プロローグ
学校の帰り道。いつものように神社の階段に腰を下ろした。結構大きくて有名な神社。人通りもある。そんな神社の階段に座っている私に、通る人は目もくれなかった。
まるでここにいないみたいだなあ。
なんて、馬鹿なことを考える。実際、少数ではあるがこちらを一瞥する人もいるので、私は確かにここにいるのに。
「帰りたくないなあ。だからと言って、学校に行きたくもないけれど」
私にはどこにも居場所がない。
学校では何故かクラスの皆、いや、教師までもが私のことを無視し始めた。私が話しかけても無視。人のいないところでそっと話しかけても、驚いたように飛び上がって逃げられてしまう。
私は何をしてしまったんだろう。
家は家で、急に雰囲気が暗くなった。今まで優しかったお母さんは私が話しかければ急に泣き喚くし、弟は困ったように私を見る。そんなストレスのせいか、ご飯も喉を通らなくて手が付けられなかった。
まるで、世界の全てが敵に回ったかのようだった。
私は何もしたつもりはなかったのに。
ぼんやりと階段で参拝者を見つめる。色々な人が通る。嬉しそうな恋人。切羽詰まったような女の人。折り鶴をいくつか持った男の子。
皆、それぞれ何かしらの願いがあってここに来ているのだろう。私はどうしてここに来たんだっけ。ああ、前までの生活を取り戻せますようにって少し前から毎日参拝しているんだ。
一向にことは改善しそうにないけれど。今日に至っては、机に花飾られてたし。これ、完全にいじめだよなあ。
「あれ、君は……」
ぼんやりと考えていた私に突然声が降ってきた。
見れば、平安時代の人とか武士の人が着ていそうな和服というか着物を着た青年だった。おそらく、ここの宮司さんとかなのだろう。かなり若いけれど。
夕日も沈みかけていて、辺りは薄暗くなっているのにこんなところに座り込んでいたら、確かに心配されるか、早く出ていってほしいだろう。
「ごめんなさい。そろそろ、出た方がいいですよね」
謝って立ち上がり、帰ろうとしたら腕を掴まれた。彼の瞳を見れば、今にも泣き出しそうな顔をしていた。なんでこの人が泣きそうなのだろう。泣きたいのは私の方なのに。
「君が……」
彼は一度口ごもったが、目元を袖で拭いてから私の目を真っすぐに見ながら言った。
「君が良ければ、うちに来ないかい。人手が足らないんだ。今よりもきっと、楽しいと思う」
普通に考えて不審者だ。でも、私には色々と限界が来ていたらしい。私の存在を認めてくれることが、私を必要としてくれることが何よりも嬉しかった。
「貴方が良いと言うのなら」
私の答えに、彼はほっとしたように微笑んでくれた。
「そっか。よかった。じゃあ、これからよろしくね。信じてもらえないかもしれないけれど、僕はここの神様です。だから、君は真名を名乗らないで欲しい。僕はアメ。君の好きなように呼んでくれればいいから」
神様。そうか、この人は神様なのか。それが本当なのか、嘘なのか、私には分からないけれど、それでもいい。今は、彼が私に差し出してくれた手だけで充分。
「アメさん……。アメ様、の方がいいですかね。私はユキと呼ばれることが多いんですよ。お天気でお揃いですね。アメ様のお好きに呼んでください」
彼は分かったと言って優しく手を取ってくれた。神様なのに彼の手は暖かくて、私は久しぶりの温もりに嗚咽をもらした。
彼は何も言わないでくれた。




