魔法具技師の苦悩
あまりにもエルザが笑うものだから、居心地が悪くなるのも仕方ない。火が出そうな顔をぐっと力ませ、どこか不機嫌そうにも見える面になると、サヴァンナは背を向けて工房から出ていってしまった。
その一方でエルザは、
「ギャハハっ! ええわ、これで飯が食えるわ!」
未だ涙を散らしながら笑い転げていた。
「これでギルド辞めるとか言われたらどうすんだよ」
せっかく加入した仲間だ。ここで亀裂が生じて離れていった、なんていうのは洒落にもならない。
クレイディスが笑い転げるエルザの小さな頭に拳骨を落とすと、彼女はヒリヒリ痛む頭を抑えてその場にうずくまった。
「なんか、こっちで色々とトラブルがあって……ごめんなさい」
「いや、いい。元はといえばこっちの不始末だ」
クレイディスに答えたのは、腕を組んでジッと彼の方を見下ろすエボレット。
……ではなく、彼の傍で元気に動きまわる人形。
「それでその、話っていうのが」
「ギルド、だろう?」
「なんでそれを」
「さっきから話していたからな。それに、あのサヴァンナがギルドに入ったと聞いて、ピンときた」
言葉を話す人形の方を見ればいいのか。それとも言葉の主であるエボレットの方を見ればいいのか。
人の目を見て会話をしろというのがクレイディスの父の教えだが、特殊な状況に目が右へ左へと何度も往復する。
「だったら話が早い、エボレットさんも俺たちのギルド『オメテオ・ブルズ』に──」
「妙な期待をさせるのも悪いからな、ハッキリと断っておこう」
「早っ! もっとこう、考える時間とかも……」
「いや、俺はお前たちみたいな連中に加担するつもりはない。話がそれだけなら、もう帰れ」
そう言って、エボレットはクレイディスたちに背を向けた。
「なんじゃなんじゃ、どいつもこいつも付き合い悪いのぉ!」
当然、彼の反応に大声をあげないエルザではない。
彼女がこの世で最も嫌うのは、自分の思い通りにいかないこと。さっさと面子とカネを集めてギルド設立させたい、という思いが彼女の声を工房内に響かせた。
「儂が最強のギルドに入れちゃる言うとるんじゃから、ずべこべ言わずに──」
刹那、エルザの小さな頭の上から二度目の拳骨が落ちてきた。
鈍い音とともに襲った激痛にエルザは再び頭を抑えて、その場に膝から崩れ落ちてしまう。
「歳上の頭を何度もどつくなアホんだら!」
「お前がいると話がややこしくなるんだよ」
工房の奥でガチャガチャと工具を触りはじめたエボレット。これから作業に取りかかろうとするのは、もう話を聞く気がないということだ。
「でも、サヴァンナはエボレットさんのことを優秀な魔法具技師だって」
クレイディスが背中に声をかけても、反応はない。
しかしギルドを設立したい思いはクレイディスだって同じ。ここで諦めることなく、さらに続けた。
「今はまだギルドとして認められてないけど、俺たちなら近いうちにオメテオの頂点だって獲ってみせる。そしたら、このおもちゃ屋の宣伝だってし放題だ」
「俺の師匠は、お前らみたいな冒険者に手を貸したことがある」
脇の方から声がした。
依然としてエボレットは背を向けたままだが、人形がこうして喋っているということは彼の意思を言葉に変換しているに違いない。
「……師匠? 魔法具技師の?」
「冒険者が戦うのは、未開拓の地にいる魔物だけじゃない。ギルド同士の抗争、国との対立、そうやって人間を殺す道具を……あの男は作った」
そんなことはない、なんて言えなかった。
ギルド同士が対立し、抗争をはじめるなんていうのは珍しくも何ともない。
実際、クレイディスたちブルズも今はホーネッツと対立関係にある。いつ抗争が起きて殺し合いになってもおかしくないし、対立のキッカケになったのはクレイディスとウォーレン、つまり人間と人間の決闘が原因だ。
「悪いが、人殺しの道具を作る気はない」
「自惚れとんのかアホ!」
ようやく二度目の拳骨から立ち直ったエルザが、また怒号を工房内に轟かせた。
「魔物じゃろうが人間じゃろうが、ぶっ飛ばすんに道具なんかいるかい! 儂ら舐めんのも大概にせぇ!」
「だったら、どうして俺のところに来た」
「んなもん知るかぃ! あの色ボケ女が行け言うとったんじゃ! 男のくせにこんなジメジメしたところに閉じこもって、お前みたいなもん、こっちから願い下げじゃボケェ!」
自分勝手で、気が短い。クレイディスの聞いていた静かな森の奥でひっそりと暮らす美しい精霊族とは、大きくかけ離れているエルザ。
「ほら、行くでチビ助」
「ちょっ! エルザ!?」
「儂のギルドは最強のギルドじゃ、こんな腰抜けいらんわ」
そんな激昂する彼女に腕を掴まれ、クレイディスは工房から引きずりだされてしまった。




