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第92話 幼女魔王の制裁

 

「まっ、魔王だぁーーーーーー!!」


 ドネオが、床に()いつくばって、少しでも幼女魔王のコロラさんから離れようともがいている。


「魔王!? どういうことだ、ドネオ! この女は誰なんだ!?」


 王座からずり落ち、腰を抜かしているジオール王の叫びは、ドネオには届いていないようだ。


拘束魔法(バインド)とは小賢(こざか)しい」


 幼女魔王コロラさんが、スカッと指を鳴らすと、僕たちを縛っていた透明の縄が外れた。


 今、絶対、指パッチン失敗した!


 という発見よりも、僕は、先程のコロラさんの発言に驚いていて、それどころではなかった。


 ……。


 魔王の(めい)っ子って誰のこと!?


「スローたちが森で捕まってヤバそうだったから、助けを呼んできたギギ!」


 魔王の肩から僕の顔面に飛びついてきたヘルサによって、僕の思考が中断される。


「ムグッ……。あぁ! ありがとうヘルサ!」


 ヘルサを引き剥がし、感謝の念を伝えると。


「フフン、オレに任せるギギ!」


 と、ヘルサは、僕の手に摘ままれながら、自慢気にそう言った。


「さっきは雑木林ではぐれちゃったけど、どうやって魔王城まで行ったの? ヘルサって、実は飛べたりする?」

「いや。羽もないのに、オレが飛べるわけないギギ!」

「んん? じゃあどうやって空に浮かんでるアッシュランドまで行ったのさ?」

「それは……。オトコとオトコの、ユージョーの証ギギ……」

「友情の証?」

「詳しくはナイショギギ!」


 ヘルサは両腕で自分の口を(ふさ)いで、ヴィオラの方へ逃げて行ってしまった。


 ええ? ヘルサの友情の証?


 ヘルサの友達……。何それ、超気になる。


 僕がモヤモヤに次ぐモヤモヤを感じて、モヤモヤ、モヤモヤ、心中でモヤモヤのゲシュタルト崩壊を起こしていると。


 コロラさんがドネオの胸倉を掴んでいるのが、僕の視界に入った。


 そして――


「これは(めい)っ子の分じゃ!」と、コロラさんが厳しい平手打ちを一発。


 余程の力が込められていたのか、ドネオの頬にモミジのような赤い跡が浮かび上がる。


「それから、これは後輩たちの分!」と、往復される致命的なビンタ。


 すでにドネオは、首が座っていない赤ちゃんのように、グラグラのグロッキー状態。


 唇なんて、多肉植物のように、ぽってりと腫れ上がってしまっている。


「おい。天界城が取引に応じなかったら、この子たちをどうするつもりだったんだ!」

「ひ、ひゃあ……。ひょれは、俺の子猫ちゃんになってもらおうと……」

「ああん? 子猫ちゃんだぁ?」


 そう(いきどお)ったコロラさんは、ドネオを睨みつけ、彼の背中から勢いよく天使の羽を一枚もいでしまった。


「ぎゃあああああああああ!」


 ドネオの断末魔が、謁見の間に響き渡る。


 しかし、その声量の割には、不思議と血液が一滴も噴き出ていない。


 綺麗さっぱり。なんだか、ポロリと取れてしまった感じだ。


 天使の羽は、どういう仕組みなんだろう……。


「自主的に堕天したとかいう生意気な小僧。今後一切、天界城の者に手を出さぬと誓うか?」


 コロラさんの小さな体つきから、信じられない程、威圧的なオーラが発せられている。


 彼女が『憤怒(ラース)』の厄災と言われても信じてしまうレベル。


「ひ、ひゃいっ! 誓うっ! 誓います!」


 もう一方の羽()しさからか、ドネオは早口で魔王に誓いを立てた。


 すると、一転。


 コロラさんの表情が清々(すがすが)しい笑顔に変わり。


「よし! なら許す!!」


 と、豪快に言い放った後――


 ドネオに残っているもう一枚の羽をもいだ。


「ぎゃあああああああああ!」


 再び上がるドネオの断末魔。


 あれは仕方が無い。


 女性のことを子猫ちゃんとか言っているから、そうなってしまうんだ。


 あれはきっと自業自得だから、僕も気を付けよう。


 間違っても女性を子猫ちゃん呼ばわりしないようにしよう、そうしよう、と強く決心し、僕がみんなに視線を向けると。


 天使族である二人は、“羽をもぐ”という制裁の恐ろしさを想像できてしまったのだろう。


 ひぃっ、とクラリィがその様子から目を背け、コルネットさんも、目をギュッと閉じて見ないようにしていた。


 そんな中――


 ヴィオラは、「おーー……」と、興味津々に、コロラさんの執行する私刑を観察していて。


(めい)っ子? 後輩? 誰のこと?」と、この場で僕と同じ戸惑いを抱えているのは、ピクリンさんだけのようだった。


 よし……。ここは勇気を出して、僕が。


「コロラさん、その……、(めい)っ子とか後輩って誰のことですか? 僕ではないことは確かですけど……。僕は男だし、先輩に魔王がいたって記憶も無いですし……」


 極論、天界城で“ニートに程近い何か”だった僕には、先輩がいた覚えもない。


 あと落ち着いて考えると、いくら僕が、“やるときはやる男”だからといって、一人で魔王を相手にするは、流石に分が悪すぎたかもしれない。


 超怖い。


 だって、魔王。今ドネオの羽、引きちぎったところだし。


 超もぎたて。


 新鮮、生ドネオ。


 僕は、極度の緊張と後悔から、胃がキリキリしてきたので、イチかバチか、ヴィオラとレトから貰った、お守り代わりのブレスレットを撫でた。


 特に健康運アップの紋章の上を重点的に。


 あれ……?


 こっちが子宝運アップだっけ……?


 僕がさらなる不安の増加に、胃の痛みを深刻化させていると。


「ん~? (めい)っ子かぁ? ほれ、そこにいるじゃろ? ワシの可愛い(めい)っ子が」


 その視線の先には――


「オレじゃないギギ!」


 と、騒ぐヘルサを肩の上に乗せて――


「えっ? あれっ? 私?」


 と、ぱっちり開いた碧眼に困惑の色を浮かべている美少女。


 ヴィオラがいた。

お読み頂き、誠にありがとうございます。

気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第93話 肩書の重み』は、明日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。


【お知らせ】

第三章に入ってから隔日で投稿しておりました本作ですが、1月5日までの間、毎日投稿しようと考えております。

年始のことで、ご多忙のところ誠に恐縮に存じますが、お付き合い頂きたくお願い申し上げます。

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