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旦那様は魔王様!  作者: 狭山ひびき
イケニエになりました!?
3/82

魔王様はモテモテです!

 沙良は、部屋の窓からぼんやりと城の庭を見下ろしていた。

 城の庭は、沙良の窓から見渡せる範囲だけでもかなり広い。

 灌木(かんぼく)で作られた迷路や、翼が生えた石像、噴水や背の高い木々――

 いろいろなものが、絶妙なバランスで、広大な敷地の中にポツンポツンとおさまっている。


 昨夜――


 シヴァが部屋から出て行ったあと、ミリアムに促されてベッドに入り、気疲れしていたのか、いつの間にか眠っていた。

 目が覚めたときにはすでに朝で、ミリーが朝ごはんを持って起こしに来てくれたのだ。

 そのあとミリーは「またあとで来ます」と言い部屋を出て行ったので、沙良は一人の時間を持て余していた。

 何もすることがないので、こうして庭を眺めていることにしたのだが、つい数分前から、沙良の視線はある一点に注がれていた。

 数分前、庭にシヴァがあらわれたのだ。

 散歩でもしているのか、噴水のあたりを歩いているのだが、その両脇には、綺麗に着飾った女性が五人ばかり侍っている。

 彼女たちは青や黄色や緑といった個性的な髪の色をしていて、さらにドレスもカラフルなので、その一角だけ妙に華やかだった。


(魔王様、モテモテです)


 彼女たちは、口々にシヴァに何かを話しかけては、くすくすと楽しそうに笑っている。

 ここからシヴァの表情は見えないが、あれだけの女性に囲まれたらきっと楽しいだろう。

 あの怖いシヴァでも、彼女たちには微笑みかけたりするのだろうか。

 生贄の沙良には、冷たい視線しか向けないけれど――

 昨夜、ミリアムが助けてくれたから、沙良はまだ生贄として死なずにすんでいる。

 だが、きっと、近いうちにその瞬間は訪れるのだろう。

 昨夜の怖いシヴァの顔を思い出して、沙良は少し悲しくなる。


 ――そのとき。


 シヴァの顔が上を向いた。


「―――っ」


 沙良は慌ててその場にしゃがみこんだ。

 シヴァの視線が、こちらを向いた気がしたのだ。


(目、合った……?)


 沙良が見ていたことに気がついただろうか。


(怒られる……?)


