ホンモノクエスト
「いいか、食事にだけは手を抜くな。できる限りホンモノを食うんだ」
ガキの頃から親父にそう言われ続けて、俺は食事にだけはできる限りホンモノを求め続けてきた。
だが残念なことに、今時ホンモノの食事にたどり着くことが難しくなっちまった。
世の中に「合成食物」や「人造素材」で溢れかえって、ホンモノの食材にお目にかかること自体が難しくなっちまったからだ。
もしかしたらホンモノの食事なんてなくなっちまったのかもしれない。
それでも俺は諦めずにホンモノを探し続けている。
だがもちろん、そんな簡単に見つかるわけもなく、時にはホンモノを探している俺の噂を聞きつけて声をかけてくる奴もいた。
そんな連中に限って、
「お前に『本物』の味なんか判るのかよ」
と、あからさまに俺のことを馬鹿にして「紛い物」を掴ませようとする。
そういう奴らはことごとく返り討ちにしてやった。
ホンモノを知っている俺を馬鹿にするな。
そんなことを長いこと繰り返しているうち、いつからか
「『本物』を食わせない店や人をひどい目に遭わせている」
なんていう訳のわからない噂が広がって、「紛い物」を掴ませようとする連中が減っただけじゃなく、俺に食事をさせない店も出始めた。
「お前に食わせるメシはねぇよ」
と追い返されることも多くなってきた。
その手の店は「『本物』はない」と言っているようなものだから、追い返されたところでなんの問題もなかった。
むしろ余計な手間がかからない分、助かってるくらいだ。
そんなある日。
腹が減った俺は、ふと目についた場末の小汚い定食屋で食事を摂ることにした。
店の中は手入れが行き届いていて、「小汚い」というより「年季の入った」と言った方がしっくりきた。
そんな店の雰囲気に、なんとなく小さな胸騒ぎを感じた。
そして出てきた食事を一口食った瞬間、俺の体に電流が走った。
俺が店主に
「なぁ、これってもしかして…」
と声をかけると、店主は俺の言葉に何も言わず、ニヤリと小さく笑っただけだった。
それで返事をもらったようなものだ。
…間違いない、ホンモノだ…
こんな場末の定食屋で本当に久しぶりに出会ったホンモノに、俺は感動すら覚えた。
俺は一口一口を、文字通り噛み締めるように味わった。
久しぶりのホンモノに舌鼓を打ち、店主に丁重に礼を言って定食屋を後にした。
そして俺はこのホンモノを忘れないよう、味や調理加減、食材といった口内分析で得られた全てのデータをメモリーに保存した。




