やさしい夜と気づいた想い 3
あったかい。
朝、ミリアムは心地いいぬくもりに幸せを感じながら目を開けた。
まず視界に飛び込んできたのは、光沢のある白いシルクのシャツだった。すべらかな感触が頬に当たって気持ちいい。
でも、なんで隣にシャツがあるのだろう、とミリアムは少し視線を上にあげて、固まった。
白いシャツは上のボタンが二つほど開けられていて、そこから覗くのは厚みのある胸板と鎖骨だ。
ミリアムは飛び起きた。
(な、ななな、なんでアスヴィルが隣にいるの!?)
幸いなことに、アスヴィルの腕には力が入っていなかったため、ミリアムは簡単に腕の中から抜け出すことができた。
ミリアムはアスヴィルと距離を取って頭を抱えた。
どうしてこのような状況になっているのか、さっぱりわからない。
(昨日……、そういえば、アスヴィルが来たような……)
昨夜の記憶は曖昧だった。ゼノに頼んで酒を持ってこさせ、一人で晩酌していたことは覚えている。そして、アスヴィルが部屋に来たような気がするのだが、このあたりからの記憶がはっきりしなかった。
だが、彼が隣で眠っているということは、間違いなくアスヴィルはこの部屋に来たのだ。
ミリアムは反射的に自分の体を見下ろした。服は着ている。変なところはない。つまり、変なことはされていない―――はずだ。
ミリアムは、幸せそうな顔をして眠りについているアスヴィルを見やった。
厳つい顔立ちのアスヴィルだが、眠っているときはとても穏やかだ。
ミリアムはそろそろとアスヴィルに近づくと、その顔を覗き込み、彼の眉間を人差し指で撫でた。
「ここの皺がない……」
それだけで、とても優しい顔立ちに見える。
とくとく、と早いリズムを刻みはじめた鼓動に気が付き、ミリアムは口を尖らせた。
「なんで、離宮に来たのよ。あんたがいなくて、平和だったのに」
だが、眠りの淵にいるアスヴィルは答えない。
ミリアムはしばらくアスヴィルの顔を観察していたが、そうしているうちに、無性にその腕の中に戻りたいという欲求にかられた。
「……なんで、アスヴィルなんか」
そうぶつぶつ独り言を言いながら、ミリアムと眠っているアスヴィル以外は誰もいないと知っていつつも、ミリアムは部屋の中に素早く視線を這わせた。
万が一にも誰も見ていない、ということを確認して、もぞもぞとアスヴィルの腕の中に舞い戻る。
ぴったりくっつくと、アスヴィルの体温が伝わってきて、心臓がざわめくのに反して、妙に安心できた。
アスヴィルの鼓動が聞こえてくる。
(嫌いだもん)
心の中で言い訳しながら、ミリアムはアスヴィルの胸元にぐりぐりと額を押し付けた。
(アスヴィルなんか、嫌いなんだもん)
ミリアムはアスヴィルの腕の中でゆっくりと目を閉じる。
そうして再び訪れた夢の中で、ミリアムはアスヴィルにささやかれる夢を見た。
――愛している、と。