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千物語 I  作者: 松田 かおる


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失恋キッチン

「ごめん、君のところには行けなくなった」

電話の向こうで、彼が前置きなしにそう言った。




前から「君の手料理が食べたい」と言っていた彼に手料理を振る舞う約束をしていた日、突然そんな電話がかかってきた。

電話の向こうで彼が必死に詫びながら何か言い訳めいたことを言っていたけれど、わたしの耳にはほとんど何も入ってこなかった。

どうやら「他に好きな人ができた」らしかった。


結局電話一本、たった5分でわたし達の関係は終わりを告げた。




電話を切ってキッチンを見る。

そこには昨日から手間暇かけて仕込んでいて、仕上げを待つばかりのタンシチュー、ミートローフ、ミートパイ、そしてかぼちゃのプリンといった、いつも彼が好きだと言っていた料理やお菓子が所狭しと並んでいた。

わたしはキッチンに向かい、それらの料理を全てゴミ箱に放り込んだ。

もったいないのは百も承知だったけれど、食べる相手がいない料理を仕上げて一人で食べても、ただ虚しい気分になるだけなのが解っていたからだ。


だからと言って、何も食べないわけにも行かない。

彼氏に振られたところでそれはそれ、お腹は空くのだ。

けれども料理はさっき全部捨ててしまった。

とりあえずお腹に貯まればいいか…

そう思って戸棚の中にあるカップラーメンに手を延ばしかけて、手が止まった。

確かに普段のわたしなら、一人のときにはカップラーメンで簡単に食事を済ませることもよくある。

ただ、今日は「何かが違う」気がした。


…こういう時こそ、手の込んだ料理を作ろう。


ふと思いついた。

「カップラーメンで惨めな気分になりたくない」と思ったのかもしれない。

とりあえずビスケットを一枚口に放り込んで、空っぽの胃袋をごまかしてから買い出しに出かけた。




そして夜。

キッチンにはそこそこ手をかけた「わたしが食べたい料理」が、まるで「グルメ世界一周旅行」のように所狭しと並んでいた。

半日で作れる料理なんてたかが知れていたけれど、トルティーヤから作ったタコスや皮から作った餃子は我ながらよくできたと思った。


「いただきます」

誰にともなくそう呟いて、完成した料理を口に運ぶ。

そしてちょっといいお酒を飲んで、少し満たされた気分になった。

そこで手を止めて、ふと考える。

今頃彼は、どこかいいお店でおいしい料理を食べているのだろうか。

それとも「他にできた好きな人」の手料理を食べているのだろうか。


そんなことを考えていたら、少し塩味が増したような気がした…

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