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第91話 本日二度目の謁見の間

 僕たち一行は、現在、謁見の間に立たされている。


 本日二度目の謁見の間ではあるが、場所は先程の魔王城ではない。


 ここは、アセトニド王国。

 王都アセトンに(そび)えている、アセトン城内の謁見の間である。


 目の前には、国王ジオール。

 そして、その隣に天使族のドネオが控えている。


 今は子猫ちゃんたちの姿はない。今は就業時間外なんだろう。


 では、なぜ僕たちが、突然こんなところに呼び出されているのか。


 それは、日を改めるため、僕たちが魔王城から撤退を余儀なくされ。


 渋々、出発地点である、あの雑木林まで帰ったところまで(さかのぼ)っ……たりは、特にしないのである。


 そこで驚くようなことは、別段、何も起こらなかった。


 特筆することが全く無い森の中で、唯一の異変を挙げるとするならば――


 ドネオが僕たち全員に、拘束魔法(バインド)とやらをかけてきたことぐらいだろうか。


 あらかじめ剣聖イチノセには知らされていたのか、彼は終始瞑想(めいそう)モードで、ドネオの狼藉(ろうぜき)を黙認していた。


 いや、もう。ほんとに、ドネオとは関わり合いになりたくなかった……。


 これら一連の冷静を装った恨み節は、ドネオに対する憎さと、悔しさで、ついさっき起こった危難を思い返したくなかったからである。


 いや、もう。ほんとに、最低。

 アセトニド王国の人たち、酷すぎる。


 目に見えない魔法の縄で縛られている僕が、“気を付け”の状態で、そんなことを考えていると。


「いや、もう。ほんとに、済まない!」


 と、僕の心の中を透かし見たかのように、ピクリンさんが謝ってきた。


 ちなみにではあるが、アセトニド王国側の人間である彼女も今、僕たちと同じ体勢で拘束されている。


 ……なんで?


 僕は疑問を押し殺して、「まぁ、仕方ないよ」と、彼女に精一杯の寛容を示した。


 相変わらず、両腕を下ろした状態で固められている僕たち。


 右手が自由に使えたら、堕落のスキルで、なんとか現状を切り抜けられるかもしれないのに……。


 なんてことを僕が考えていると。


 クラリイも似たようなことを考えていたようで。


「魔導書に触れられたら、こんなやつら一撃で吹き飛ばせるのに」


 と、鬼の形相で呟いている。彼女は、なかなかに好戦的である。


 そして、その横では――


「回し蹴りなら、一度に二人……。いや、一人を蹴り飛ばして、もう一人にぶつけるというのは……」


 と、能面のような無表情で、ブツブツと呟いているコルネットさん。


 彼女は好戦的どころの話ではない。


 加えて、かなり怒っているのか。目にハイライトが宿っていないので、とても怖い。


 そんな中、ヴィオラはというと。


「わぁ~! 私、拘束魔法(バインド)なんてかけられたの初めてだよ~! ねぇ~、レトちゃん!」と、ご機嫌な様子。


 そして、そう声を掛けられたレトは、立ったまま寝ていた。


「立って寝てるレトちゃんも可愛い……。器用……」と、メロメロ顔のヴィオラ。


 彼女は、キューンという擬音が聞こえてきそうなくらいに、幼いアマゾネスの女の子に骨抜きにされてしまっている。


「そっちの二人は、ちょっとリラックスしすぎなんじゃないか……?」と、ピクリンさん。


 僕も同意見である。


 あと、今気づいたけど。


 もしかすると、レトには僕の自堕落スタイルの正統後継者としての素質があるのかもしれない。今度、色々な技を伝授してみよう。


「おい! お前ら、国王さまの前だぞ! 大人しくしとけ! あんまり騒ぐようだったら、拘束魔法(バインド)の力を強めて痛くするぞ! ……こんな風にな!」


 ドネオが何か言っていると思ったら、突然ピクリンさんが(うめ)きだした。


「ぐああああああああっ!! なんで私ぃいいいいいいっ!?」


 ピクリンさんが背筋を伸ばし、姿勢を正したまま、苦悶(くもん)の表情。


 透明の何かに身体を締め付けられ、彼女の比類なき巨大な胸が、ググイッと突き出される。


 その動きに合わせるように、ドネオの欲深き鼻の下が、ググイッと伸ばされる。


「ドネオ、もうよい。そろそろ天使さま御一行と話をしようではないか」


 突然、ドネオの乱暴な仕打ちを見ていたジオール王が口を開いた。


 すると、ピクリンさんの声が鎮まり、さっきまで強調され、圧倒的な主張力を有していた彼女の胸が、圧倒的な主張力を失わない、いつも通りの胸に戻った。


 ジオール王は、偉そうに王座に深く腰掛けながら、「まず君たちには、我々が天界城と交渉する上での取引材料になってもらう」と、冷たい声。


 僕の記憶によると、かなり前の段階から、このアセトニド王国は、天界城と取引をしたがっていたはずだ。


「今、地上は荒れておってな。いくら拒まれたとしても、いい加減、天界からも兵力を出してもらわないと困るんだ」

「それで、僕たちを人質にするつもりですか」

「あぁ、そうだ」

「それでは、何故私も拘束されているのですか!」


 ジオール王と僕の会話の中、ピクリンさんが鋭い語気で王に迫った。


「それは、お前が天界城側のスパイである可能性があるからだよ、ピクリン」


 ドネオが嫌らしい笑みを浮かべて、そう口を挟んできた。


「私は、そんな……。スパイなんかじゃありません!」


 ピクリンさんは、ドネオを無視し、ジオール王に向かって、そう弁明した。


 ジオール王は、ふむ……、と言って口を閉ざした。


「ジオール王さま。約束通り、もし天界城との交渉が上手くいかなかった場合、俺は、この中の子猫ちゃんたちを好きにさせてもらってもいいんですよね? 一生可愛がってもいいんですよね?」

「……好きにしろ」


 ジオール王の返答を聞き、グヘヘヘと、露骨に気持ちの悪い声を漏らすドネオ。


 そのとき――


「……ギギッ」


 窓の外から聞き覚えのある声が聞こえた気がした。


「……ここらへんギギ!」


 気がしたわけではない。


 今、本当に聞こえた。そう確信の持てる、はっきりとした声。


 ……ヘルサか?


 声のしてくる方向を僕が見上げた、次の瞬間――


 爆発音。


 天井から、パラパラと細かい壁の破片が落ちてくる。


「なんだ!? 一体何が起こった!?」


 砂煙が薄まる中。


 ジオール王の眼前に立っていたのは。


「よお、スロー! 助けに来たギギ!」


 ヘルサを肩に乗せた――


「おうおう、キサマら……。よくもワシの姪っ子たちに、こんなマネをしてくれたなぁ! 許さんぞ!」


 怒りの影響か、それとも(ほとばし)る魔力の影響か。


 白銀の髪がふわりと逆立っている、幼女魔王。


 コロラさんだった。

お読み頂き、誠にありがとうございます。

気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第92話 幼女魔王の制裁』は、明日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。


【お知らせ】

第三章に入ってから隔日で投稿しておりました本作ですが、1月5日までの間、毎日投稿しようと考えております。

年始のことで、ご多忙のところ誠に恐縮に存じますが、お付き合い頂きたくお願い申し上げます。

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