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稀な素質


 はぁ、と大きなため息がふたつ、また重なった。

 昼過ぎ、街の一角にある石階段で腰をおろしたクレイディスとチビっ子のものだ。


「あそこに行けばギルドがつくれる言うとったじゃろ……。あの女子(おなご)、首を刈り取ったろうか」

「さらっと恐ろしいこと言うなよ。それに、ギルドの申請には自分を含めた最低五人のメンバーと資金が必要なんだって」

「なんじゃお前さん、詳しいんか」


 自分よりも数段ばかり上に座っていたクレイディスの方へ振り向き、チビっ子は首を傾げる。


「一応、ギルドの申請はやったことあるから」

「チビ助、そん時どうやったか教えぇ」

「だからお前にだけは絶対言われたくねぇよ、クソガキ」


 たしかにクレイディスの背丈は、同じくらいの年頃の男と比べれば低く、少女のようだった。しかし、それを「チビ」と罵るのは彼よりも小さいチビっ子。


「ガキちゃうわ! 儂にはエルザ・ルージェニー・ロワイヤルっちゅう、オジィからもらった名が──」

「なんでギルドの設立にこだわるんだ」


 星霊族のチビっ子少女・エルザの言葉を遮ってまでクレイディスが気になったのは、彼女が「ギルド設立」にこだわる理由。

 受付女性も言っていたことだが、エルザであればスペック面から見て有名ギルドの冒険者になることは難しくないだろう。それこそ、クレイディスを追放したウィザーズだって欲しがるような人材に違いない。


「オジィと約束したんじゃ」

「約束?」


 刹那、クレイディスの脳裏をよぎったのは、幼馴染のメリルとした約束。

 ギルドをつくって、街で一番の冒険者になる。魔法適性を見てもらう以前の幼少期にした約束であったが、メリルは最強の冒険者に指がかかっている。

 それに比べてクレイディスといえば、冒険者にもなれない落ちこぼれ。

 突如、冷たい態度でギルドから追放したメリルや自分を笑い者にしたウィザーズの面々に腹をたてる反面で、クレイディスは自分の不甲斐なさを痛感していた。


「おう、絶対に果たさなあかん約束じゃ」


 どんな美談がエルザの小さな口から飛びだしてくるのか。約束というものに拒絶反応がでてしまわないか。

 クレイディスがそんなことを考えたのも束の間、


「儂のギルドで、オジィのギルドをメッタメタに叩きのめす」

「どういう種類の約束!?」


 エルザの小さな拳が何度も空を叩いた。


「オジィのやつが、儂のギルドは最強じゃとか抜かしとったからの。儂が宣戦布告しておいたんじゃ」

「じゃあ約束のために、仲間とカネが必要だな」

「残る仲間は三人か。儂にアテがある」


 「三人?」。そう言って、不思議そうにクレイディスが首を傾げる。

 申請に必要な面子は全部で五人。つまりエルザに必要な仲間はあと四人のはずだが、ここにいないだけで彼女にも仲間がいたのだろう。


「お前さんが儂の仲間になれ言うちょるんじゃ」


 しかし、クレイディスの予想は見事に外れた。


「俺って、何勝手に!」

「あの場におったっちゅうことは、お前も仲間を探しとるんじゃろ。じゃったら都合がええ、ギルドんことについても詳しいじゃろ」


 石階段から立ちあがり、背を向けるエルザの提案はギルドの冒険者になろうとしていたクレイディスにとって願ってもないもの。

 一度ウィザーズというギルドの設立をしているだけあって、新規ギルドというのに抵抗がないのもまた事実。

 しかし、クレイディスは立ちあがりもせず、首を頷かせもしなかった。


「いや、俺は……やめとくよ」


 自分に素質はない。この一週間でそれを痛感させられたクレイディスは、また裏切られるのが怖かったのかもしれない。


「イヤ、儂が仲間にする言うたら仲間にする。お前の事情なんか知らん」

「ワガママか!」


 一段、もう一段と小さな歩幅で階段を降りていたエルザが踵を返し、眉間にシワをよせた。


「何が不満か言え、そしたら儂も納得したろう」

「別にお前に不満があるわけじゃないよ。むしろ不満があるのは、俺自身のほうだ」

「何言うとるかサッパリ分からんわ、お前さんアホなんか」


 不思議そうな表情を浮かべるエルザ。少しだけ煽られているようで苛立ちを覚えたりもしたが、クレイディスはぐっと飲みこむ。


「俺はお前と違う。俺には魔法適性がない、いわば落ちこぼれなんだよ。こんなのがいたって、ギルドのお荷物さ」

「つまりあれか、お前さんは自分がクソザコじゃから儂に気を遣って仲間にはなれん言うとるんか」

「間違いなくそうなんだが、言葉選んでくれよ。傷口えぐられるわ」


 容赦ないエルザの言葉にクレイディスが胸を痛めていると、


「お前さん本物のアホじゃな、儂はオジィのギルドを叩きのめすための最強の面子を集めとる。クソザコなんぞ誘わんわ」


 思ってもみなかった言葉が転がりこむ。


「いや、だから俺は何人もの占星術師に魔法適性はないって言われてだな」

「儂もその占星術師じゃ。そこらの使い手なんぞと格が違うからの、一緒にせんといてくれよ」

「はぁ?」


 建物と建物の間を駆ける風に、黄ばんだ白いローブと赤金の派手な長髪をなびかせたエルザ。

 彼女の細長い指が真っ直ぐにクレイディスへ向かった。


「魔力の質を見れば、占星術なんか使わんでも分かる。お前さんは、稀な素質を持つ魔法使いじゃ」

「魔力の質って、そんなのなんで分かるんだよ」

「儂が本物の占星術師じゃからじゃね?」


 その言葉の通り、エルザの腕の周りに数多の文字が浮かんだ。

 クレイディスにはひとつとして解読できない文字群だが、見たことがないわけじゃない。それらは、占星術師たちが占いに用いる古代文字というものである。


「ふむふむ」


 浮かんでは消える文字があれば、細い指さきに集まる文字もある。

 エルザが抜粋して解読しているのは、指さきに集まってきた文字。


「なるほど、これを見抜けんとは俗世の占星術師も堕ちたもんじゃ」

「なんか……見えたのか?」


 これまでは「適性はない」と首を振られるばかりだったクレイディス。占星術師にこういった反応をされたのは、彼の十九年という人生でもはじめてのこと。

 それゆえに、心が躍らずにはいられなかった。


「【属性系魔法】でもない、【強化系魔法】でもない。お前さんのはもっと特殊な適性じゃ。異質な魔力を持つゆえ、()()にしか適性がなかったんじゃろ」

「俺にも魔法適性があるのか?」


 自慢げに頷いた後、エルザはさらに続ける。


「お前さんが星からもろうた唯一の魔法適性は、空間を支配する力。いうならば、【空間系魔法】じゃ」

「空間を……支配する力?」


 【空間系魔法】。世の中に魔法の種類は数あれど、それはクレイディスが聞いたことのない魔法だった。

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