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第88話 勇者 vs 魔王

 

 ここは魔王城の謁見の間。


 これから魔王が現れるということで、さっきまでガチガチに緊張していたはずなのに。


 かなり長い時間待たされて、僕がいい加減うんざりし始めたときのことだった。


「ねぇねぇ、スロー。なんか遠くで金属みたいな音しない?」


 僕のすぐ隣で、耳を(そばだ)てているクラリイ。


「金属? なんだろう……」と、僕も耳に意識を集中させてみる。


 ……確かに。


 閉め切られている巨大で重厚な扉の向こうから、剣と剣が触れ合っているような、高く、鋭い音が、(かす)かに聞こえてきた。


「ね?」

「ほんとだ。誰かが戦ってる……とか?」


 僕とクラリィの会話を、近くで聞いていたヴィオラが、同じく耳に手を添えながら、「う~ん。誰だろう。怖いねぇ。侵入者かなぁ……」と、ポツリ。


 一応、僕たちも侵入者なんだけど……。


 しかし、この小言は口に出せない。

 ヴィオラには逆らってはいけないから。


 僕が、そんなことを考えていると――


「んん? なぁ、みんな。この音、なんか段々近づいてきてないか?」


 そうピクリンさんが言うように、聞き耳を立てなくても分かるようになった、荒々しく、激しい剣戟(けんげき)の音。


「もう、すぐそこまで来てます……」


 と、不安そうにコルネットさんが呟いた、その瞬間――


 一際大きな、金属が弾ける音と共に、分厚い扉を突き破って老人が吹き飛ばされてきた。


憤怒(ラース)殺し(キラー)』だと思われる老人は、そのまま床に仰向けになり、ピクリとも動かない。


「お爺さん、大丈夫……?」


 ヴィオラが老人のそばにしゃがみこみ、気を失ってしまった老人を心配している。


 もちろん老人からの返事はない。


「何か……近づいてきます」


 コルネットさんは、そう言うと、達人のはずの老人を気絶させてしまう程の存在から僕を(かば)うように、一歩前に出た。


 謁見の間に、緊張が走る。


 ボロボロに崩れた扉の向こうから、何者かの気配を感じる。


 すると――


「ハハハ! まだまだじゃな!」


 破片となった扉の隙間から、一人の幼女が姿を現した。


 その笑顔には幼さが残っているものの、目鼻立ちの整った顔付き。

 白銀の髪の毛が腰まで伸びており、その毛先が触れている腰には、先の尖ったレイピアが装備されている。


 そして何より。


 その背中からは悪魔のような漆黒の羽が生えている。


「あっ! お爺さん、起きた!」


 ヴィオラのそばで白目を剥いていた老人が、ようやく黒目を取り戻し、むくりと起き上がって、開口一番。


「まだだ、魔王! まだ奥義が残っているぞ!!」


 えええっ!? この子が魔王なの!?


 意外な魔王の姿に、僕が心の中で驚愕していると。


 老人が、その場にゆらりと立ち上がり、手にしている木製の杖に薄くオーラを(まと)わせて。


「今日こそ仕留めさせてもらう!!」

「早う来い! いつでも来い! 今来い!」

「奥義……」


 そう言って、だらりと脱力し。


「凪」


 消えた。


 息をするのを忘れるくらいの静寂。


 そんな完全なる無音の世界に、「ハハハ! これは中々じゃな! 愉快愉快!」と、幼女魔王が楽しそうな声を上げた。


 彼女の眼前には、いつの間にか瞬間移動していた老人の姿があった。


 全く音がしなかった。


 しかし、僕が気付いたときには、老人の放った奥義は、すでに彼女のレイピアによって受け止められていた。


「なんだ今の。斬撃だったのか? 風や音すら起きなかったぞ」

「真の達人は、本当に必要なものだけを斬る。そして今の技は――」


 不思議がるドネオに、強さに貪欲な剣聖イチノセが長々と……いや、懇切丁寧に解説をしている。


 しかし、だ。


 それに対する、あのドネオのポカンとした表情。

 あの顔は、絶対にイチノセの説明を理解していない顔だ。心ここにあらずの顔。


 そんな中。


「百年近く戦ってきて、まだ技の種類があったとはのう」

「先程、思いついた」

「ハハハ、器用器用! じゃあ次はワシの番じゃな! ゆくぞ勇者オレゴンよ!」


 魔王が心躍る口調で、老人にそう言うと。


 ググっと深く腰を落とし、細長いレイピアを構えて――


 一閃。


 フルスイングした。


 それも、超大振りの。


 えーーーー!? それ、絶対にレイピアの使い方じゃないから!!


 っていうか、その足腰の使い方……。


 プロのスラッガーかな?


 ……。


 いや、勇者オレゴンって誰!?


 まさか、あの老人がそうなの!?


 感情が追い付かない程、目まぐるしく展開していく異常事態に、完全に当惑してしまっている僕の横を。


「ぐわぁーーーーっ!!」


 いくらオーラを纏っていても細い杖では魔王の攻撃を受け止めきれなかったのか、再び吹き飛ばされていく老人。


 レイピアって、確か刺突する剣じゃなかったっけ……。


 と、老人ではなく、まるで棍棒のように酷使されたレイピアの耐久力の方を、僕が心配していたら。


「コラッ! お年寄りには、優しくしないとダメだよ?」


 ヴィオラが、“のじゃロリ”魔王を叱りつけた。


「止せ、ヴィオラ……。あいつ怖いもの知らずかよ……」


 ピクリンさんが瞠目(どうもく)し、信じられないといった表情。


 すると――


「ハハハ! こう見えて、ワシの方がアイツよりもお年寄りなんじゃよ?」

「なんだ、そうだったんだぁ~! じゃあ大丈夫だね!」


 いや、大丈夫じゃない。


 全然大丈夫じゃないよ、ヴィオラ。


 目の前にいるのは魔王なのに、多分勇者負けちゃったよ、ヴィオラ。


「んんん~? どうも、お主とは初めて会った気がせんなぁ。名はなんというのじゃ?」

「私、ヴィオラって言います! 天界城から来ました!」

「なんと天界城から! あんな遠いところから、ご苦労なことじゃ。ワシは、この城の主コロラ。よろしくのう」


 仲良くなっちゃった!?


 気付けば自己紹介をし合っていた、二人の少女たちを眺めながら。


 もうこれ以上、何が起きるの!!


 と、心拍数が高まりきった僕は、次の展開が全く予想できずにいたのだった。

お読み頂き、誠にありがとうございます。

気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第89話 あなたの肩書を教えて』は、明日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。


【お知らせ】

第三章に入ってから隔日で投稿しておりました本作ですが、1月5日までの間、毎日投稿しようと考えております。

年末年始、ご多忙のところ誠に恐縮に存じますが、お付き合い頂きたくお願い申し上げます。

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