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第8色 中和者育成学校

 白髪の青年と赤髪の青年は、車に向かい合って乗り、一緒にある場所へ向かっていた。


「――――!!」


 まるで夜のような長く暗いトンネルを抜け、バッと視界が壮大に開けた。


 一気に入ってきた余りにも多い光量の眩しさに目を細めながら徐々に明瞭になっていく視界で、目立つ、と言うよりも星空の中の月のような、余りの存在感のせいで周囲を霞ませてしまうほどの建物が、真っ先に飛び込んできた。


「すげー!! 何なんだあの建物は!?」


 そこは自由を含め、中に足を踏み入れたことが無い者からすると豪華で立派な城のようにも思えるのだが、その絢爛な見た目とは裏腹に内情は全く異なっていた。


 そこはうら若き少年少女が、無知を知に。不可能を可能に変える場所。


 ――学校だ。


「凄いだろ? これ建てんのに相当金かかってんだから、そんぐらい驚かれなきゃつまんねぇぜ」


 自分で建てた家を自慢するかのように胸を張って偉そうに言う着流しに、こう思わずにはいられなかった。


「あんた何者なんだ……?」


 圧倒的な強者と思われる風格と言い、自分があの建物を建てたような口振りと言い、幾ら何でも謎が多過ぎて訝しげにジッと見るが、着流しはぬらりくらりと軽々と躱すように適当に笑い、すぐさま話題を変えた。


「それよりもお前が中和者になってくれるなんて、苦労した甲斐があったな」


 この霧のように素性も実力も何もかもが掴めない着流しが言う通り、俺は中和者(カウンター)になることを決めた。いや、元からなるとは決めていたので、決めたというよりは改めて決意したと言った方が正しいだろう。


 あの騒動の日、俺は暴走した自身の血能によって溺れかけていたある親子を助け、偶然にもこの得体の知れない着流しに拾われ、助けた親子と一緒に説得された。


「――――」


 そして、あそこに見える遠近感が狂いそうなほどの中和者育成学校に編入することが、なし崩しで決まった。


 あの学校には、未練や良い思い出などが一つも無いので編入すること自体は特に何とも思わない、それどころかむしろ清々しい気持ちさえもある。しかし、学校とは違い、中学からずっと住んでいたあの家を離れるのには、幾らかの心寂しさを感じていた。


「時間的に学校に着いたら、すぐクラスに行かなきゃならねぇ。担任には通してあるから、とりあえず行けば何かと助太刀してくれるはずだ」


 あの日からまだ一日しか間を挟んでいないにも関わらず、編入の手続きや担任への説明などそうした根回しも完璧に済ませてる辺り、着流しは俺が是と答える前提で話を進めていたとしか思えない。そのため、着流しの掌の上で踊らされてるという見方も出来なくもなく、それはそれで癪に障る。


「お前は踊ってねぇぞ?」


 何かしらの能力で病院の時と同じく俺の心を読み、掌をこちらに見せてくる着流しにイラッとした俺は、殴ってくれと言わんばかりの掌に遠慮無くパンチをし、話の続きを促す。


「まだ話すことあんだろ」


 俺の言葉に驚いた顔をしながら、「そうそう」と思い出したように前置きをしてから、


「これを渡しとく」


 そう言い着流しは、髪色と同じ真紅のカードのような物を手渡してきた。


「何かとお前の手助けになると思うから、すげぇ大事にしてくれよ?」


「これは何だって訊いても答えてくれないんだろ?」


 コクンと無言で頷く。


「じゃあ、最後に名前ぐらいは教えてくれよ。恩人の名前を知らないのはさすがに恩知らず過ぎだろ。これ以上“ない”を増やしたくないし……」


 恩人の――辺りから気恥ずかしくてだんだんと言葉が小さくなっていった気がしたが、着流しは心が読めるらしいので、わざわざ恥ずかしいことを言い直したりはしない。


「――――」


 湧いてくる羞恥心を何とか耐え、おもむろに顔を上げる。そして、着流しの顔を盗み見ると、逆にこちらがびっくりするほど表情が驚愕に染まっており、初めて手応えのある一発を食らわせられた気がして小気味よいものを覚える。


「おーい? 聞いてんのかー?」


「わりぃわりぃ。名前はそうだなぁ……紅輝(こうき)とでも呼んでくれ」


「紅輝か……。お前に合ってるな」


 紅色に輝く。その燃えるような髪色と言い、豪傑な性格と言い、その通りの人物だと素直に思った。


 そして、話が丁度区切りが付いた頃、数十人が綺麗に横一列になっても通れるような、圧倒的にスケールの違う鉄の門の前に車が停車した。


「じゃあ、着流しありがとな!」


「おう、またな」


 俺は着流しの視線を背に、目一杯見上げても全高が計りしれないほどの学校の中へと向かった。


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