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ネット・ライフ

「インターネット」という言葉が生まれてから随分と経ち、今では「ネット」は人々の生活に欠かせない存在となっていた。

かつてそこでは様々な情報を入手することができたが、やがて入手するだけではなく「ネットに情報を蓄えて活用する」こともできるようになった。


その際たるものが、「自分自身の情報をネットに保存し、そこで『暮らす』こともできるようになったこと」だ。


人々は自分自身の身体情報や記憶といった、「人であるための情報」全てをネットに保存することで、現実世界で生きている時と何ら変わらない生活を送れるようになった。

もし仮に肉体に何かあったとしても、「ネット」の中では今までと変わらず生きられるようになった。


そのおかげで、今ではネット社会で結婚し、家族を作って暮らし始める者もいるようになった。


俺もそのうちの一人で、ネットに俺自身の全ての情報を保存することで、現実世界と同じく生きられるようになった。

もう長いことネットで生きているから、元の肉体がどうなったかは俺も知らない。

俺はネットで知り合った人と結婚し、妻と息子、そして義父と四人で幸せな日々を送っている。


「幸せだなぁ」

俺が呟くと、それが聞こえた妻は

「なぁに、突然思い出したように」

と、クスクス笑いながら言ってきた。

「いや、こうして俺が望んだ理想的な生活が送れることが、本当に幸せだなぁって」

俺が言うと、妻は

「だってそれはあなたが『望んだ』生活なんだから、当たり前じゃない」

突然冷ややかな口調で言い、

「『ネット』で生きるということは『情報』の中で生きると言うことなんだから、『情報』さえあればどうにでも生きていくことができるのよ」

と続けた。


「…どういうことだ?」

「この生活も、『あなた自身が望んで作りあげられたもの』だということよ」

「そんなこと…」

「ないと言い切れるかい?」

横にいた義父が口を開いた。

「わしはお前の四十年後の情報から作られた、お前自身が望んだ義父の姿をしたお前じゃ」

続いて息子が、

「僕はお父さんの二十年前の情報で作られた、お父さんが望んだ理想の息子だよ」

と言った。

「そ…そんなバカな」

俺が状況を理解できないでいると、妻が

「わたしも、あなたの生体情報を加工して…」

そこから先は何を言われても、俺の耳には何も入ってこなかった。


それじゃあ、俺自身は本当に俺自身なのか?

それとも俺自身、記憶も含めて誰かの情報から作られたのか?


一体俺は「誰」なんだ…?

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