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千物語 I  作者: 松田 かおる


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初もうで

「…ふぅ、やっと着いた」

長い階段を上り終えた男性が、少し太り気味の体を上下させながらそうつぶやいた。


男性の前には真っ赤な鳥居が幾重にも重なりながら奥へ続いていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

男性はその鳥居をくぐりながら先に進み、さらに奥へと歩いた。

やがて目の前が開けて、慎ましやかだがどことなく厳かな雰囲気のある拝殿が姿を現した。


男性が一息ついていると、

「おや、ご参拝客様ですか?」

と、男性に声をかけてくる男性がいた。


やや細面で華奢に見えるその男性は、この神社の神主であると男性に告げた。

男性は神主に向かって行きながら、

「結構なご利益があると聞いてきたので、初もうでに来ました」

と言った。

神主は男性に

「どちらからお越しになったのですか?」

と聞き、男性は焼き物で有名な地方からやってきたことを答えた。

それを聞いた神主は、

「それはまた随分と遠いところからこんな場所まで…お疲れだったでしょう」

そう男性に労いの声をかけると、男性はそれを受けて

「いえいえ、ご利益のためでしたら、多少の苦労は」

と言って笑った。




男性は改めて拝殿に向かい参拝を済ませると懐から分厚い財布を取り出して、かなりの厚さの札束を賽銭箱に入れた。

それを見た神主は、

「そんなにたくさん…」

と、男性に言った。

それを受けて男性は、

「いえいえ、この神社のご利益のことを考えれば安いものですから」

と、少し謙遜した様子で答えた。


神主は、

「お気を悪くされたらすみませんが、よろしかったら…」

と、社務所から持ってきたお守りを差し出してきた。

商売繁盛,五穀豊穣,家内安全,交通安全,恋愛,出産,合格祈願…

「この神社で扱っているすべてのお守りです。金額の多い少ないとかお礼の意味ではありませんが、どうぞお持ちください」

そう言って男性にお守りを渡した。

男性も、

「いや、かえって恐縮してしまいますな。でもこの神社のご利益は本当に大したものだと聞いているので、遠慮なく」

そう言いながらお守りを受け取った。




「こんなにたくさんお守りをせしめることができた…儲け儲け」

神社を後にした男性がつぶやく。

「ちょっと罰当たりだが、どんなものが入ってるか見てみるか…あれ?」




「いいカモだったな、噂に踊らされて大金を落として行くなんてな」

男性が去った後、神主が下品な笑みを浮かべる。

「さてさて、いくら落としていったんだ?…あれ?」




「「全部葉っぱじゃねえか!」」




狐と狸の化かし合い。

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