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天才幼馴染と無能な俺


「明日からは、ギルドに顔を出さなくて大丈夫よ」


 クレイディスは、メリルのひと言に絶句した。

 冒険者ギルド『オメテオ・ウィザーズ』を仕切るマスター、メリル。彼女とクレイディスの付きあいは、かれこれ十年以上になる。

 元々、メリルとクレイディスはこのオメテオで生まれ育った隣家の幼馴染。

 冒険者ギルドが幾つもあるオメテオの街で、ギルドに属する冒険者というのはヒーローそのもの。だから当然のようにふたりは冒険者に憧れたし、つい三年前の十六歳の時にその夢を叶えた。


「それから、紋章(エンブレム)も置いていって」


 そう言ってメリルが指したのは、クレイディスが右腕に巻いていた布。杖を象ったエンブレムの刺繍が入った布は、ギルドメンバーのみが着けることを許されたもの。

 マスターであるメリルにそれを返すというのは、つまるところギルドメンバーではなくなるということだ。


「なんだよ、その冗談……笑えないって……」


 なぁ、とギルドハウスに集まっていたメンバーたちへ問いかけるクレイディス。しかし、見知った彼らから向けられる視線はひどく冷たいものだった。


「冗談なんかじゃないわ、残念だけどあなたはウィザーズに相応しくない」

「相応しくないって、確かに俺は何の魔法適性もなかったけど、それでもここにいていいって言ってくれたじゃないかよ!」


 クレイディスが、声を荒げる。


「そう、クレイには何の魔法適性もなかった。最初はそれでもいいと思ってた」

「最初は……?」

「でもね、私たちもっと上を目指したいの」


 上? と、またクレイディスがメリルの言葉をなぞり、首を傾げた。

 するとメリルは、ギルドハウスにいたひとりひとりに視線を向けたあと、重たく頷く。


「ウィザーズは、オメテオの街ではじめての国営ギルドになるのよ」

「だから、国営ギルドを目指すから……俺は邪魔だっていうのか」

「そう言ってるじゃない」


 とてもじゃないが、少し前までギルドの将来を語りあう仲だったとは思えないほど他人行儀な言葉と視線が、クレイディスの心を突き刺す。


「お前、変わったよな」


 少なくとも、もう目の前にいるのはクレイディスの知る明るくて優しいメリルではない。

 長年連れ添った幼馴染であろうが無慈悲に切り捨てる、冷酷なギルドマスターだ。


「私は何も変わらない、変わったのは私たちを囲む環境よ。今やウィザーズは街でも一番の実績を持つギルド、ここにいるのは実力者ばかり、それなのにクレイ、あなたは……」


 拳を握ったメリルの手が、小刻みに震えた。


「あなたは、何の魔法適性もない無能だった。最初は絶望したけど、何かの間違いだって自分に言い聞かせて、何人もの占星術師に見てもらった。それでも、あなたになんの適性もない事実は変わらなかった!」

「それは────」

「いい? これは裏切りじゃない、裏切ったのはあなたの方よ」


 メリルの吐き捨てる怒りは、クレイディスに少しの反論も許してはくれない。

 それどころか、メリルは幼馴染であるクレイディスに手をかざし、風魔法で彼の体を吹き飛ばした。


「悔しかったら防いでみなさいよ、反撃してみなさいよ!」


 壁に叩きつけられ、地面に伏せるクレイディスを見て、ギルドハウス内を笑い声が包む。

 当然、何の魔法適性もないクレイディスには魔法を防ぐこともできないし、反撃もできない。


「約束を破ったのは、あなたよ。私にはあなたと違って力がある」


 地面に伏せて痛みに悶えるクレイディスのもとへ、メリルがゆっくりと歩み寄った。

 彼女は無能のクレイディスとは対照的に、百年に一度の逸材と周りから持ちあげられるほどの天才的な【属性系魔法】の適性がある。

 無能と天才、その差は一目瞭然だった。


「私は約束通り、国営ギルドのマスターになって、オメテオで最強の冒険者になる。無能のザコは、このギルドに必要ない」


 そうでしょ、みんな。メリルの煽りにギルドハウスを歓声が包んだ。

 ここにいる誰もが十九歳という若い少女メリルの実力を認め、彼女の下につくことを選んだ強者たち。

 彼女のはからいでクレイディスという無能が同じギルドにいることを良く思っていなかった者もいたためか、メリルの幼馴染を切り捨てるという決断を誰もが歓迎した。


「分かったよ、出ていけばいいんだろ」


 ここまで言われては、クレイディスも「ギルドに残りたい」なんて口にできたものではない。

 腕に巻いたエンブレムを投げ捨てると、彼は傷だらけの体を引きずった。


「待って、クレイ」


 立ち去ろうとする彼の背を、メリルが呼びとめる。

 見出された才能と、ギルドマスターという責任ある立場が彼女を変えてしまったものの、元はといえばメリルというのは明るくて優しい少女。

 街で見つけた死にそうな猫を、泣きながら抱えて「助けてください」と駆けまわったことだってある。

 立場上、こんな最後になってしまったが、やはり心は傷んでいるのだろう。

 そう思い、クレイディスが足を止めるが、


「私と幼馴染だったって、言いふらさないでね」


 やはりメリルは昔のメリルではなくなっていた。


「分かってるよ、そんなこと。俺なんかと毎日毎日一緒に遊んでたなんて、お前にとっては汚点だもんな!」


 そう言い残して、クレイディスは逃げるようにギルドハウスから去った。

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