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君のためなら私は何だって捧げる勇気がある。

作者: モ虐

僕にしてはまぁまぁ長めに書けた気がします。

クリスマス短編の数倍はあります。

僕には彼女がいた。

いるのではない。いた。過去形だ。


僕は新幹線の中で泣いていた。

悲しい、辛い、そんな言葉で表すのは難しいなにか複雑な感情が入り混じっている。


眠ってしまおう。一旦眠ってこの気持ちから逃げよう。

そう思って目を閉じて眠りにつく。


だけど僕は夢を見た。彼女の夢を。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



彼女の名前は三嶋夏菜子(みしまかなこ)。塾の自習室で出会った1つ年下の女の子で、夏菜子は僕と同じくアニメ好きのインドア派だった。


夏菜子と出会った時、僕たちは同じアニメのキャラの話で盛り上がり、意気投合した。

連絡先を交換し、家でも自習室でも、趣味の合うオタク仲間として仲良く会話し続けた。


夏菜子と出会ってから半年ほど経った頃だったと思う。

僕らは、「あの2人もう付き合ってるんじゃねぇの?」

「仲良いよね?カップルなのかな……」

なんてことを言われるレベルに仲が良くなっていた。


そんなある日、その日は塾の授業はなかったのだが、僕は自転車を走らせていた。

塾につくと自習室の中に入り、席につく。

筆箱を出して、数学のワークの、テスト範囲になるであろうページを開く。

数学は、できれば二度と数字を見たくないレベルで嫌いな教科で、100点満点の定期テストで10点を取ったこともあるほど苦手な科目なのだが、勉強しないと流石に怒られるので頑張ることにする。


そうしてる間に、横に1人の女子が座って僕の方をトントンと叩く。

「おはよ、ハヤ。」と小さな声で僕に呼びかけるこの女子が夏菜子だ。

僕の本名は小林隼人(こばやしはやと)なのだが、下の名前から2文字取って"ハヤ"と勝手に呼んでいた。

そういう僕も夏菜子のことはカナと呼んでいたのだけど。

「おはよ。カナ」


「ねぇハヤー!テスト勉強したくないんだけど。」

「自習室で勉強教えてって言ってきたのはカナじゃなかったっけ?」

「そうだけどさぁ………いざやるってなると嫌になるんだよねー」


と言いながらもここ教えて、と言い夏菜子はワークを開いた。

僕は数字と理科は壊滅的だが、国語と英語は90点台を取れる。

英語と古文を中心に僕はこうしてたまに自習室で夏菜子に勉強を教えている。


僕は復習になるし、夏菜子はしっかり理解できるし一石二鳥なのだ。

僕は中3で、受験も控えている。

今はまだ6月だがそれでも勉強するに越したことはない。

僕もテスト勉強をしつつ夏菜子に勉強を教えるためにこの時期の休日は自習室で過ごしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あぁーー疲れた。」

昼休憩なんかも挟みつつ、かれこれ5時間(もちろん休憩時間を除いて)ほど勉強した。

「じゃあ帰るか。」

「うん。ゲームする。

ねぇハヤ。素材集め手伝って。今日はフィールドボスを周回して、その後は大量の素材たちを狩りに行くよ。」

「あの新キャラの育成素材取るのか?また夜通しの作業が待ってそうだな。」


喋りながら自習室を出て、帰ろうとした時。

俺達とすれ違うように、自習室を使いに来た夏菜子の同級生と出会った。


「ねぇ夏菜子、その人って彼氏?」

と流れるようにデリカシー無く質問してきた。

「違う!彼氏じゃないよ〜!ねぇハヤもなんか言ってよ!」

「今ここでカナが僕のことをハヤって呼ぶと説得力下がるよ。

あ、カナって言っちゃった。」

「ねぇほんと何してんの!?ハヤって時々バカだよね!」

そうやって言い合っている僕達を見て夏菜子の同級生は、バカップルを見るような目でニヤニヤしていた。

「じゃ、じゃあ私自習室で勉強するし、また今度ね!お幸せに〜」

と言って去っていった同級生を見て夏菜子はため息をついた。


「はぁ……実は、こんな空気で言いたくはないんだけどさ、ハヤに言わないといけないことがあるんだよね………」

え………?急にどうしたんだ?

