12日目
昨日から始めたかぎ針に、魔王を苦戦していた。
「この鉤の部分はずっと下に向けないとダメダメ」
「そう言われてもだな……」
折り紙の時とは違い、スパルタ編み物教室と化した人間の部屋には、魔王のほかにマーネと、ノックス。もちろん、ヒッチもいる。
魔王とともに、かぎ編みに挑戦しているのはマーネである。魔王と比べマーネは、すでにコツを掴んでいるのかスイスイと編んでいく。
「じゃ、じゃ、じゃ~~~~ん!!」
黙々と編んでいたはずのマーネが声を上げた。まるで仕留めた獲物を見せる猫のように、人間に近づいていく。マーネが手に持っているものは一本の長いひもであった。5mはあるだろうか。何がおもしろいのか、人間はニッコニコ笑いながらマーネが編んだひもを手に取り、よく見た。
「うんうん、すごく編んだねぇ。鎖も均等に編めてるし、いいね」
「でしょでしょ! やっぱ天才だったかもしらん!」
「いやぁ! ナイス天才!」
鎖とは、初心者が最初に覚えなくてはいけない編み方だ。人間曰く、鎖のように連なっているから鎖編みと教えてくれたが、それと同時に鎖より、三つ編みのようだけどね。と笑っていた。
「マーネはすごいな」
「まおちゃんもやっぱそう思う? うち、こーゆー作業好きだわ」
「魔王様、あまりソレが調子づくようなことを言うのは止めてください」
「ひっちゃんキビシィ!」
「でも、マーネが編んだ毛糸はお世辞抜きで綺麗だぜ」
ノックスの言葉通り、マーネが編んだ鎖はすべてが均等であり、美しささえ感じる。それと比べて魔王が編んだものは、鎖の大きさもバラバラで、実に不格好である。
「慣れれば、誰でもできるようになるからね。大丈夫だからね」
「私を誰だと思っている。折り紙だって、お手玉だって、できるようになったんだ。毛糸だって、私にかかればできない通りはない」
「よ、さすが!」
それから、再び魔王は黙々と編み始めた。凄まじい集中力である。鬼気迫る様子に、各々が別の反応を見せた。マーネは自分も負けじと編み出し、ノックスはそんな二匹の為にお茶を淹れ、ヒッチは相も変わらず毛づくろいを始め、人間も何かを編み出した。みんながみんな、違うことをしているはずなのに、なんとも心地いい時間であった。それはまるで、――――――まるで、家族のような……。
ノックスはお茶を淹れながら、1人と3匹を見ながら思う。
--まるで、悪夢だ。
人間がしていたことを見様見真似で、電気ポットを巧みに使い急須へお湯を注ぐ。適量を注いだら、蓋をする。湯飲みと呼ばれる、持ち手がないカップを人数分用意し、おぼんも取り出した。順番にお茶を湯飲みへと注ぐ。透明だった液体は、薄っすらと緑色に変化していた。
「これが人間の飲み物かぁ。本当に興味深いな」
しげしげと観察した後、冷める前にノックスはみんながいる場所へと戻った。
「みんな、お茶を淹れたから少し休憩しよう」
多少休憩しながらやってはいるが、編み物というのは知らず知らずのうちに肩が詰まっていくため、しっかりと休憩をするのも大切だ。肩をほぐすようにぐるぐる回してみたり、伸びをしてみたりするのがいいだろう。
「にしても、このお茶は体に沁みるな」
「麦茶と違って、お腹くだらないからいいだわね」
「麦茶ってなになに? そもそも、これは何茶なわけよ?」
「これは緑茶で、葉っぱから作るのね。麦茶は大麦の種子から作るんだけど、わたしは麦茶を飲みと冷えてお腹が下るんだわね」
「やはり原材料が違うから、色も違うのかい?」
「麦茶は茶色だねぇ」
魔王は麦茶も飲んでみたいと思ったが、わざわざ自分の体調が悪くなる飲み物なんて買うはずないか。と考え、緑茶とともに欲を飲み干した。
「あぁ、そういえば。孫は時々緑茶を飲みながら『カテキンカテキン』って言いながら飲んでたわ」
「察するに緑茶に含まれる成分のことですか?」
「たぶんねぇ。成分なんて調べたこともなければ、気になったこともないからねぇ」
それから4匹は緑茶……というより、孫に倣い「カテキン、カテキン」と言うことを楽しんだ。




