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第97話 物理学に関する全てに愛を

 僕は叫びながら、夜空に浮かぶ島アッシュランドに向けて、堕落のスキルを放った。


 思い出されるのは、魔王城での老人オレゴンの供述。


 残っていた前魔王オクタヴィスの飛行魔法が解除されたのかもしれないし。


 どこか地中に埋まっている、浮遊を司っている魔力核が停止したのかもしれない。


 もしくは、僕の理解の及ばない、何か複雑な理由があるのかもしれない。


 まぁ、とにかく。ゆっくりゆっくりと。それでいて確実に。


 アッシュランドが、文字通りの――()()を始めた。


「ヤバーーーーイ!! 島が落ちてきてるギギーーーーーー!!」


 僕は絶叫するヘルサに掴まり、(とど)まることなく、ロマンもへったくれもない飛行を続ける。


 そして、ようやくアッシュランドに潰されない範囲まで逃げてこられたとき。


「ギギギ……。なぁ、スロー……ちょっといいか?」


 と、悪魔の縫いぐるみヘルサからの不穏な語り掛け。


「な、なに……。急にどうしたの?」

「スローは、悪いニュースと、もっと悪いニュース、どっちから聞きたいギギ?」

「えっ? どっちも聞きたくないけど?」

「じゃあ黙ってるギギ……」

「助かる」


 どうせ操縦がきかなくなったとか、着陸方法を考えてないとか、そんなところだろう。


 こちとら、もっと最悪の事態が近いというのに。


 僕の額に、じわりと汗が滲む。


 きっとヘルサは失念してしまっているんだ、僕の腕力がよわよわの大貧弱だということを。


 ただでさえレトをおんぶしながら全力疾走してきたところなのに。


 ハハハ……。言い訳は、さっきスキルを使ったせいで体力が無くなったってことにしておこう。


 そうしよう。


「うむ。それでは、お先に失礼」


 とうとう限界が来てしまった僕は、どこまでも紳士的にそう言って、暴走ロケット状態のヘルサから手を離した。


「おい、スローーーー!! おーーーーーい!! ギギィーーーー!!」


 急に積載量が変わったせいか、バランスを崩したヘルサは、不規則な軌道を描いて、どこかへと夜間飛行。


 さらば、友よ。


 グッドラック。


 ヘルサの良きナイトフライトを祈りながら、一足先に遥か高みから自由落下を始める僕。


 わぁ~! これが紐無しバンジーってやつかぁ~! 楽し~い!


 王都アセトンの街灯がキラキラ輝いてて綺麗ぃ~!


 万有引力ヤバすぎ~! 夢みたい~!


 今までにも走馬灯を見た経験があるけれど、今回は本当にピンチ。


 いつも以上に、現実逃避に精が出るというものだ。


 すると、地面の方から――


神の一吹き(ゴッドブロウ)……弱めバージョンッ!!」


 突如、僕の身体を物凄い風が押し上げ、落下のスピードが緩やかになる。


 風圧で唇が……。クティビルがぁ……。めくれるぅぅ……。


 鳥瞰図(ちょうかんず)のような景色の先。


 恐らく僕が今から墜落するであろうポイントに目を凝らすと。


「こっちか?」

「もうちょっとこっちじゃないかなぁ?」

「あっ! スローがこっちに気付いた!」

「スローくんっ!」


 ピクリンさん、ヴィオラ、クラリィ、コルネットさん。

 トランポリン部隊の忘れ物を、僕の落下予測地点まで運んでくれている四人と目が合った。


 みんな……。ありがとう……。


 という心の(ささや)きとは対照的に。


「ッああああああああぁぁぁぁ!!」


 喉から何かが産まれてきそうなくらい激しい僕の雄叫び。


 クリフサイドでの占い結果や、ヴィオラとレトが選んでくれたブレスレットの紋章の効果などを総合的に勘案すると……。


 この喉からの出産は間違いなく安産だ。

 立会人は安心していい。


 風。風。風。


 身体を襲うのは、風と落下の恐怖。


 僕は思わずギュッと目を閉じた。


 そして、ちょうど僕が、口の渇き、お腹の冷え、五臓六腑(ごぞうろっぷ)が持ち上がる浮遊感に、順応し始めた頃。


 ググっと、しっかりとした膜に僕の身体が沈み込む感覚。


 よかった……。助かった……。


「やったな、みんな! ジャストだ! トランポリンにジャストだぞ!」

「わぁーい! やったぁ!」

「あれ? けど、これって……」

「スローくんっ!」


 ピクリンさん、ヴィオラ、クラリィ、コルネットさん。

 真っ暗な視界に、みんなの声が聞こえてくる。


 バインバイン――


 ……ん?


 トランポリンに着地したかと思うと、僕の身体が再び大きくバウンドした。


 あーー……。うん。


 何もこれは難しい話ではない。


 トランポリンに向かって、入射角やや鋭めにランディングした僕の身体。


 当然、反射角もやや鋭めにテイクオフということである。


 ありがとう、みんな。

 そして、さようなら、みんな。

 短い間だったけれど、みんなと再会を果たせたこと嬉しかったよ。


 遅滞なく二度目の高みに到達する僕の身体。


 力学的なアレコレによって何故か反転し、仰向けに。


 そのまま危険な高さから落下を始めた。


 等加速度運動をする、僕のお尻。


 オレゴンさんの雷魔法による熱電導で焦げたズボンの穴から、どんどん隙間風が入ってくる。寒い。


 プリケツの冷えを我慢しながら目を開くと、視界いっぱいに美しい星々。


 ぼーっと満天の星空を観測していると、みんなとの一瞬の再会が遠い昔のことのように思えてくる。


 走馬灯や現実逃避も、もう浮かんでこない。


 浮かんでくるのは、意味のない言葉の羅列。


 位置エネルギーと方向ベクトル。僕のお尻に熱理論。


 支点・力点・作用点。


 ラプラスの悪魔さん。シュレディンガーの猫ちゃん。ドネオの子猫ちゃん。


 物理学に関する全てに愛を。


 ……。


 あぁ、無情。


 アセトン城郊外の固そうな平原を想起して、僕は無我の境地。


 もうすぐ、地面。


 さようなら、さようなら。


 衝突。


 何かに柔らかく包み込まれる感覚。


 あれ? あんまり痛くない?


 僕が顔を上げると――


 褐色の肌と、夜風に揺れるスモークブルーの髪。


 いつの間に目を覚ましていたのか。


 とってもいい笑顔で僕を覗き込んでいる、アマゾネスの幼女レトがいた。

お読み頂き誠にありがとうございます。気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第98話 平原に落ちる島』は、明後日(1月13日)の投稿となります。


引き続き、異世界コメディーをお楽しみ頂けたら幸いに存じます。

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