貧困層のエトピリカ
人類が銀河に出た年を元年とする銀河歴。その2557年の12月。と言っても、一年は地球が太陽の周りを公転する周期に過ぎず、もはやカレンダーに大した意味はなかった。
場所は地球から遙か5000光年の彼方にある惑星バベロ。貧しい鉱山惑星であり、鉄鉱石が取れる以外に価値のない惑星であった。
坑夫が大半を占め、他は仕事にあぶれたものばかり。酒場と売春婦だらけの荒んだ星だ。
その貧しい星のスラム街に一人の少年が住んでいた。ストリートチルドレンであり、家族はいなかった。
少年はゴミ廃棄場に住んでいて、同時に周囲は少年の縄張りとなっている。
貧しいストリートチルドレン達はごみ拾いで生計を立てているが、縄張り意識が強く他者が縄張りを荒らす場合には殺傷することも厭わない。彼らには生活がかかっているから当然だ。
少年の縄張りは小さなごみ捨て場だった。普段は生ゴミなども捨てられるが、それは少年にとっては餓死することがないという素晴らしい話となる。
たまのめぼしいものと言えば壊れた家電であり、少年はそれを拾っては修理して売り払っていた。
限界ギリギリの生活。そんな少年のもとにある大きな出来事が巻き起こる。
少年はいつもの様にゴミ山に使えるものが無いかとあさりに来た。だが、いつもと様子が違う。
「うわっ、なんだ? 女性がゴミ山に寝ている!?」
少年は驚いた。ゴミ山の上にきれいな女性が横たわっていたのだ。
「あれっ、息をしていない?」
少年は女性を観察した。どうやら生きた人間では無かった。だが死体でもない。
女性は精巧にできたアンドロイドだった。
「こんなきれいなのに棄てる人がいるんだ……」
少年は女性アンドロイドを家に持ち帰って調べた。動力部。駆動部には問題がない。
少年はアンドロイドの電源をどうやって入れるのか探し、ようやく電源を入れた。
アンドロイドがパチリと目を覚ます。
「ハロー、新たなるマイマスター。ユーザー登録をお願い致します」
機械音声がそう告げた。
「僕? 僕の名はエトピリカ」
「エトピリカ。登録致しました。はじめまして。我がご主人様」
少年は喜んだ。それは拾い物が普通に動いたからだ。
「やった! さっそくヒゲ爺に売りつけてこよう」
少年にとっては拾ったものは売って生活の足しにする以外に発想はない。だから当然の成り行きだった。
少年はアンドロイドを連れて、町中にある小さな工場に出向く。
工場にいたのは白ひげを蓄えた老人だった。
「なんだ、エトピリカ。ん?そっちのはアンドロイドか。どうした、拾い物か?」
「そうだよ。ヒゲ爺、いくらで買ってくれる?」
ヒゲ爺と呼ばれた老人はアンドロイドを値踏みするように見た。
「ふむ。おい、アンドロイド。お前の形式はなんだ?」
「SEX-DROID 5590667にございます」
「ん? なんだって? 今なんて言った?」
ネットで調べていたヒゲ爺は大笑いを始めた。
「ヒゲ爺。どうして笑っている?」
エトピリカはヒゲに尋ねた。
「これが笑わずにいられるか! このアンドロイドはセックス目的に作られたものだが欠陥品なんだよ!」
エトピリカはヒゲ爺の言っていることがよくわからなかった。
「なんだそれ? 価値が無いってこと?」
「そうだ。このアンドロイドはな。セックスのさなかに電圧の不調で男性器をすり潰しちまう不具合があるんだよ。ついたあだ名がアイアンメイデンだ! 間違っても手は出すなよ!」
ヒゲ爺は大笑いしてエトピリカにそう告げる。
「買ってくれないのか?」
「製造時点からの不具合品だ。買い手がいねーよ。そもそもセクサロイドを中古で買うやつはいねーさ、ボウズ。持って帰るんだな」
ヒゲ爺はエトピリカを追い返した。少年がとぼとぼと歩いて帰るので、終始アンドロイドは少年を気に掛ける。
少年は仕方なくアンドロイドを家まで連れて帰った。