第3色 世界を塗り替える決意
「情けない、か……」
――俺はいつからかずっと考えていた。
血に色がある奴が偉いのか、と。
血能が優れている奴が偉いのか、と。
持っていない者は、持っている者に下敷きにされて良いのか、と。
これらは、俺の血に色が無いと判明し世界から見放されてから今の今まで、ひたすら自問自答を繰り返してきた問い。
個性とは?
本質とは?
アイデンティティとは?
そして、自分だけの色とは?
いつのことだかこの世界の人々、それら全てを認めてくれる様なことを言っていた人は、今までに類を見ない透明な血と判明した俺を私利私欲のために、そして面白半分で、生きている方がずっと辛いような、死んだ方が良いと思えるような酷く惨たらしい実験台にした。
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日……。
俺の透明な血を研究のために抜き続け、体内の血液が足りなくなり忽ち貧血を起こせば、鉄臭い味のするカプセルを強制的に飲まされるような、気が狂いそうになるほどの生き地獄。
生きるためだけの最低限の監房に、稀有な血を抜き続けられるように監禁し、決して逃げられないように監視された日々。
やがてやることが底を尽き実験に飽きたのか、やっとのことで解放されたと思えば、表向きはカウンセラーなど血に色がない俺のためを思ってと、耳障りの良い言葉でそういう機関に通していた衝撃の事実が発覚した。そして、体裁の整った表向きとは異なり、その実凄惨なことをされてきたと懸命に訴える俺を面倒事だと疎み、まるで触れれば簡単に爆発する爆弾のように押しつけ合い、擦りつけ合いの親戚。
最終的には親戚総出で話し合い、中学生までは一番血縁関係が深い親戚に引き取られることになった。が、そこでの生活は、楽しいや健康的など一般家庭が自分の子どもに与える幸せとは一線を画すほど縁遠く、ただただ作業的に、機械的に生かされているだけだった。
そして、追い出されるように一人暮らしを強制させられた中学生からは、娯楽など無い生きるための最低限の資金、それだけしか援助されなかった。
しかし、マウスやモルモットのように実験台にされたり、親戚を始め誰からも疎まれ居場所すら見つけられないような、そんな非人間的な生活を経験してきたため、金欠に明け暮れる一人暮らしの方が自分の居場所を見つけたようで遙かにマシと思えた。
それほどの酷とも言える境遇の中、必死に藻掻き、足掻いた結果、俺は俺みたいに世界から異端児として無下に扱われる奴をこの世界で二度と生まないように、俺みたいに意味も理由も無く苦しむ奴が金輪際出てこないように、といつしか強く考えるようになってた。
面倒事、と未来のない俺を疎んだ親戚を。
物事の本質を少しも理解していない、しようともしないのに偉そうなご高説を垂れる奴らを。
アイデンティティと言いながら、まるで型に押し込めたように同じ考え、同じ感情、全てが同じような人間を徒に、かつひたすらに量産する社会を。
それは自分だけの色とか綺麗事を言っておきながら、この世界にたった1つしかないその色を自分たちの利益や好奇心のためだけに、自分たちが望む色に塗りつぶすこの世界を。
――俺が全部正してやる。
――俺が全部否定してやる。
――俺が全部塗り替えてやる。
――そして、そのために俺は一番凄い中和者になってやる。
世界への疑問はやがて頭での思考に、頭での思考はやがて自分の中での決意に変わっていった。