車両になる。


みんなで協力して物資を車両に乗せていく。ゾンビはほぼ片付いているので、手早く作業が進んだ。自動小銃と拳銃が6丁ずつ、弾薬多数、手りゅう弾の入った箱が1箱、発電機と燃料、ヘルメットに糧食そしてバリケード用の資材も積み込んだ。


「こんなに沢山の銃が必要なんですか?」


ナナが尋ねる。


「俺一人では全員をカバーしきれない可能性がある。本来なら民間人に銃を渡すなんて事は考えられないのだが、既に組織も法も崩壊してしまっているからな。自分の身は自分で守ってもらわなければいけないんだよ」


「……ひょっとして、あたしの分の銃もあるってことですか……?」


「ああ、そうなる」


ナナの顔が青ざめた。銃がとことん嫌いらしい。

確かにナナの気持ちも分かる。人を殺せる道具なんて扱いたくないと思うのも当然だ。

しかし彼女に死なれては困る。なんとか克服して自衛手段を身につけてもらいたい。


「ちゃんと銃の扱い方を練習する時間は用意する。使用するのはいざという時だけでもいい。ただし扱えるようにはしておくべきだ。この状況では少しでも多くの戦力がいる」


優しい口調で十家が言う。

私もナナの説得を試みる。


「これからしばらくは拠点で待機する時間が多くなると思いますし、十家さん以外は素人だから、みんなで練習しましょう」


「大丈夫だろ、鬼ゾンビ相手にとっさにヘッドショット決められる腕前なんだから、すぐに慣れるさ」


祥哉も珍しくフォローをする。


「あの……十家さんが教えてくれるのなら……あたし、頑張ります!」


ナナが意を決したように宣言をした。


「よし! その意気だ! 俺が絶対に君たちを死なせないように訓練してやるから、安心してくれ!」


十家が激励をする。

ナナはしっかりと十家の目を見つめ、力強く頷いた。





準備が整い、車両に全員が乗り込んで十家が車を発進させる。

【幸運】にも車両の燃料は満タンだ。これなら燃料の補給なしで富士山までたどり着けるだろう。

ガタガタと音をたてて亀裂の入った道路を慎重に進んでいく。さすが高機動車だ。乗り心地は悪いが危なげなく移動できる。

あっという間、とまでは行かないが、すぐに拠点までたどり着いた。丁度由麻子と教授も拠点にたどり着いた所だった。


「はい、これ。2個目の治療薬です」


そう言って由麻子が治療薬の入った箱を渡してくる。ありがたく受け取って拠点に保管する。

これでメンバーは全員揃った。あとは最終日まで銃器の練習とバリケードの維持だ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