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温泉

 エトピリカ達が訪れたのは町外れの天然温泉だった。

 あちらこちらから湯気が立ち上り、硫黄の香りがあたりに充満していた。

 エトピリカは温泉街がある一角には行かず、外れの林の中へと入る。

 森の中の岩場にある小さな温泉。人が五、六人も入れば隙間がなくなるのではないかと言う露天風呂だ。


「着いたよ。ここならタダで入れるし、人も来ないからいい穴場なんだ!」


 エトピリカは自慢げだ。


「こちらでございますか。さっそく入りましょう」


 メイデンは預かっていたボロ布を岩場に置いた。そして着ていた服を脱ぎ始める。彼女は洋服の下には扇情的な下着を履いていた。

 元々の装備らしい。エトピリカが服を脱ぐか迷っている。なんの躊躇いもなく裸になるアンドロイドに慣れることは無さそうだ。少年は視線を泳がせる。

 そのことに気がついたメイデンがエトピリカの手を取る。


「私と一緒ではお嫌ですか?」


 アンドロイドは誘うように囁いた。


「えっ、そんなこと無いよ?」


 他者に否定的に接するのが苦手な少年は思わずそう答えた。アンドロイドは少年の答えを同意、或いは肯定と受け止めた。

 スッとメイデンは少年の服を優しく脱がせる。少年はされるがままだった。


「ご主人様とご一緒できて嬉しゅうございます」


 アンドロイドに感情はない。どのような言葉がどのように相手に受け止められて、どのような仕草や表情が相手にどう思われるのかを計算づくでそのように振る舞うだけだ。

 だが少年はアンドロイドに詳しくない。徹底的に男性に媚びるように作られているアンドロイドにどう対処したらよいかわからぬままに流されはじめた。

 そんな少年の体をお湯が伝い流れる。メイデンが少年の体にお湯をかけていた。


「あっ、あの……」


 と、エトピリカが何かを言いかけたが、


「お体をお流しいたします」


 そう言うとメイデンは少年にお湯を掛け流し、持ってきた布切れの一つでエトピリカの体を洗い始めた。

 エトピリカはなぜそんなことまでされるのかわからなかった。

 腕を、背中を。腹部を、下半身を。隅々まで洗われる。とくに下半身をやたらと丁寧に洗われて、少年はくすぐったく感じたようで、アンドロイドから離れようともがいた。

 その拍子に少年はアンドロイドを押し倒す。湯でテカるアンドロイドの裸体。皮膚は人工皮膚で人間と変わらなく、体温も人肌に保たれている。少年が思わず掴んだアンドロイドの胸は生きた人間の女性とほとんど変わらなかった。


「ごめん!」


 少年は反射的に手を離す。と、少年はバランスを崩して顔からメイデンの胸に突っ伏した。


「今日は積極的ですね。ご主人様。もっと体で触れ合いとうございます」


 アンドロイドが蠱惑的に見つめてエトピリカを抱き寄せる。

 少年はアンドロイドと裸で抱き合う格好となった。

 互いの肌を伝うお湯が湿り気となり、より肌と肌を密着させるかのように肌を吸い付けさせる。

 メイデンは少年の頬に手を掛け、少年に口づけをした。

 少年にとっては初めてのキスである。はじめは何をしたのか理解できなかったようだ。

 少年は慌ててメイデンから離れる。メイデンの指先は名残惜しそうにエトピリカの体を沿うように触れる。


「僕らは温泉に入りに来たんだよね! 人が来るかもしれないし、早く入ろう!」


 少年は慌てて言ったがそれは嘘だった。少年がこの岩場の温泉に入りに来て、他の人間と行き合ったことは一度も無かった。

 それはともかく、少年は難を逃れた。

 エトピリカはヒゲ爺に注意されたことを忘れたわけではなかった。手を出すなよ、という言葉が何を意味するのかがわからなかっただけだ。だが、今はなんだかとてもいけないことをしているような気分になったので身を引いたのだ。

 具体的に自分がメイデンと何をするとどうなる可能性があるのかも正しく理解していない。少年に性についてを教える者もいなかった。

 そうである為に行われる危険なやり取り。

 メイデンには悪気など一切ない。ただ、己が作られた役割を果たそうと、事をなす為にあらゆる方法でアプローチするだけだ。

 ともあれ、少年はその場の窮地を脱した。1つは貞操の危機。もう1つは去勢されかねない危機。

 エトピリカは雰囲気を誤魔化そうと温泉に飛び込んだ。

 そこそこに熱い湯。そんなに長くは入っていられないだろう。

 メイデンも起き上がって後に続く。


「なかなかに良い湯加減にございますね」


 メイデンは腕で自らの胸を隠しながら湯に浸かる。


「ねぇ、気になっていたんだけど、僕に対してそこまで丁寧な言葉づかいじゃなくてもいいよ」


 少年はアンドロイドの裸体から目を背けた。目の置きどころに困っているらしい。


「わかった。これで良い?」


 メイデンは即座に言葉づかいを切り替える。


「うん。そのほうがいいかな。なんだか慣れなくて」


 少年が慣れないのはアンドロイドの存在全般だ。それ以上に身近な誰かという存在。だが、少年が自分の中の感情と向き合うにはまだ少しばかり早かった。

 彼はようやく十三になるかどうかと言う年齢。世の中のあれやこれやを学ぶのはまだまだこれからである。


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