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アールグレイ

 晴人が帰ってきた。


「ただいまー。遅くなってごめんね。緊急手術が入っちゃって」


「おかえり。全然いいよ。仕事おつかれさま。大変だったね」


疲れた晴人の顔。こんなに仕事頑張ってるのに、私が我慢できなくてどうするんだ。ばかやろう。




 次の日、起きると日がカーテンの隙間から入ってきていた。眩しい。


天気が良い朝と言うだけで、気分もだいぶ変わる。気分が晴れる。


逆に雨の日は、それだけで憂鬱な気分になる。


それプラス嫌なことがあると、なおさら仕事に行きたくなくなる。


今日みたいに晴れてると昨日してしまったことがバカバカしくて、なにしてんだろって余計なる。


今日の朝は晴れててよかった。


「晴人、おはよ。今日、何時に帰ってくる?」


「おはよ。今日は、8時くらいかな」


「おっけ。明日は遅番なんだよね?」


「そうそう。なんかあるの?」


「聞いてみただけ」


私は、晴人に昨日のことを打ち明けようと思った。晴人に隠し事はできない。振られる可能性大だけど、一生嘘ついて生きていくのもできない。




 私の仕事が終わり、コンビニの弁当を買って一人で食べ、晴人の帰りを待っていた。


「ただいま」


「おかえり。アールグレイあるけど、飲む?」


「飲みたい」


アールグレイを入れていると、柑橘系の良い香りがふわっと香る。そいえば、アールグレイの名前の由来はイギリスの元首相であるグレイ伯爵にちなんだものなんだよな。自分の名前が紅茶につくなんて凄いよなあなんて考えながら、紅茶をコップに注ぐ。


「実はね、話があるんだけど」


「何。改まって。どしたん」


晴人が不思議そうな目で私を見る。


「実は、晴人以外の男と寝ちゃった」


晴人は、呆然とする。アールグレイが入っているカップから、静かに湯気が出る。


「晴人、昨日帰り遅かったじゃん。でね、寂しくなっちゃって、バーに行ったの。そしたら、話しかけられて、ホテル行っちゃった。ごめんなさい」


「まじか。ごめん。突然のことに動揺している自分がいる」


晴人は、アールグレイを一口飲んだ。ごくっと喉の音が部屋に響く。


「その人は、知り合いなの?」


「知らない人。昨日初めて会った」


「そっか。わかった」


「本当にごめんなさい。こんな事する彼女なんて、絶対嫌に決まってるし、別れる覚悟もしています」


「まず、詳しいことは聞きたくないから、話さなくていい」


「わかった」


「僕のこと、嫌いになったん?」


「嫌いなわけない。むしろ、凄く大好き。でもね、こんなことしちゃったの。罪悪感から、晴人には言わなきゃって思って報告しました」


「わかった」


晴人の顔を見ると、目から大粒の涙が溢れていた。泣いていたのだ。私は、晴人を悲しい思い、辛い思いにさせた。あの時の自分を罵った。何であんなことしたんだと。


私は、子供のように泣いている晴人を抱きしめた。本当は、抱きしめる権利なんてないんだけど、反射的にそうしてしまった。


「ごめんなさい」


「もう二度とこんなことしない?」


「はい」


「誓える?」


「誓います」


「じゃあ、付き合い続けるか、そうしないかは、僕が決める。今後の柚の行動次第でそれが決まります」


「分かりました」


私は、アールグレイを一口飲んだ。ぬるくなっていたが、柑橘系の香りはまだあった。

 

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