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旦那様は魔王様!  作者: 狭山ひびき
旦那様は魔王様
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消えた記憶 2

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 セリウスの腕の中で泣きじゃくる沙良を見つめて、シヴァの思考回路は停止した。

 セリウスが沙良の頭を撫でながら、「怖くないよ」となだめている。

 ミリアムとアスヴィルも状況の整理が追い付かないようで茫然としていた。


「大丈夫だよ、沙良ちゃん。俺がそばにいるからね」


 そう言いながら沙良をきつく抱きしめるセリウスを見て、我に返ったシヴァがガタンと音を立てて立ち上がった。


「セリウス! これはどういうことだ!?」


 声を荒げて、セリウスから沙良を引き離そうと手を伸ばすが、シヴァの指先が沙良の肩の触れた途端、耳をつんざくような沙良の悲鳴が上がる。

 慌てて手を引っ込めたシヴァは、明らかに怯えている沙良に言葉もなく立ち尽くした。


(どうなっている……?)


 沙良はシヴァを怖がっている。気を失って目覚めてから沙良の様子がおかしいのは目に見えて明らかだった。そして、おそらくセリウスが何かをしたことはわかっている。だが、何をしたのかがわからずに、シヴァは困惑するしかった。


「兄上、沙良ちゃんを怖がらせないでほしいな」


 シヴァから守るように沙良を抱えなおし、セリウスが挑発的に微笑む。


「……殿下、何かしましたね」


 アスヴィルがセリウスを睨むが、アスヴィルに睨まれたところでセリウスが動じるはずもない。

 沙良を抱えて立ち上がったセリウスはそのまま部屋を出て行こうとする。


「どこに連れて行く気だ?」


 怒鳴ると沙良が怯えるのがわかったからか、怒りを押し殺したような低い声でシヴァが問えば、セリウスは肩越しに振り返った。


「ここにいたら、沙良ちゃんが怖がるでしょう? 僕の部屋に連れて行くんだよ」

「ふざけるな」

「ふざけてなんていないよ。なんなら沙良ちゃんに訊いてみるといい。……ねえ沙良ちゃん。兄上が呼んでるみたいだけど、行く?」


 セリウスが腕の中の沙良に訊ねると、沙良は必死でセリウスにしがみついて首の横に振る。セリウスは勝ち誇ったようににっこりと微笑んだ。


「ほらね。じゃあ、そう言うことだから」


 あまりのことに声も出ないシヴァを尻目に、セリウスが部屋を出て行こうとする。けれど、セリウスが部屋を出て行く前に、扉の前にミリアムが立った。


「だめよ、お兄様。悪いけど、こんな変な沙良ちゃんをお兄様に渡すわけにはいかないわ。お兄様、沙良ちゃんに何をしたの?」

「ひどいなミリアム……、お兄ちゃんを疑うの?」

「お兄様は大好きだけど、残念ながら、今のこの状況ではお兄様が何かしたとしか思えないもの」


 ミリアムはセリウスにしがみついている沙良の顔を覗き込んだ。


「沙良ちゃん、わたしのことはわかる?」


 沙良はセリウスにしがみついたまま顔をあげ、こくんと小さく頷く。どうやらミリアムのことは怖くないらしく、近寄っても泣き出すことはない。


「そう、よかったわ」


 ミリアムはにっこりと微笑むよ、セリウスを見上げた。


「沙良ちゃんの部屋に運んで。しばらくわたしが一緒についているわ。お兄様は駄目よ。訊いたところで教えてくれないでしょうけど―――何か企んでいるのは、わかってるわ」

「信用ないなぁ」

「あら、はじめから信用してもらう気なんて全然ないくせに」


 セリウスは肩をすくめると、困惑気味にセリウスを見上げる沙良を見下ろしてにっこりと微笑んだ。


「……いいよ。今は、可愛いミリアムの言いう通りにしてあげる。でも、沙良ちゃんに兄上を近づけたらだめだよ。怯えて、下手をしたら息の仕方も忘れてしまうかもしれないからね」


 セリウスがそう言って、怖い表情を浮かべるミリアムのあとについて、沙良を抱えたまま出て行くと、立ち尽くしたままのシヴァの肩をアスヴィルが叩いた。


「大丈夫ですか?」

「……ああ」


 頷いてみるものの、頭の中が真っ白で、シヴァはベッドの淵に腰を下ろすと、額をおさえてうつむいた。


(どうなっているんだ……?)


 あれではまるで、シヴァとはじめて会ったときの沙良のようだ。―――いや、もっとひどいだろう。少なくとも、はじめて会ったころの沙良は、シヴァの顔を見て泣き叫ぶことはなかった。

 泣きながら、セリウスの腕に飛び込んだ沙良。

 あの瞬間、今まで感じたことのない胸の痛みを覚えて、―――その心臓をわしづかみにされたような痛みは、まだ続いている。


「シヴァ様、少しの間ミリアムに任せて、様子を見ましょう。少ししたら、元に戻るかもしれませんから」


 到底そうは思えなかったが、アスヴィルの言葉に、シヴァは「ああ」と感情のこもらない答えを返す。

 ミリアムの様子を見に行くと言ってアスヴィルが部屋を出て行くと、シヴァは握りしめた拳をベッドにたたきつけたのだった。


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