 びくびくしていると、コンコンと部屋の扉がノックされて、フリルとレースたっぷりのライムミントのドレスを小さな腕に抱えたミリーが入ってきた。

 窓の下にしゃがみこんで丸くなっている沙良を見て、パチパチと目を(しばたた)く。


「なにしてるんですかぁ? 沙良様」

「えっと……」


 沙良は途端に恥ずかしくなって、慌てて立ち上がって窓際から離れると、窓から少し離れたところにある皮張りのソファに腰を下ろした。


「何でもないです」


 取り繕ったように笑ったが、ミリーは騙されてくれず、ひょいと窓の外を見下ろして「ああ」と苦笑した。


「シヴァ様ですかぁ。相変わらずお盛んですね~」


 その声に、少しばかり軽蔑したような響きが混じっていた気がするが、気のせいだろうか。

 それから、ミリーは腕に抱え持っていた豪華なドレスをベッドの上において、沙良を振り返る。


「さあ、沙良様、着替えましょ!」

「え?」


 すると、そのフリフリの豪華なドレスは、沙良の着替えだろうか。

 沙良はまだ昨日の夜着のままだった。

 これも十分可愛いし、ルームウェアとして申し分ないと思うが、その動きにくそうで、とても豪華なドレスに着替えなくてはいけないのだろうか。


「それに、着替えるの……?」

「そうですよ」


 ミリーはあっさりうなずいた。

 ミリーも、フリルたっぷりの膝丈のドレスを身に着けているが、彼女の場合はそれがとても似合っているので問題ない。

 だが、シヴァにも初対面の時に「貧相」だと言われた沙良に、そのゴージャスなドレスが似合うだろうか。


「沙良様は細いから、ふわふわしたドレスを着ないと、風に飛ばされていきそうですぅ。だから、このドレスにしましょう!」


 ピンクでもよかったんですけど、この色も似あうと思うんですよね、とミリーは鼻歌交じりに沙良の夜着を脱がしにかかる。

 沙良は大慌てで部屋の隅に逃げた。


「ま、待って! もう少し、その、シンプルなのが、いいです。そんなお姫様みたいなドレス、きっと似合いません!」

「似合いますよぉ」

「むりむりむり!」


 昨日よりはスムーズに会話ができるようになった沙良は、「むり」と言いながら、ミリーの手から必死で逃げた。

 だが、ミリーも負けていない。

 もともと外出することもできず、部屋の中で十七年生活していた沙良だ。

 もちろん体力や俊敏性など持ち合わせているはずもなく、回り込んだミリーにあっさり捕まってしまった。


「はい、着替えますよぉ」


 にこっと微笑んではいるが、有無を言わさない迫力に、沙良は結局諦めて、渋々頷いたのだった。



     ☆   ☆   ☆



 ライムミントのフリフリなドレスに着替えさせられた沙良は、裾や袖が広がるのをおさえながら、ミリーが煎れてくれた紅茶を飲んでいた。

 沙良の着せ替えに成功したミリーは、ご満悦で沙良の真向かいでクッキーを頬張っている。


「それで、沙良様は窓の下にシヴァ様を発見して、しゃがみこんで隠れてたんですかぁ?」


 ミリーの声には愉しそうな響きがある。


「まあ、あれを見たら隠れたくもなりますよねぇ」


 あれ、というのは五人ほどいた女性のことだろう。

 沙良は何となくだが気になって、ミリーに訊いてみた。


「あの人たちは、シヴァ様の、お友達、ですか?」


 友達よりは親密な感じがしたが、五人もいたので、恋人とは言い難かった。

 すると、ミリーはクッキーを飲み下して、紅茶で喉を潤してから答えた。


「違いますよぉ。『暇つぶし』の相手ですぅ」

「暇つぶし……?」

「ああー、近い感じで言うと、愛人?」

「愛人!?」

「シヴァ様に愛があるのかどうかはわかりませんけどねぇ」


 ミリーは、はあっとため息をついた。


「といっても、あの人たちは妻気取りでいるんで、あんまり近づかない方がいいですよぉ」

「妻……」


 すると、奥さんが五人いるということだろうか。

 悩んでいる沙良をよそに、ミリーは新たなクッキーに手を伸ばす。


「一応、あの人たちも、お城の部屋は与えられてますけどねぇ。わたしはあの人たち、きらいですぅ」


 ケバケバしくて、と子供らしからぬ侮蔑を含んだ表情でミリーは吐き捨てた。


「まあ、お城は広いんで、自分から会いに行かなきゃ、めったに会うことはないと思いますよぉ。だから、変な気、起こさないでくださねぇ。面倒なのは勘弁ですぅ」


 そんなことより、とミリーは沙良の方に身を乗り出して話題を変えた。


「せっかく昨夜、シヴァ様を撃退できたんですからぁ、今のうちに、何かやりたいことはないんですかぁ?」

「撃退……」


 撃退したのは沙良ではなくミリアムだが、沙良は昨夜、部屋から去るシヴァの氷のような表情を思い出して、びくっと震えた。

 怒らせなかっただろうか。

 もしかしたら、怒らせた分、ひどい目に合わせされるのではないだろうか。

 びくびくしていると、ミリーがあっけらかんと答えた。


「怯えなくても、だぁいじょうぶですよぉ。ミリアム様が、シヴァ様から守ってくれますからぁ。きっとしばらく平和に暮らせますって。で、何かしたいことはないんですかぁ? 退屈でしょ~?」


 ミリーの明るい声を聞いていると、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だった。

 沙良は少し考えて、ちらっとミリーの持つクッキーに目を止めた。


「……お菓子作り」

「ふえ?」

「お菓子作りが、したいです」


 それは、昔から思っていたことだ。

 一度でいいから、お菓子作りをしてみたい。

 閉じ込められた沙良は、お菓子作りはもちろん、料理もしたことがない。

 だが、子供のころから、お菓子を作ってみたいと思っていたのだ。

 ミリーは変な顔をした。


「お菓子ぃ? お菓子なんて、できてるの食べればいいのに、沙良様って変わってますねぇ」


 うーん、と首をひねってから、ミリーはにこっと微笑んだ。


「わかりました。いいですよぉ。ちょうど適任がいますから、その人に教えてもらいましょうか!」


 そうして、沙良はさっそく、午後からお菓子作りをすることとなったのだった。

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