そう動揺する気持ちを隠しつつ、

「言わないといけないこと?何それ?」

と聞くと夏菜子は困ったように言った。


「私、あと8日京都に引っ越さなきゃ行けなくなったの。」

「………え?」


驚きのあまり、僕は思わず聞き返してしまった。


「親の仕事の都合で急遽引っ越しが決まってさ、今私たちがいる東京からそう近くもないし、もうしばらくはこうして会うこともできないと思う。それでね。遠くに行っちゃう前に言わなきゃって。」


夏菜子は深呼吸して、緊張していたのか少し大きすぎる声で言った。


「ハヤのことが好き!付き合ってください!」


「………え?」


僕はまた、思わず聞き返してしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夏菜子とは今まで仲良く接していたし、趣味も合うし、顔も悪くない。夏菜子のことが嫌いなわけでもない。

なので僕は夏菜子と付き合う事になったが、

結局、夏菜子が東京にいる間に関係が進展することはなく、今まで通り過ごしていた。


そして8日が過ぎて、夏菜子が京都に引っ越す当日。


今日も夏菜子は自習室に来ていた。

「あ!ハヤ!こっちこっちー!」

いつもと変わらずの元気な夏菜子がいた。

その後僕たちは普通に勉強して、帰る時は、今日だけは僕が夏菜子を家まで送ることになった。

最後の日なんだから一緒にいる時間を増やそうと僕が提案した。


「ハヤ………送ってくれてありがとね。

しばらく会えなくなるけど、またいつか絶対会おうね。」

「うん………」


僕も夏菜子も涙目で、泣きそうな声だった。


「電話とかはできるし、寂しかったらいつでも電話してね?いつでも出てあげるから。」

「うん………」


気づけば、夏菜子よりも僕のほうが先に泣いていた。

夏菜子のことを、最初はただの友達としてしか見ていなかったが、無意識のうちに次第に意識していたのか、それでも彼女になったからなのか、

もう友達としてではなく女としてしか見れなくなっていた。

そんな夏菜子がいなくなることは、僕にとってはとても辛いことだった。


「じゃ、またね………ハヤ。大好き。」

涙を流しながら夏菜子は、背伸びをして、僕の首に腕を回し、そっと優しくキスをした。

涙を流しながら夏菜子は、ニコッと笑って、僕に言った。

「泣かないでよ………ハヤ。

私はいなくならないから。

会えないだけで、通話はできるし。ずっとハヤの事大好きだから………」

僕は涙を拭い、か細い声を絞り出すように

「いってらっしゃい」と言うと、夏菜子は少し嬉しそうで、でも悲しそうな顔をして


「うん………またね、ハヤ。」


それだけ言って夏菜子は家に入っていった。

僕は涙が止まらなかった。

その場でしばらく泣き続けた。

15分経って、僕はやっと家に向かうために自転車を漕ぎ出す事ができた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夏菜子が京都に引っ越してからも、夏菜子との関係は途絶えなかった。

