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エトピリカに重要な人物

 エトピリカは申し訳程度に据え付けられた扉を開く。


「ごめんください。テッドさん。いますか?」


 部屋の奥にはモノクルをつけた男が一人いた。


「いるよぉ。久しぶりだな。エトピリカ」


 テッドと呼ばれた男は面倒くさそうに返事した。


「テッドさん。今日は金を持ってきたんだ。いつものように頼みます」


 エトピリカはそういうと、家から持ってきた小瓶をテッドに渡した。


「おう。今量るから待ってな」


 テッドはグラム単位で計る計量器を持ってくる。そして皿の上に小瓶の中身を乗せた。


「今日のはいくらぐらいになりますか?」


 エトピリカがわくわくしながらテッドに尋ねる。


「おぅ。20gほどだな。純度についてはお察しだから10万ギータといったところか。随分あつめたじゃねーか?」


 テッドは計量器の目盛を見ながら答える。


「うん。ここのところ電化製品の廃棄が多かったから頑張って基盤を集めたんだ」

「お前のシマは食料品の廃棄も多いし、いい場所に陣取ったものだな。ほらよ、代金だ。きちんと揃っているかはこの場で確認しろ」


 テッドはカードを差し出す。デジタルマネーであり、残高はカードリーダーを通さなければわからない。


「テッドさんが金額をごまかすわけは無いし、確認はいらないよ!」


 エトピリカは朗らかにそう答えた。


「エトピリカ。俺を信用するのは結構な事だが、俺が渡す電子マネーカードを間違えていないとは限らないんだぞ。それにお前、そんなんじゃいつか足元をすくわれるぞ。これは忠告だ」

「そのくらいわかっているさ!」

「お前はわかってない! …・・・でだな、隣にいる女は一体誰だ。お前が女連れとは純朴なガキだと思っていたが油断したぜ」


 エトピリカはメイデンを見た。


「この子はゴミ山で拾ったアンドロイドだよ。メイデンというんだ」


 メイデンはスカートのすそをつまみあげ、上品なしぐさでテッドに挨拶をする。


「はじめまして。テッドさん。私はメイデン。形式番号SEX-DROID 5590667」


 テッドは驚いてメイデンを見た。


「ほぅ! 人間そのものにしか見えない上等なアンドロイドじゃねえか! 金よりこっちのほうが掘り出し物だろうよ」


 エトピリカは「えへん」と得意げになっている。


「メイデンは何でも知っているんだよ!」

「エトピリカ。私は知っていることしか教えられないよ!」


 メイデンは人前で褒められてポッと頬を赤く染めてみせる。彼女は照れの概念は理解している。照れの定義に従って、その時の挙動を行ったようだ。


「へぇ。よく出来たアンドロイドだな。しかし女型なんだな。まぁ、男型だろうが女型だろうが耐久力や腕力は同じだろうがよ」


 機械に性別の概念と定義はあっても、男か女かの問題については性能面には影響しない。

 メイデンは製造理由の為により性別面を重要視されていて、人間の女に近い姿を持っている。ぱっと見た外見でアンドロイドと見破るのは難しいほどに。


「メイデンがどこかへ行きたいというから、この地下都市に連れて来たんだよ」


 テッドが腕組みして「うーん」と唸った。


「お前にとっては馴染んだ場所でも、普通の人間には危うい場所なんだがな。まぁ、アンドロイドには治安の悪さなんてわからないだろうがよ」

「僕には生まれた場所以外のところなんてわからないから・・・…いつかはこの星を出たいんだけれどね。宇宙船にも乗ってみたいんだ」


 テッドには戸籍も無いエトピリカが宇宙に脱出するのは難しい事はわかっていた。生まれた星を明らかにできない者は移民申請するのも難しい。戸籍が無いというのは存在しないのと同義なのだ。


「…・・・エトピリカ。今宇宙港に遥か彼方から来た宇宙船が停泊しているらしい。見るならタダだぜ。ついでに乗組員にどうやったらなれるのか聞いてみたら良い」


 エトピリカは目を輝かせる。


「えっ、宇宙船? やったー! 見に行ってみるね! 行こう、メイデン」


 エトピリカはメイデンの手を取って店を出た。

 エトピリカ達はもと来た道を帰る。と、ふいにエトピリカを呼び止める声。


「エトピリカじゃないか。なんだい久しぶりだねぇ」


 地下都市の娼婦だった。電子ドラッグを吸っていた。


「エイラさん。お久しぶりです。ごきげんいかがですか?」

「どうしたもこうしたも、坊やが女の子連れでこんな場所を歩いているのを見て驚いているのさ。あんたもそんな年頃だったのかい」

「メイデンのこと? メイデンはアンドロイドでうちの近くで拾ったんだよ」


 エイラと呼ばれた女はじーっとメイデンの顔を見つめる。


「よく出来たアンドロイドだねぇ。まるで人間みたいだ。何用に作られたアンドロイドなんだい?」


 エトピリカは髭爺の言葉を思い出す。


「セックス目的って髭爺は言っていたよ」


 エトピリカの言葉を聞いてエイラは噴出した。


「ッハハハ! 坊やも大したものを拾ったじゃないか! 興味があるのなら私が教えてあげたってのに。坊や。その分ならそっちの子を試すのはまだなんだろう? うちによって行きな。色々教えてあげるからさぁ」


 そういうとエイラは生足なまめかしく木箱に載せ上げ、エトピリカの行く手を阻んだ。


「えっ、なにを・・・?」

「なにってナニに決まっているじゃないか」


 エイラはそういうとスカートをたくし上げて太ももをあらわにする。


「わわっ、そんな、大丈夫です!!!」


 エトピリカはそういうとヒシッとメイデンの腕にすがりついた。


「おやおや。その子が随分とお気に入りなんだねぇ。初物を頂くのは断念しようかしら」


 エイラは足を下ろした。


「あわわわ、失礼します!!!」


 エトピリカは慌ててメイデンの手を引きその場を後にした。


「またね、坊や」


 エイラは残念そうにエトピリカ達の背を見送った。

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