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だが、俺は今まさしくあきらの物語に10年振りに再登場した。
あきらはまっすぐに俺だけを見つめている。川へと舞っていく桜にも目もくれず。
「昔のこと、あきらはもう忘れたのか?」
「忘れるわけがない」
「じゃあなんで」
俺は持っていた缶ビールをぎゅっと握った。
「なんで俺を無視するんだ?」
あきらは悲しそうに微笑むと少し顔を下に向けた。
長い茶色の髪があきらの頬をなでる。
「無視じゃない。見ていないだけ」
顔を上げたあきらは無理して微笑んでいるように見えた。
「箕口君が変わってないからあの頃と。全然変わっていなくてびっくりしたぐらい」
確かに俺は童顔だと言われることが多く、自分でも小学生の頃で俺の顔はできあがっていたのだと自覚している。
俺はふっと笑った。
「そんなの、あきらだってそうだろ?1年前再会した時俺一瞬であきらだとわかったよ」
あきらは恥ずかしそうに笑って右手で茶色の髪を耳にかけた。それはあきらの癖だった。なにか恥ずかしいことがあるといつも髪を耳にかける。昔にはなかったあきらの癖。
「変わっていないか。私的には結構変わったつもりだったんだけど」
「でも1年間見ていてわかったよ。あの頃のあきらはもういないんだって」
あきらの目はどこかちがうところを見つめてそれから目を伏せた。
その横顔はなんだか悲しそうで、なんて言葉をかければいいのかわからなくなってしまった俺が無理して口を開こうとしたその時くすくすと笑い声が聞こえた。
俺たちを見てこそこそと笑いながら川沿いを散歩するカップル。そのにやにやしたカップルの顔はこの桜並木に全くもって合わなかった。