夏菜子があるグループLINEに以前招待してくれたので、そのメンバーと共に会話することがほとんどだが、

そのメンバーとも非常に仲良くなった。


が、ある日全てが崩れた。

夏菜子が京都に引っ越して2ヶ月ほど経ったある日のこと。

夏休みに入り、時間もできた。

グループで会話したり通話する時間も増えてきた。


夏菜子の親友、と紹介されたもののリアルで会ったことはなかった、玲という女。

彼女がグループに投下した1つの写真がグループの仲をぐちゃぐちゃに引き裂いたのだ。


その写真は、LINEのスクショ昨日を使った、非常に縦に長い写真だった。

ただそれだけなら面白い会話なのかなと思えただろう。

一つだけ奇妙な点がある。

僕は玲と個人チャットで会話をした覚えはない。だがスクショにあった玲との会話の相手は紛れもなく僕のアイコンと名前と一致していた。


僕のLINEのユーザー名は「ハヤ」に設定していて、アイコンには僕の好きなゲームのキャラのイラストになっていた。

玲は確実に僕のようなアカウントとやりとりをしているが、それは僕ではなかった。


恐らくは玲が僕のアイコンと名前を同じにしたサブアカウントでも作ったのだろう。

それと玲のアカウントでやりとりを行った文がこのスクショなのだろうか。

それだけでもすでに恐ろしいのだが、何よりも恐ろしいのは内容だ。


僕と玲がイチャついているのだ。

はっきり言うと玲のことを恋愛対象として見たことは1度もないし、

僕には夏菜子がいるし、夏菜子以外の女に浮気するなんてこともあり得ないと断言できる。

もちろんできるが、こんなふうに画像を投下されては夏菜子も勘違いしかねない。


ハヤ

「悪い冗談はやめてよ玲w

カナが勘違いするからやめてw

てかそのトーク画面どうやって作ったの?w」


「作ったとか勘違いとかじゃなくて全部事実じゃん。私に浮気してるのさっさと暴露して、いい加減私だけを見てよ」


ハヤ

「いやいやいやwほんと良くないってw

マジでみんな勘違いするから」


カナ

「え?何これ………」

「ハヤ、浮気してたとか最低」


〈 ハヤ は カナ にグループから追放されました〉


LINEはブロックされて、いろんなゲームのフレンド登録も削除されていた。恐らくはこれもブロックなのだろう。

僕は、何の説明もできないまま夏菜子の縁を切られることになってしまったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



まだ夏休みの前半ではあったが、

僕は夏休みが始まる前から宿題に取り掛かっていたためもう宿題は終わっていた。


僕は母さんに、「友達と旅行に行く」と嘘をついて京都へ一人旅に出た。


といっても、清水寺や金閣寺、北野天満宮なんかに行くような楽しい旅にはならないかもしれない。

夏菜子の家に行って、事情を説明して、信じてもらうこと。

それが今回の目標だ。それ以上は求めない。


以前夏菜子は、自分の通っている学校と、そこから自宅まで何分か、といったことまで話していたので、

マップアプリのストリートビューなどを駆使して家の位置を割り出すことは簡単だった。


入り組んだ住宅街を歩き回り、「三嶋」と書かれた表札を見つける。

そのすぐ横のインターホンを押すのを僕は少しためらっていた。


2分。インターホンを押すまでかかった時間だ。

文字で見ると短いように思えるが、感覚としては永遠のように感じられた。


「はーい!」

と聞き慣れた声が聞こえた。

夏菜子の声だ。


ドアが開いて夏菜子が顔を出した瞬間、夏菜子はすごく嫌そうな顔をした。


「何?浮気したこと謝りにでも来たの?」

と、ダルそうな声で言う夏菜子に、僕はスマホの画面を見せた。


「僕のトーク一覧。ここに「玲」はいないでしょ?ほんとに僕は浮気なんてしてないし………」

「それは君がトーク履歴消しただけじゃないの?」

睨むような、蔑む様な目で夏菜子は僕を見つめる。

「違う!そもそも僕はグループの人との個チャはカナとしかしてないって!

きっと玲がアイコンと名前が僕のと同じサブアカでも作ったんだよ!」


「もういいよ。あんなスクショ見たあとにそんな安っぽい嘘が通じるわけ無いじゃん。

もう別れよう。そして、私の前にもう姿を見せないで。」


それだけ言うと、夏菜子は静かにドアを閉じた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


京都からの帰り、新幹線の中で夏菜子の夢を見てうなされながら泣いていた俺は、隣に座っていたおじさんにすごく心配された。


赤く腫れた目を擦りながら、僕は家に向かった。


夏休みは、この一件を除けば何事もなくすぎていった。

僕はもう恋愛から距離を置くことにした。

もうこんなトラウマはいらない。

もう傷つきたくない。


そう思っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


だが、2学期の始業式の日。


帰り道のことだった。

僕はいつも通り一人で帰っていた。


「小林?どしたの?

