《第2話:困難と歓喜の午後》
15時30分。ドライバー達は、今回のストライキの発起人、ニキ・ラウダの部屋に集まり、今後のストライキの予定について、ピローニから話を聞くことになっていた。
「えー、まず、メンバーの確認をしますが・・・テオ(ファビ)とマス爺さんがいませんね。」
「確かに、昼間から全く見かけねえな」
「まさか逃げ出して、サーキットにいるんじゃ・・・」
「最悪、ここを抜け出して、バーニーにチクリに行ったんじゃ・・」
「よし、今から「マス・ファビ捜索隊」を結成する。アンドレア(デ・チェザリス)と僕は、サーキット内を捜索する。リカルド(パトレーゼ)とネルソンのブラバムは、ホテル内だ。その間、ここにいるメンバーの指揮は、ニキにお願いする。」
「よし、わかった。後は、任せておけ。」
ピローニ達が捜索に行っている間、ラウダがドライバー達にストライキの予定を伝える。
「連中、俺らのストライキで慌てふためいてるだろう。動きがあるならば、今日中だ。」
「その間、外出とかはどうなるんだ?」
「外に出る場合は、外に一台小型車を停めてある。目印は、ハンドルについてるオーストリア国旗と、外からでも分かるように、ボンネットにラウダ航空のマークをつけた、黄色の車だ。それをみんなで使いまわすことにする。」
「では、捜索隊から連絡があれば、電話で知らせる。」
ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・
早速、捜索隊から連絡が来た。
「はい、こちらGPDA本部。」
「ああ、ニキか、アンドレアだけれども、サーキット内をくまなく探した結果、テオが見つかった。どうぞ。」
「了解。テオの連れ戻しはディディエ(ピローニ)に任せる。お前はブラバムの2人と合流し、ヨッヘン・マスの捜索に当たれ。どうぞ。」
プツン。ツー、ツー、ツー。
「みんな、聞いてくれ。今聞いた通り、テオが見つかった。テオが戻り次第、事情聴取を行う。」
それから程なくして、テオ・ファビが、ピローニと一緒に戻ってきた。
「まず聞こう。なぜ逃げ出した?」
「・・・それは・・・ここで走っておいたほうが、明日のグリッドになると思って・・・」
「FIAや、上層部の連中への密告行為は?」
「・・・してません」
「本当だな?よし、今回は大目に見る。ここにいておけ。」
そして、ラウダが皆にこう言った。
「ファビは見つかった。後はマス爺さんだ。これより、捜索隊の数を増やす。3人ではちょっと無理があるからな。」
「誰を行かせるんですか。」
「じゃ、デレック(ワーウィック。ファビの同僚)。今からアンドレアに合流しろ。彼には俺が伝えておく。ホテルの入り口で待っていろ。」
「オッケー。ホテルの入り口ですね。」
そういうと、ワーウィックは足早に部屋を立ち去り、下へ、下へと降りていった。
「しっかし、まだFIAの連中は何も言って来ないのかねえ。」
「今日中だろう。それまでは待つしかない。」
しばらく、部屋の中に、しんとした静寂が漂っていた。
「暇・・・だねえ」
ふいに、誰かがこんなことを言い出した。
すると、ラウダがこんな提案をした。
「外にプールがあるから、どうだ、そこで水遊びでも」
「いいですね。行きましょう。」
「でも、捜索隊の4人は?」
「うーん。いったん戻らせるか、それとも捜索自体を打ち切るか」
こんな話をしていたとき、ラウダの携帯が鳴った。
ピリリリリ・・ピリリリリ・・
着信音に、皆の期待が高まる。
「はい、もしもし。」
「おお、ディディエか。ネルソンだ。聞いて驚くなよ?マス爺さんが自首してきた」
「自首!?」
「おう。事情を聞いて見れば、今回の脱走は自分が言い出したんだとよ。今日少しでも走っておけば、明日のグリッドが少しでもましになるかもしれないって。そいで、走ったはいいが、途中でサーキットが閉まっちゃったんだとさ」
「FIAへの密告行為については?」
「やってないって。そいじゃ、これからそっちに連れて帰るわ。」
「そうか。じゃ、大急ぎで来てくれ。これからプールに繰り出して、行水をしようとしていた所なんだ」
「ホント!?ラッキー!おい!みんな、プールだってよ!」
ピローニには、その瞬間、携帯の向こうから、オーッというような盛り上がった声が聞こえてきた。
ドライバーたちはしばらく、プールで遊んでいた。浮き輪に浮かんで遊んでいる者、はたまた飛び込み台の1番高いところから威勢良く飛びこむ者。
ドライバーによって、「楽しみ方」も様々だ。
そして、プールから部屋に戻ろうという時に、ピローニの携帯が鳴った。
「はい、もしもし。」
「ピローニさんですか?FIAの者ですが、協議の結果、ライセンス剥奪に関するレギュレーションを一切、撤廃することに決めました。」
「えっ!?本当ですか!?」
「ああ、本当だ。詳しいことについては後日、追って連絡する。」
「そうですか。では」
ピッ。
ピローニは携帯を切ると、開口一番に叫んだ。
「みんな、喜べ!レギュレーションが撤廃されたぞ!!」
「おー!!」
「やったぞー!」
「朝早くから、篭城したかいがあったなあ。」
ドライバー達が騒ぐ中、ラウダが進み出てこういった。
「みんな、よくやってくれた。諸君達のお陰で、FIAを動かすことができた。まったく素晴らしいストライキだった。それでは、我々の成功を祝して、乾杯!」
「かんぱーい!」
ドライバー達はしばし、勝利の余韻に浸る。
ともあれ、ストライキも終わった。しかし、キャラミの1日は、まだ長い。
果たしてこれからドライバー達に、どんなハプニングが待っているのだろうか・・・
《第2話 end》