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彼女の闇

 あの日、大きな手術が終わって、お気に入りの場所で、ひと息つこうと思っていた。


あそこは、星空がきれいに見えるんだ。


屋上に行くと、今日も満天の星空が見えた。


きれいだ。


すると、なんか泣く声がする。


誰だろ。


佐々木柚だった。


僕が急に来たから急いで涙をこすっていた。


「大丈夫? なんかあった?」


「なんで、いるんですか」


「ちょうどね、休憩中。星空でも観ようかなって。


よく来るんだ。ここ」


「そうなんですね」


「どうしたん。泣いてたみたいだけど」


「……」


「どうして、助けたんですか。わたしのこと」


「なんでって。普通、人が倒れてたら助けるでしょ。血も出てたし」


「助けなくて良かったのに。そしたら、死ねたのに」


「あなたが死んだら家族や友達が悲しい思いするよ」


「わたしが死んでも誰も悲しまないですよ。わたしなんて、生きてる価値ないんです」


「そんなことないよ。少なくともあなたが死んだら僕は悲しい」


「医者って、そういう患者に寄り添うの上手ですよね。あなたみたいな、頭良くてかっこよくて人生成功してる人には私の気持ちなんて分からないですよね。分かってもらおうなんて思ってないですけど」


「佐々木さん、どうしたの? なんかいつもと違う」


「わたし、中学のとき、いじめられてたんですよ。かなりひどいいじめ。


親友にも裏切られて。


高校のときは、先生にいじめられて。


そんな人生送ってきたから、いじめられたおかげで、わたしはこの世にいないほうがいい存在って、証明されてきたんですよ。


でも、なかなか死ねなくて。


今回もストーカーされて、刺されて。刺したってことは、死んでほしいってことでしょ?


何人の人からも恨まれてるんです。わたし。


もう生きてるの辛いんです。


いじめられたときに、死ねば良かった。


そしたら、こんな思いせずに済んだのに」



このとき、佐々木柚の闇を感じた。


感じていた影の正体はこれだったのか。


「なんで、坂井先生にこんなこと話してるんだろ。みっともないですよね。


すみません。


私、こんなこと、初めて人に言いました。


家族にも言えなかったのに。なぜか話しちゃいました。


忘れてください」



影の正体を知ったとき、急に彼女を守りたくなった。


医者としてだけではなく、1人の男として。


彼女の闇は深い。


僕が知ってるよりも。


守れるだろうか。いや、守ってみせる。


反射的に、彼女を抱きしめていた。


泣くから体が震えている。


辛かっただろうな。


満天の星空の下で、僕は、彼女を抱きしめた。

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