なんか、”とんでもないトラウマ植え付けられましたー”みたいな雰囲気醸し出してさ。

学校から気になってたんだよねー」


黒崎(くろさき)茉美(まみ)

クラスの陽キャであり、人気者であり、学級委員であり、美女であり、クラスカーストトップの人物だ。

肩まで伸びたうっすら茶髪に染めた髪、大人しい性格。男子にはモテモテの女子生徒だ。

そんな人が僕の隣の席なので、陰キャという要素も相まって、最近は学校内では僕がかなり迫害を受けているような印象だ。

それほどに周りから好かれる人物なのだ。


「まぁ、彼女………いや。元カノと色々ありまして………ね?」

「え⁉︎小林に彼女いたんだ……」

普通に失礼な話だが、まぁ運動も勉強も体格も顔も至って普通の平均的な、強いて言えば陰キャっていうのが特徴なだけの男に彼女ができるというのは意外っちゃ意外なんだろう。


「実は……」

僕はこれまでの経緯を割と事細かく話した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「えぇ………そんなことってあるの………?小林って陰キャで特に取り柄がないだけで、結構優しいし、性格はいいと思うんだけどなー」

この言い方だとどうしても性格以外の部分が気になってしまう。

「まぁ、確実に玲のせいだけど、どうしようもないんだよなぁ………」


「ねぇ、小林はさ、彼女ちゃんとはもう別れたんでしょ?」

「え?まぁ、そうだけど」

傷心中の人にかけるにしてはデリカシーのない言葉をかけてくるなぁとは思ったが、

何によりも衝撃的だったのが、



「じゃあ私と付き合わない?」


という発言だった。


「………え?」

僕はまた、思わず聞き返してしまった。

ただ、今回は言葉を発することができた。


「で、でも……俺、まだカナ…夏菜子に未練しかないし」

「いいよ?未練たらたらでも。いつか必ず小林をオトしてみせるからさ。」


「それに、別れてすぐに付き合うって………

なんか浮気みたいにならない?」

「彼女ちゃんにフラれたなら、小林が私と付き合おうがなんだろうがもう何も言えないでしょ?」


「それに、僕………怖いんだよ。

また、カナ……夏菜子みたいに僕の目の前からいなくなってしまわないか、誰かに関係を壊されたりしないかって。

不安なんだよ………」

「小林………」


学年のマドンナである黒崎が僕と付き合ったなんてことになれば学校中は大騒ぎ間違い無しだ。

それに、僕のことを面白く思わない男子も多数出てくることだろう。


そうなれば僕と黒崎の仲をなんとしてでも引き裂こうとあの手この手で策を尽くされることだろう。

玲がグループLINEに投下したスクショなんかよりもとんでもない形で僕たちの仲を引き裂かれることだろう。




そうなるのが、恐い。




今の黒崎は僕のことを少なくとも嫌ってはいない。何なら好意的には思っていると言ってもいいのかもしれない。

だがもし僕の予想通り、僕と黒崎の関係を引き裂こうとする者が出てくるのなら、

僕が黒崎と付き合うことで黒崎を苦しめることになるのだ。



「ねぇ小林。もしかして、小林と付き合うことで私が迷惑するんじゃないか〜、とか思ってる?」

「え、なんでわかったの?」


「なんか難しいこと考えてる顔してたし。

そして、私は小林と付き合いたいって言ってるんだよ?」

「僕なんかのどこがいいの………?

学年のマドンナに告られて、手を差し伸べられて、その手を取る勇気もないヘタレで、

なんの取り柄もないただの陰キャの!

