第96話 オトコ同士、ユージョ―の証
僕たちをこっそりと追いかけてきていたのだろうか。
ドネオが、一対一の真剣勝負に水を差した。
その事実によって、不意をつかれた老人オレゴンは、拘束魔法で両腕を封じられる結果になってしまった。
ドネオが行使する魔法ぐらい、かつて勇者と呼ばれていたオレゴンならば問題なく解き放つことができるだろう。
ただ、これは一瞬の隙も許されないギリギリの戦い。
杖を手にしたまま、わずかに動きを止められたオレゴンは、その刹那、イチノセの名も無き妖刀に叩き切られることに。
オレゴンは、平原に両膝をつき、「ぐぅっ……」と、短い呻き声。
辛うじてまだ意識はあるようだ。
しかし、そんなオレゴンに止めを刺すつもりなのか。
イチノセの化け物は、再びあの黒い靄を放ち始めた
夜の平原に、濛々と立ち込める不気味な暗黒。
とにかく、まずはあの拘束魔法をどうにかしないと!
急いで僕が、ドネオの方を振り返ると――
彼はちょうど、コロラさんに場外ホームランされているところだった。
まるで彗星の如く遥か遠方へと流れていき、消えてなくなったドネオ。
……もうドネオについては、触れないでおこう。
この先、二度と思い出すことも、関わることもないだろうから。
腹の底に残る蟠りを鎮めようと、僕がフーと長く息を吐くと。
ヴィオラの肩で大人しくしていたヘルサが、僕の顔に飛びついてきた。
「うわっ! なんだよヘルサ!」
「スロー! あのオトコ、助けてあげないとヤバいギギ!」
「オレゴンがピンチなのは分かるけど、どうやって?」
僕が貼り付いてきたヘルサをひっぺがし、そう尋ねると。
「ムウ……。仕方が無いギギ……。オトコ同士、ユージョ―の証を見せてやるギギ……」
ヘルサはそう言いながら、渋々パッチワークの隙間から何かを取り出した。
それは――
「ええっ!? まさか、それって!!」
ジャングルで出会った美しい少年。
身体中に魔道具を埋め込み、半サイボーグと化した元英雄の一人。
『色欲壊し』リオンさんの右足だった。
「共にセンジョーを生き延びた記念に、この足を貰ったギギ!」
「……足って貰える物なの?」
そう言えば、僕たちがシン・グーから出発する日……。
アマゾネスに抱えられていたリオンさんの右義足が外れてしまっていたような……。
そうか。さっき僕たちが捕まったとき、この友情の証とやらで空を飛んで、コロラさんのいる魔王城まで助けを求めに行ってくれたのか。
ただ、今は驚いてばかりはいられない。
これを使ってイチノセに飛び掛かっても、戦闘能力ゼロの僕は、堕落のスキルをかける間も無く、たちまち靄の餌食になってオシマイだろう。
じゃあ、どうする。
考えろ。考えろスロー。
「時間がないギギ!」と、急かすヘルサ。
この際、もう他力本願でもいい。
僕が怪物と化したイチノセの隙を作り出せれば、後はこの場にいる強者たちの誰かが、なんとかしてくれるはず。
強力な攻撃で化け物の隙を作り出す。
それも生半可な一撃ではいけない。
何か、巨大な物をぶつけるとか……。
巨大な物……。
「ヘルサ! あそこに向かって飛ぼう!」
僕が指差した方向。
それは上空。
「空かぁ? サクセンは分かんないけど、一緒に行ってやるギギ! しっかりオレに掴まっとくギギ!」
そう言って、ヘルサは、自分の身体を持つよう僕に促し。
僕が両手でヘルサの胴体をギュッと掴んだのを確認すると。
「ポチッ!」と、元気よく、ボタンを押す擬音を言葉にした。
すると――
ヘルサの抱えているリオンさんの右足が複雑に変形し。
ロケットのように炎を噴き出した。
「うおおおおおおおおお!」
ビュウビュウと頬に吹きつけてくる風。
グングン上昇していく僕の身体。
メラメラ炙られていく僕のお腹。
「アチチチチチチチ!! ……ん? 熱くない」
しかし、どういうわけか熱さを感じない。
「安心するギギ! スローには耐火魔法をかけておいたギギ!」
「おっ、おう……。サンキューヘルサ」
僕のお腹周りの布地は、もう全部焦げ切ってしまったけど、サンキューヘルサ。
そうこうしている間に、いよいよ地上を見下ろすのが怖い高さに。
すぐ近くには、空に浮かぶ島アッシュランド。
緊張が走る。
もうスキルの射程圏内に入っているはず。
後はただ、自分のスキルを信じるだけ。
僕は小さく息を吸い込んで、意識を集中させた。
そして、振り解かれないようにヘルサを掴んでいる左手に力を入れ、ジェットの勢いに負けないように右腕を伸ばし。
岩石や土、蔦や雑草が生い茂った、アッシュランドの底面に向けて。
「堕ちろおおおおおおおおおおお! 堕落ッッッッ!!!!」
全力で叫びながら、スキルを放った。
お読み頂き誠にありがとうございます。気に入って頂けていたら嬉しく存じます。
次話、『第97話 物理学に関する全てに愛を』は、明後日(1月11日)の投稿となります。
引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。




