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千物語 I  作者: 松田 かおる


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ねがいごと

<あなたの願い、なんでもふたつ叶えます!>

鈴が転がるような声で、そんな言葉が突然俺の頭の中に響いてきた。


幻聴が聞こえてくるようになるなんて、よっぽど疲れてるんだろうか…

なんとなくそんなことを考えていると、

<幻聴じゃないよ、現実だよ>

と、また頭の中に言葉が聞こえてきた。

<幻聴じゃなければ、なんでそんなことを俺に言ってくるんだ?>

口に出すと怪しすぎるので、試しに頭でそんなことを念じると、

<んー、なんとなく?>

そう返ってきた。

どうやら俺の考えたことは相手に伝わるようだ。

<あんたはいったい誰なんだ?>

俺がそう聞くと、相手は「神様」だと答えた。

曰く、

<なんとなく、誰かの願いを叶えたくなっちゃった>

のだそうだ。

<で、俺がその『誰か』に選ばれた、と>

<せいかーい!>

「神様」はそう答えた。

ずいぶんいい加減な理由だが、とにかく「神様の気まぐれ」に俺が付き合わされていると言うことだ。


<で、なんで二つなんだ?>

俺の問いに、

<ひとつは自分のため もう一つは『自分以外』のため>

「神様」はそう答えた。

<だって自分だけじゃ、不公平でしょ?>

とのことだそうだ。

納得できるようなできないような気分でいると、

<じゃあ、願いが決まったら呼んで?あ、そうそう。あなたがなんでも願いが叶えられることは、世界中に伝えておくからねー>

「神様」はそう言うと、俺の頭からいなくなった…感じがした。


「…世界中?」

思わず俺は呟いてしまった。




それからと言うもの、次から次へと俺に近寄ってくる奴が増え始めた。

親、親戚、上司、同僚、友人…

果ては「テレビ局のレポーター」や「生き別れの双子」まで現れ始めた。


そんなことが一週間ほど続いた頃、俺はふたつの願い事を決めた。

早速「神様」を頭で念じて呼び出すと、

<決まったー?>

と、頭の中に声が聞こえてきた。

<決まったよ>

<それじゃあ教えて?>

<一つ目は、この話は無かったことにする>

<…は?>

<もう一つは、世界中のみんなからこの記憶を消す>

<…そんなのでいいの?>

<構わない、もううんざりだ>


こうして今回の件は、俺や世界中の人間の記憶から消えた。




「失敗だったなぁ」

あたしは思わず呟いた。

「自分のためだけにしとけばよかったかなぁ」

そんなことを考えていると、あたしの頭の中に強い念が飛び込んできた。




できるなら目の前で起こっていることをなかったことにして、もう一度やり直したい…

ああ神様、何とかならないでしょうか…

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