こんな僕のどこがいいんだよ………」


黒崎は顔を赤くして、

「ねぇ、好きな人本人の前でその人のどこが好きか言わせるってある種の拷問か何か?」

といった後少しモジモジした後再び口を開いた。

「いやぁ、まぁ………優しいし気遣いとか気配りとか私以上にできてすごいなって思うし、

よくノートとか宿題とか見せてもらったとき大体合ってるし、頭も悪くないと思うよ?

それに、運動できないからーって言ってるけどその分体育大会の練習とか誰よりもガチでやってたじゃん。


いいところなんて自分が気づかないだけで結構あるんだよ?」


「ホントに僕でいいの?」

「小林がいい。」


「僕、すぐには黒崎のことだけを見るってできないよ?元カノのこと、しばらく引きずるよ?」

「それでもいい。いつか小林の頭の中を私でいっぱいにできたらそれでいい。」


そういって黒崎は僕の右腕に抱きついてきた。

「!?っちょ………」

「照れてる照れてるぅ〜

喜べ少年。君の右腕には美人な彼女が抱きついてるよ〜」


顔が熱い。今は多分真っ赤なんだろうなと自覚できるレベルには熱い。


「僕………勇気なんてないよ。

黒崎もいなくなるかもしれない、

いじめられるかもしれない、

幸せにできる自信もない………

そんな僕が、また恋愛をする勇気はないよ……」


「そろそろ怒るよ?

私はいなくならない。

小林をいじめる人が出てくるなら私がやっつけてあげる。

それに私は、君が私の横にいてくれるだけで嬉しいんだよ?


私は、君を幸せにする。

君のためなら私は何だって捧げる勇気はあるよ?」



黒崎は僕の右腕から離れて、僕の正面に立った。

僕の背中に手を回して、僕をそっと抱き寄せた。


「大好き。私と付き合って。

君のために全てを捧げる。それだけの勇気を持って私は君に告白した。

君に足りないものは私が補ってあげる。」


甘く優しい声で黒崎は僕に語りかけ、僕を見つめる。


「こんな不束者ですが、どうかよろしくお願いします。」


「堅い堅い!まぁなんか小林らしいっちゃ小林らしいけどさ。」



僕に足りない勇気を、黒崎は持っていた。


夏菜子と別れて、恋愛から距離をおいてもう傷つかないように、逃げようとしていた僕に向き合おうとしてくれた。


僕はそんな輝かしい、褒められた人間ではないと思っている。


でも黒崎は僕を肯定してくれた。



僕は黒崎から差し伸べられた手を取ることにした。

僕は、黒崎から勇気をもらった。


僕は再び、歩きだすことにする。

彼女からもらった勇気を、胸に抱いて、

トラウマなんか乗り越えて、前に進むことにする。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それから15年の月日が流れた。


高校、大学への進学、そして就職、結婚。


今、僕は某有名ゲーム企業の社員として働いている。

8年の交際を経て、僕と黒崎と結婚した。


今は5歳と1歳の2人の子供に恵まれ、幸せな家庭を築くことができている。


「ただいまー」

僕がこうして玄関のドアを開けると、

「あ、隼人!おかえりー」「パパおかえりー」「あぁーう」


自称”永遠の18歳”である茉美と、5歳の息子の翔太(しょうた)と、1歳の娘の絵里(えり)が出迎えてくれる。

この瞬間が本当に幸せだ。


「「「ぎゅー」」」


僕の右足と左足にそれぞれ翔太と絵里が、右腕に茉美が毎日のように抱きついてくる。

なお、これは僕が結婚して以来ずっと続いている。


「ご飯もうすぐできるしみんなで食べよ?」


あの時、茉美の告白をOKする勇気が僕になければ、

あの日、茉美が僕に差し出した手を僕が取れなかったら、

この幸せは手に入れられなかったのだろうか?


いや、違う。

茉美も、僕に告白する時、「君のためなら私は何だって捧げる勇気はあるよ?」と言っていた。

双方の勇気が、僕のトラウマを乗り越え、こうして結ばれるきっかけを作ったのだ。







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