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千物語  作者: 松田 かおる


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月下美人

僕には結婚を前提にして付き合っている彼女がいた。


だけどついさっき彼女の家に呼び出されて、彼女との関係の終わりを両親から告げられた。

そして帰り際、彼女の母親は彼女と育てていたという「月下美人」の鉢植えを譲ってくれた。

お詫びのつもりなのか何なのか、まったく意味がわからなかった。

そもそも園芸に興味はないので、こんな物を貰っても迷惑だった。

捨てようかと思ったけど、花に罪はないので持って帰ることにした。

ただ、そのまま家に帰る気分にはなれなかったので、酒を飲んで気分を紛らわせることにした。




すっかり夜も更け、僕はしたたかに酔っ払って公園のベンチに座っていた。

夜風も涼しくなっていたせいか、ついうたた寝をしてしまった…


「こんな所で寝たら風邪をひきますよ?」


そんな声をかけられて目を覚ました。

『余計なお世話…』

と言おうと声のした方を向いたけど、その言葉を飲みこんだ。

僕に声をかけてきたのは『彼女』だった。

…と思ったけど、よく見たら彼女に似ているだけの別人だった。

ただ、月の明かりに照らされたその姿は、何とも言えない美しさを見せていた。


「どうかされたのですか?」

彼女は僕に聞いてきた。

答える必要はなかったけど、なぜか今日あったことを話してしまった。

他人が聞いても少しも面白くない酔っ払いの話を、彼女は真剣に聞いてくれた。

そして

「そうだったんですね。でもきっと、いつかいいことありますよ」

と、にっこり笑って僕に言ってくれた。

こんな酔っ払いのくだらない話を真剣に聞いてくれて励ましてくれる。

情けないことだけど、僕はそんな彼女に惹かれてしまった。




「そろそろ夜も明けそうですので、ここで失礼しますね」

彼女がそう言う頃には、東の空が白み始めていた。

彼女は軽くお辞儀をして、ベンチから離れていく。

「あの!また会えるかな?」

僕が思わずそう声をかけると、

「さぁ?またあなたが会いたいと思ったら会えるかもしれませんよ?」

と言って去っていった。




「こんな所で寝ていたら風邪をひきますよ?」

同じ声をかけられて目を覚ますと、今度の声の主は警官だった。

…あれ?今のは?夢?

少し酔いが覚めた頭で考えていると、

「『鉢植えと話をしている酔っ払いがいる』って通報があって、来てみたら寝ちゃってるし…大丈夫?」

と警官が聞いてきた。

「あー、大丈夫です。お騒がせして済みません」

そう言いながらを傍を見ると、「月下美人」は一夜限りの花を咲かせてしぼんでいた。

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