表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千物語  作者: 松田 かおる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/94

ある日、突然「声」が聞こえるようになった。


「声」が聞こえるのは普通の人であれば当たり前だと思うけれども、わたしの場合

「その人の裏の声と表の声が聞こえる」

ようになってしまったのだ。


つまり、最初に左の耳に「その人の心の中の声」が。

それから少し遅れて右の耳には、「その人が実際に口に出している声」が聞こえるようになったのだ。


たとえば

「いつまで経っても仕事が遅いわね」

と左耳に聞こえてきた後から、

「いつも丁寧な仕事ねぇ」

と、実際に話す言葉が右耳に聞こえてくる具合だ。


もちろん、すぐに医者に行って診てもらったけれども、先生も「そんな症状、聞いたことがない」と、あっという間にさじを投げられてしまった。

その時左耳に聞こえた「医者にあるまじき声」については、触れないでおこう。


治療法がないとなると、「自衛」するしか解決方法がない。

そこでわたしは、できるだけ「左耳に聞こえてくる言葉」を減らすようにした。

相手の「心の中の声」が聞こえることを利用して先手を取るだけなのだから、何もしないでいるよりもはるかに建設的だ。

つまり、「できるだけ相手の心の声を出させないようにする」ことにしたのだ。


そうと決まれば話が早い。

…と思ったのだけれども、わたしが少し不器用なこともあって一朝一夕には行かず、最初はなかなか思った通りにできなかった。

場合によっては、かえって仕事をミスったりすることも増えてしまった。


けれどもわたしのその姿勢が伝わったのか、やがて話し相手からの「左耳の声」は少なくなっていき、ついにほとんど聞こえなくなる日がやってきたのだ。


「最近よく気が付いてくれているね」

という、上司の言葉ももらえるようになった。

そんな言葉も弾みになってか、しばらくして「左耳の声」は全く聞こえなくなった。

両方の耳に同じ言葉が聞こえるのは、当たり前だけれど素晴らしいことだ。

これで仕事にも前向きになれそうだ。




「ねぇ、最近あの子少し変じゃない?」

「そうね、あなたもそう思う?」

「そうよ。だって毎回毎回上司から怒られているのにニコニコして…」

「今だって、やらなくていいことを先走ってやって怒られてるのにね」

「なんだかまるで、お小言を誉め言葉に聞き換えてるみたいよね」

「そうそう、ちょっと不気味に感じるよね」

「私だったらあんなに怒られるのなんて耐えられないわ」

「ねー」




…ほら、周りの同僚もわたしの努力を認めて、気を遣って小声でほめてくれている…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