1章
「あなただけでも行った方がいいわ。もうすぐここにも来るだろうから。」
まるでか弱さの象徴のようだった彼女の雀斑が、途端に歴戦の古傷に見えた。拳銃を握り、先ほどまでの人物とは思えないほど鋭く言い放った彼女に、僕は自分の置かれている状況を認識する。
「でもフレイさんっ!この子たちを置いては行けないって」
僕は両腕に抱えた幼い体温を感じながら反駁した。
「その子たちは大丈夫よ。奴ら、子供はすぐには殺さないわ。それよりもあなた。あなたの瞳と肌は、奴らに見つかれば即座にターゲットよ。」
「なんで?!そんなこと言ったって――」
腕の中で震える少女たちが、それでも確かに僕を見上げ微かな声を挙げる。
「大丈夫だよ、楽器のお兄ちゃん。私たちは大丈夫。」
「前にだってこんなことがあったもん。でもじっと隠れてれば大丈夫だったから。」
そんな。子供達を置き去りにして自分だけ逃げるなんてできない。それに。
「フレイさんだってここの人たちとは違う見た目じゃないか!一緒に逃げた方がいい」
すると彼女は、冷たく鋭利に細めた瞳をくしゃっと緩め、ほほ笑みながら応えた。
「優しいのね。でも、私を信じて。そのために私はここにいるんだから。」
その間も拳銃を握った腕は決して降ろさない。僕は彼女の身のこなしから常人には到底備わることのない技量を感じた。
「ほら、あなたたちも、楽器のお兄ちゃんを行かせてあげて!」
「うん」
二人が僕から離れていく。そのうちの一人が僕の楽器ケース拾い上げ、そっと手渡してくれた。
ふとフレイさんに視線を戻すと、彼女は先ほどまでの冷たい視線をブロック先へ向けていた。
仕方ないが、これ以上は彼女の邪魔になるだろう。
「気を付けてね」
「うん。君たちもね。」
「大丈夫よ。子供たちだけなら、怪しまれることもないから。いざというときは私が二人を守る。」
「お姉ちゃんもいるし大丈夫、怖くないよ!」
「いい子たちね。じゃあ、ケイ。あなたは裏口から西門の方へ向かって。できるだけ建物の中を通ること。」
「わ、わかりました。」
「それじゃ始めましょう。いい?今から10分だけ隠れること。それだけあれば片が付くわ。」
10分?それって、どういう――?大きな疑問符が頭に浮かんだが、すでに彼女は日差しの中に消えていった。二人の少女も僕に行けとばかりにうなずいて見せた。
なんだかよくわからないが、ひとまず楽器ケースは抱えた。
僕は裏口からそっと飛び出した。