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旦那様は魔王様!  作者: 狭山ひびき
旦那様は魔王様
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 沙良がシヴァに城の東にある丸いドーム型の建物に連れていかれたのは、沙良の記憶が戻って五日後のことだった。

 今日までの間、まるで沙良の記憶が再び失われるのを恐れるかのように、シヴァは食事の時も執務中も、とにかく沙良をそばにおきたがり――いや、膝の上に乗せたがり、五日目にしてようやく少し安心したようだった。


 そして、朝食を終えた昼前、いきなり「ついてこい」と沙良を連れてこの場所に連れてきたのだ。

 丸いドーム型の建物の壁は白く、扉は重厚で、沙良一人では押しても引いてもびくりともしそうにもない。

 しかし、沙良の目の前で、シヴァは平然とした顔でその扉を押し開ける。


(シヴァ様、力持ちですー)


 シヴァを見上げて密かに感心していると、沙良を見下ろしたシヴァが、「おいで」と手招いた。

 沙良はシヴァの手を取り、建物の中に足を踏み入れる。

 そして、中を見渡して、思わず口を開けた。


「う……わぁ……」


 中は人が何百人も入れるほどに広かった。

 そして、前の方には精緻な彫刻が彫られた木製の椅子が整然と並んでいる。

 そのさらに前は一段高くなっており、赤い敷布の上に祭壇があった。

 天井を仰げば、細かな彫刻と、鮮やかなステンドグラス。


「すごい! シヴァ様、すごいです!」


 シヴァに連れられて、最前にある祭壇の方へと歩きながら、沙良はきょろきょろと視線を彷徨わせる。


「沙良、あまりきょろきょろして、転ぶなよ……?」


 心なしか、沙良の手を握るシヴァの手に力が込められたのは、彼女のことを心配してだろう。

 沙良は頷いたが、視線を右に左に彷徨わせるのをやめられなかった。

 シヴァは小さく苦笑して、沙良が転ばないようにゆっくりと歩を進める。

 やがて前にある祭壇に到着すると、沙良は天井を仰いで「わあー」と感嘆した。


「ここから見上げると、上の彫刻がすごく綺麗に見えます。光の加減なのかな? すごいですー。すごくきれい……。ここは、どういう場所なんですか」

「ここは、代々の魔王たちが挙式を行ってきた場所だ」

「きょしき?」

「結婚式だ」

「結婚式!」


 沙良は納得した。だからこんなに綺麗なのだ。沙良が絵で知る「教会」とは趣が異なるが、どこか似ている部分もある。

 でも、どうしてこの場所に来たのだろう――、沙良が小さく首を傾げたとき、手をつないでいたシヴァの手が離れて、沙良は視線を下に戻す。

 そして、驚いた。


「シヴァ様!? 何をしているんですか!?」


 突然、シヴァがその場に片膝をついたのだ。

 びっくりして目を丸くしている沙良の手を、シヴァがそっと握る。


「沙良」

「は、はい!」


 シヴァの黒曜石のように綺麗な目が真剣な光を宿していて、沙良は思わず声を裏返してしまった。

 シヴァはそんな沙良にくすりと笑みをこぼすと、握った沙良の手へ唇を寄せる。


「沙良。もう何年かして、お前がもう少し大人になったとき――、俺とここで結婚式をあげてくれないか?」

「―――っ」


 沙良は息を呑んで、そのまま呼吸を忘れた。


(結婚、式……?)


 シヴァは確かにそう言った。結婚式、と。


(シヴァ様と、結婚式できるの……?)


 嫁と呼ばれたけれど、結婚した自覚はまったくなく――、けれどもこのままシヴァのそばにいられるならそれでいいかなと思っていたので、まさか「結婚式」なんてものがあるとは思っていなかった。

 驚きすぎて、何も言えないまま硬直する沙良に、シヴァは微苦笑を浮かべると、ちゅっと音を立てて沙良の手の甲にキスを落とす。


「沙良、返事は?」


 手の甲に感じた熱と、シヴァの声にハッとした沙良は――、真っ赤になった。


「あ、あのっ、えっと……っ」


 急にシヴァに見つめられているのが恥ずかしくなる。

 けれども、無性にシヴァに抱きつきたくて――、沙良は「えいっ」とばかりに、跪いているシヴァの胸に飛び込んだ。


「――シヴァ様、大好きですっ!」


 シヴァがぎゅっと抱きしめ返してくれる。


「結婚式、します! したいですっ」


 驚きと感動で目が潤んでくる。

 泣きそうなのに気づかれたくないので、ぎゅーっとシヴァに抱きついていれば、シヴァが笑いながら沙良を抱えて立ち上がった。

 沙良を腕に抱えたまま祭壇の前に立ち、「誰もいないがな」と独り言ちたあとでこう続ける。


「第十三代魔王シヴァ・ロードリウス・シュバルツァは、ここにいる沙良を妻にむかえることと……、三年後、沙良が二十歳になるその日に、この場で挙式を行うことを誓う」


 シヴァは腕の中の沙良に視線を向けると、そっと身を傾ける。


(……え?)


 ぱちぱちと沙良が目をしばたたかせていると、顔を傾けたシヴァの唇が、沙良のそれへと静かに重なった。


「―――!」


 沙良は目をつむることも忘れて、ぴしっと固まる。



 ――はじめてシヴァにキスされた今日のことを、沙良は、一生忘れないと思った。


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