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第93話 肩書の重み

 それは衝撃の事実だった。


 魔王コロラの(めい)っ子がヴィオラ? 何かの勘違いじゃないのか?


 僕は、何が何やらさっぱり分からなかった。


「私がコロラさんの(めい)ってことは……。コロラさんは、バス王さまの妹なの?」


 ヴィオラが、小さな幼女魔王に向かって問いかけた。


「ハハハ! 逆じゃよ、逆!」

「逆?」

「おバスちゃんは、ワシの弟じゃ!」


 ええええええええ!!?


「ありゃ? ワシ、さっき城で言わなかったか? これでも、ワシは昔、天界城でお姫さまをやってたんじゃよ?」


 いや、聞いてないです……。


 先程のドネオに対する怒りはどこへやら。


「何年も前のことじゃが、おバスちゃんからヴィオラという娘ができたことを聞いておっての。いつかその姪っ子が見られたらいいなと思っておったのじゃ」


 さっき思い出した、と笑うコロラさん。


 彼女は、自分がバス王の姉=ヴィオラの伯母であることを、にこやかに教えてくれた。


 ヴィオラは、そんな急に現れた伯母とフランクに会話をし続けている。


「それじゃあ、後輩っていうのは……」

「コルネットとクラリィじゃよ」

「やっぱり! コロラさんは姫騎士だったんだね!」

「そうじゃ。何を隠そう、ワシは初代姫騎士団長じゃからな!」


 衝撃の事実が立て続く、真夜中のアセトン城。

 その謁見の間が驚きに包まれる。


「しょ、初代……なの?」


 ドネオに拘束されたときに雑木林で落としてきてしまった魔導書を、ヘルサに拾ってきてもらったらしいクラリィ。


 彼女は、その魔導書をしっかりと両手で抱えたまま、口をポカンと開け、固まってしまった。


「先輩だったんですね……」


 コルネットさんも、大先輩の登場に動揺を隠せない様子。


 今し方、ドネオの羽が悲惨な最期を迎えたことなんて、もう忘却の彼方のようだ。


「あぁ。なにせ姫騎士団は、ワシが創ったからのう」


 ええええええええ!!? ワシが創った!?


 いや、待てよ……。


 天界城にいた頃、クラリィからそんな話を聞いていたような……。


 僕は、なるべく冷静さを取り戻そうと、落ち着いて記憶の糸を手繰(たぐ)ってみたが、次々と引っ張り出される過去に、有益な情報は1ビットも見つからなかった。


 ただ、二度寝、三度寝、ぐうたらと。


 天界城でスローな人生を謳歌していたかつての幸福が、そこはかとなく(しの)ばれるだけだった。


 そんなストレスフリーな思い出に逃避してしまいたくもなるが、気をしっかりと保たなければならない。


 それにしてもだ。コロラさんの肩書の重さときたらないだろう。


 幼女魔王。

 真の意味での『憤怒(ラース)殺し(キラー)』。

 ヴィオラの伯母=バス王の姉。

 初代姫騎士団長。

 そして、姫騎士団創設者。

 昔の肩書も加えれば、天界城のお姫さまなんてのもある。


 他の追随を許さないスーパーヘビー級の肩書。


 僕の肩書なんて、精々、“天界城の秘密兵器”だけだというのに。


 あっ!


 クリフサイドの一件で、“エンジェルガーディアン・スロー”なんていうのもあったか!


 ……。


 どちらも自分で言っていて切なくなる肩書であることだけは間違いない。


 僕が、遠くをぼんやりと見つめながら、自分の情けなさにプルプル耐えていると。


「コロラさんは天使なのに、どうして羽が真っ黒なの?」と、伯母さんに興味が尽きないヴィオラ。


「これは、ワシが天界城にいたとき、最強を目指しすぎて、もうお前の面倒は見切れんと、堕天させられてしまってのう」


 最強を目指す……? 老人オレゴンと同じ人生の目標だ。


 しかし、天界城で何をやらかしたんだ、彼女は……。


「堕天させられちゃうと、そうなるんだ……」

「あぁ。じゃから、まだ羽が白いくせに、堕天してきたとか抜かすコイツが小賢(こざか)しくて、小賢(こざか)しくて」


 忌々(いまいま)しい、と憤慨(ふんがい)しながら、気絶しているドネオをジオール王に向かって放り投げるコロラさん。


 そして――


「おい、キサマ! キサマも、もう二度と天界城に関わるなよ! 今度見つけたら、お前の大事なモノを……」


 凶悪極まりないオーラを放って、ギリッと威圧的な睨みをきかせながら。


「もぐっ!」と、一言。


 ひいっ、と自らの股間の辺りを隠すジオール王。


「あぁ、そういえばコイツは人間族だから、羽は生えてないんじゃったな」


 と、幼女魔王が独り言を漏らしているが、ジオール王の青()めた表情を見る限り、彼女の脅迫は依然として有効のようだ。


「みんな無事じゃったし、そろそろ城に帰るか」

「コロラさん。ここに侵入するとき、飛竜部隊とかは大丈夫だったの?」

「ハハハ! 面倒なのは、全部オレゴンに押し付けて来たわい。ハハハ!」


 ヴィオラの質問攻撃に対して、白銀の髪を()き上げながら、幼女魔王が満点の笑み。


「じゃあ安心だね! 帰ろう帰ろう!」


 自分の伯母さんにつられたのか、ヴィオラも最高の笑顔。


 ハ、ハハハ……と、上手に笑えない僕。


 前から思っていたのですが……。

 ヴィオラさん……。ちょっと切り替えが早すぎませんか?


 一応その人、魔王なんだよ?


 肩書の重すぎる伯母の出現にも、少しも動揺を見せない豪放磊落(ごうほうらいらく)なヴィオラなのだった。

お読み頂き、誠にありがとうございます。

気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第94話 城内エスケープ』は、明日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。


【お知らせ】

第三章に入ってから隔日で投稿しておりました本作ですが、1月5日までの間、毎日投稿しようと考えております。

年始のことで、ご多忙のところ誠に恐縮に存じますが、お付き合い頂きたくお願い申し上げます。

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