序章
ヒトという生物が生み出したモノは数あれど、そのすべては両極端に相反する二つの目的に準じているように思える。
それはすなわち、生みの親であるところのヒトを「生かすモノ」なのか、「殺すモノ」なのか、だ。
こと僕らが生きる現代においては、暮らしの中にモノが溢れ返っている。
それらはヒトの生活を潤し、支え、“生きる”というスキームの質を上げてくれるものが大半ではあるが、一方でヒトの生を否定し、尊厳や命を奪うために作り出されたモノもまた確かに存在する。
形式や様式も様々だ。手に取れるような実体を持つモノ、眼には見えないが実態として存在するモノ。
だが、すべてのモノは、須らく確実に僕たちに作用し、影響をおよばすことができる。
そんなモノの中から、僕が自分自身を捧げようと選び出したもの、それが音楽だった。
僕を否定するモノに中てられて、自分の生さえも否定しようとした僕を救ってくれたのは音楽だった。以来僕は音楽とともにあり、何の疑念も抱かずそれを自身の一部にしてきた。
それは間違いなく僕自身を生かしてくれるモノだった。
だからかもしれない。いつしか僕は、僕を生かしてくれる音楽を通じて、他人を生かす存在になりたいと考えるようになっていた。
それは僕というヒトが辿ってきた生き方に対する一つのシンプルな解であって、それを使命だとさえ感じていた。
心がすさぶような荒れ果てた環境で、今この瞬間も生を否定されようとしている人たちを、僕は救いたい。
一度終わった僕の生を有効に使うために、これが僕の選んだ道だった。