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川沿いの桜並木の中でも一番大きな桜の木にもたれて川へと散っていく桜を見つめながらそんなことを思い出していた。
ちらっと隣に座っているあきらを見つめた。
あきらはゆっくりと缶ビールを口に運んでいた。薄いピンクのマニキュアを塗った爪が光った。
それから不思議そうな顔をして俺の手元を見つめた。
「飲まないの?」
俺は答える代わりに缶ビールをぐいっと一口飲んだ。俺は混乱していたのだ。
あきらと話したいことがある。だが何と話し始めればいいのかわからなかった。
10年振りにあきらと再会してからこの1年間俺たちは会話をすることがほとんどなかった。ずっとふたりきりで話す機会を伺っていたのだがあきらは俺の視界からいつもすぐに消えてしまう。
俺はもう一度隣に座っているあきらを見つめた。俺の視界から本当に消えていないかの確認も兼ねて。あきらは俺の隣に座り込んでいて俺の視界から消える気配もない。
「いいのか?」
思わずそう聞いてしまった俺をあきらは横目で見つめた。
「何が?」
俺はあきらの「何が?」という言葉に少しひるんでしまいそこから先の言葉を咄嗟に変更してしまった。
「ビール。先に飲んじゃって」
「いいでしょ。約束の時間に遅れているみんなが悪い」
あきらはそう言ってまた一口ビールを飲んだ。
確かにあきらがこうやって飲んでいても会社の連中はきっと笑って一緒に飲みだすだろうが、俺はちがう。今年新入社員が入らなかったせいでこうして花見の場所取りをさせられているような下っ端であり、何よりもあきらのように笑って許してもらえるようなそんな存在なんかじゃないからだ。