第三話
「いやぁ~もう!疲れたわ!」
「こんなに遠いって書いてなかったよね!?」
「ガソリン代だけでもヤバくね?」
「おっかしぃなあ……A太郎?どういう事?」
「………………フヒヒ」
やっとの思いで、呪獄村に到着。
一体、どんな所なんだろうと思っていたが、なんだろう……フツーの町、というか温泉街だった。
山あり川ありの洒落た言葉で表すなら、奥座敷とでもいうのだろうか。
宿に向かう車窓からも観光客らしき人たちをチラホラと見かける。
ただ、至るところに見かける『ジュゴッ君』を模した銅像。
道に立ち並ぶ『ジュゴッ君饅頭』『ジュぐるみ入荷しました!』『ジュゴッ君ソフトクリーム』のノボリ。
先ほどの観光客の中には親子でジュぐるみ──ジュゴッ君のぬいぐるみ、らしい──を持ちながらお土産屋を冷やかしている。
きっと、旅行の非日常感にあてられて買っちゃったけど、「なんでこんなもの買ったんだろう」と帰ってから後悔するのだろう。
その観光客が歩く横を今回お世話になる旅館『呪獄めつぼう亭』に向かって、車をゆっくりと走らせること数分。
昔の旅館をイメージしたようなホテルと旅館を足したような割ったような、大きくもない建物が見えてくる。
「アレかな?」
「アレだね」
「っぽいね」
「意外と、まとも?」
「………………フヒヒ」
ワンボックスカーをのろのろと進める。
「……らっしゃいませー!」
突然、窓を閉めた車内にも聞こえる位に張りのある声が響く。
どこからともなく、スーツの上に法被と『ようこそ!呪獄──続きは字が下になって読めない──』のたすきを掛けた年嵩の男性が満面の笑みでワンボックスカーに近付いてくる。
B樹が運転席の窓を開けるなり
「やあやあ!ようこそ!! 呪獄村へ!!ご宿泊の方ですかー!!」
「は、はい、えーと……呪獄……めつぼう亭に?」
戸惑いながらも返すB樹。
「めつぼう亭!ようこそ!ハーイ!こちらですー!ハーイ!ハーイ!オッライ!オッライ!オッライ!ライッ!ライッ!オッ……ハイッ!オッケーですーっ!!おつかれさまでしたーっ!!」
法被の中年男性──カラフル兵介さん。名札に書いてあった──の元気な声に誘導され、呪獄めつぼう亭駐車場に到着。
「はーい!こちらへどうぞーっ!ご案内いたしまーす!!」
ワンボックスカーから降りた僕たちは思い思いに体を伸ばし、荷物を持ち、カラフルさんに着いていく。
「皆さま、どちらから?まあまあそれはそれは!!ようこそ!ようこそ!!」
「えぇ……」
「ははは……」
「(すっごいおじさんだな)」
「(ね?なんかすごいね)」
「………………ククク」
カラフルさんに他の仲間達が絡まれる中、小声で話すB樹と僕、ニヤニヤ笑うA太郎。
促されるまま、旅館チックなホテル「呪獄めつぼう亭」に到着。
「ハイッ!コチラでございますー!!」
カラフルさんに促されるまま、フロントで手続きを済ませる。
チェックインの記入事項とにらめっこをしているのは、ことあるごとに「予算がお金が」と五月蝿い、僕たちの経理担当であるC人──先祖返りC人。勿論、本名だ──口を開けば金、金、金とうんざりする下痢便クソ野郎だが、こういう時だけは頼りになる。
ただ、既に割引きされてるのに限界まで値切ろうとするのは恥ずかしいので死んでほしいけれど。
C人に面倒な手続きをさせた後、女将さん的な人──三つ巴ヘビコさん──が部屋へと案内してくれる。
フロントで鍵を渡されたらおしまいではないことには驚かされた。
「コチラでございますー」
ヘビコさんに案内された部屋に入ると。
「おおぉー!」
「広いねー!」
「良い部屋だわー!」
「景色良いねー!」
「…………フヒヒ」
男五人で泊まっても悠々の広さ。窓からは呪獄村を囲む山、流れる川が見える。
布団は自分で出して、自分で仕舞う。
「それではごゆるりと~」
ヘビコさんに説明を受けた後、くつろぐ面々。
さあ、まったりしよう。